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第5回「電子投票におけるトラブルの考察」

1.電子投票の実施例

 平成13年12月に「電磁記録投票法(地方公共団体の議会の議員及び長の選挙に係る電磁的記録式投票機を用いて行う投票方法等の特例に関する法律)」が公布されて以来、新見市をはじめとして、10地域16選挙で電子投票が実施された(平成17年8月現在)。人口一万人未満の町村から20万人強の市まで、全国で幅広く行われている(下表参照)。
 しかし、これらはすべて順風満帆に行われてきたわけではない。規模の大小はあるがトラブルもあった。結果として電子投票の導入を検討する市町村に対して多少なりとも影響を与えたことも否定できないだろう。
 本稿は、これまでに行われた電子投票の事例において発生したトラブルについて考察し、今後の電子投票の普及と、更なる信頼性の向上に繋がることを期待するものである。

地域名 対象選挙 有権者数 実施時期 備考
岡山県新見市 市長選挙
市議会議員選挙
19,381 H14.6.23 電子投票普及協業組合
広島県広島市(安芸区) 市長選挙 58,748 H15.2.2 電子投票普及協業組合
宮城県白石市 市議会議員選挙 32,274 H15.4.27 東芝ソリューション
福井県鯖江市 市議会議員選挙 51,337 H15.7.6 電子投票普及協業組合
岐阜県可児市 市議会議員選挙 72,144 H15.7.20 富士通/ムサシ
福島県大玉村 村議会議員選挙 6,637 H15.8.3 NTT東日本
神奈川県海老名市 市長選挙
市議会議員選挙
94,873 H15.11.9 NTT東日本
青森県六戸町 町長選挙 8,917 H16.1.18 電子投票普及協業組合
京都府京都市(東山区) 市長選挙 35,667 H16.2.8 電子投票普及協業組合
岡山県(新見市) 県知事選挙 19,155 H16.10.24 電子投票普及協業組合
宮城県白石市 市長選挙 32,776 H16.10.31 東芝ソリューション
三重県四日市市 市長選挙
市議会議員(補)
228,658 H16.11.28 電子投票普及協業組合
青森県六戸町 町長選挙 8,852 H17.6.12 電子投票普及協業組合

2.発生したトラブル

(1)電子投票のトラブル事例

 これまでに行われた電子投票では以下に示す内容のトラブルが起こっている。これらの地方選挙における電子投票は、国政選挙など様々な選挙における電子投票の実現に向けて、確かにトライアルとしての意味合いもあるだろうが、地方・国政を問わず選挙というものの性質上、ミスやトラブルが容認されるわけではない。
 いくつかのトラブルは結果としてマスコミを賑わせ、司法の場で係争中のものもある。

電子投票導入の手引きより抜粋
  • 投票機が投票カードを読まなくなった
  • 投票カードの発券機の操作手順の誤りにより投票開始が遅れた
  • 選挙人からゼロ票確認を受けることなく、投票機を投票可能状態にした
  • 複写用記録媒体に投票データが記録できなくなった(原本は正常)
  • 選挙人が投票中に画面が先に進まなくなった
  • 選挙人が投票カードを挿入口に強く押し込んだため、カードが詰まって返却されなくなった
  • 投票データを記録するMOユニットの過熱によりサーバが停止し、一時的に全投票所で投票機が投票できない状態となった
  • 投票カードが使用不能になった
  • 投票端末と投票データを記録するサーバ間の回線接続不良によりサーバが一時的に停止した
  • 選挙人がカードを挿入した際に電子投票機が故障し、投票できなくなった
  • 記録媒体に不要なデータが入っていたため、投票機が立ち上がらなかった
  • 選挙人がカードを挿入した際にエラーが表示され、挿入できなくなった
  • 投票開始前に投票機が故障し起動できなかった

 しかし、重要なのはこれらを反省して次にいかに繋げるかである。経験を積むことによってより良いものとなっていく。検証することはもちろん必要なことだが、たとえば、トラブルが起こった時に担当していた特定の業者(ベンダー)や自治体の担当者を叩くというだけでは問題は解決しない。大事なことは、これらの事例の良かった点、そうでなかった点から何を学ぶかということである。決して人や組織の「責任追及」だけに終始すべきではなく、『原因』を追求して同じトラブルを起こさないことの方が何倍も重要なのである。

(2)発生したトラブルの類型化

 前述の発生したトラブルを類型化してみる。件数だけを見ると機械の故障によるものが多く、作業手順等の人的なミスによるものが続く。
 これらのトラブルがまったく起こらないようにすることはもちろん必要なことである。しかし、どんなに精密に作っても障害発生確率0%のものが出来上がるとは言い切れないのがコンピュータシステムである。電子投票法に定める電子投票システムが具備すべき8つの条件はもとより、「電子投票システムに関する技術的条件」を満たしたシステムであっても、故障等の発生件数が未来永劫ゼロ件であるということは、理想ではあっても実現するのは極めて困難である。
 重要なのは、これまでに発生したトラブルを踏まえ、システム上、あるいは運用上で起こり得る問題を限りなくゼロに近づけるとともに、故障や操作ミスなどが起こってしまった場合に、選挙の執行に影響を与えないように運用面でカバーする体制を事前に整えておくことである。

機械の故障によるもの投票機が投票カードを読まなくなった 複写用記録媒体に投票データが記録できなくなった(原本は正常) 選挙人が投票中に画面が先に進まなくなった 投票カードが使用不能になった 選挙人がカードを挿入した際に電子投票機が故障し、投票できなくなった 選挙人がカードを挿入した際にエラーが表示され、挿入できなくなった 投票開始前に投票機が故障し起動できなかった
作業手順等の人的なミスによるもの投票カードの発券機の操作手順の誤りにより投票開始が遅れた 選挙人からゼロ票確認を受けることなく、投票機を投票可能状態にした 記録媒体に不要なデータが入っていたため、投票機が立ち上がらなかった
想定外の操作等による故障によるもの選挙人が投票カードを挿入口に強く押し込んだため、カードが詰まって返却されなくなった
投票システムの整備または運用等に理由のあるもの投票データを記録するMOユニットの過熱によりサーバが停止し、一時的に全投票所で投票機が投票できない状態となった 投票端末と投票データを記録するサーバ間の回線接続不良によりサーバが一時的に停止した

3.現行制度の課題 〜第1段階における課題〜

 記事「法制度からの考察」に示したように、電子投票システムは、法律に定める8つの具備すべき条件を満たすことが必要であり、同時に技術的条件をクリアすることが求められる。しかし、現時点では、これらの条件を満たしているかどうかについては、導入する市町村の判断によるのだ。
 もちろん、電子投票システムを開発している各ベンダーも、これらの条件をクリアすることは必須として捉え、様々なテストを行って検証しているであろうが、はたしてそのシステムが十分に信頼性や堅牢性を確保しているということを全ての地方公共団体が判断できるであろうか?地方公共団体が自ら判断できずして開発ベンダーの言うがままを信じるのでは、地域の有権者もシステムに対して信頼を置くことはできないであろう。
 問題は「システムの信頼性の保証」をどのようにして得るかということである。まずはその点を確保することが最初のステップである。
 そのためにはやはり、米国におけるNASEDやITA(記事「世界の電子投票」を参照)のように、電子投票のシステムに対して、「間違いなく条件を満たしている」と示すことのできる公の認定機関や認定制度が必要になる。
 そして、機械の信頼性向上とともに、トラブルが起こってしまった場合に対応すべき復旧手順など、運用面でいかにカバーすべきかを事前に想定し、事務従事者が相応の訓練を積んでおくことが求められる。
 電子投票の更なる普及は「信頼性」をいかに高めるか、という一点に掛かっていると言っても過言ではないのだ。

研究員 鹿戸敬介

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