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BRICs PredICTion
2009年5月掲載

総選挙に沸くインド、ICTは「Change」のパワーとなるか?

 米国では2008年秋に大統領選挙が行われ、オバマ新政権が発足した。選挙期間中、オバマ氏ほか候補者らが、FacebookなどのSNSやショート・メッセージング・サービス(SMS)を駆使したキャンペーン活動を展開し、支持率アップに取り組もうとしていたことは広く知られている。ICT技術が選挙という政策的イベントに影響を与えうるものとなったひとつの例といえるだろう。

 現在インドでは、日本の衆議院議員選挙にあたる下院議員選挙が全国で行われている。インド全土を500以上の選挙区に分け、4月16日から5月13日まで、およそ1ヶ月かけて投票を実施する。5月16日に開票、議席が確定するが、首相(※)は第一党から選出されるため、与党である国民会議派、最大野党であるインド人民党をはじめ、各党は選挙活動に必死の状態である。

※首相:事実上の最大権力者。現首相はマンモハン・シン氏

ICTで情報収集

 総選挙に先立って、Google Indiaが、選挙向けポータルサイト「Google India Election Centre」を開設した。このサイトでは、「かしこい有権者になろう(Be an Informed Voter!)」というキーワードのもと、選挙関連ニュースや候補者のプロフィール、投票所の地図などが閲覧できるようになっている。

 ポータルサイトなどを通じた情報提供はほかにも出ており、トータル・サービス・プロバイダのTataは、モバイル付加価値サービス「Election 2009」を発表、ユーザにSMSで総選挙関連ニュースや候補者のプロフィールを配信する。さらには、Tataのモバイルポータル「Tata Zone」上で、選挙管理委員会からの情報や選挙スケジュール、はては候補者の資金力やセレブ候補者情報まで閲覧できるようになっている。ここまでくると、「かしこい」を通り越して、半分ゴシップなのではないか、といぶかりたくもなるが…。

 SNSについては、インドでも大変人気のサービスであるものの、米国のように候補者がSNSを通じてプロモーションをする例は特に聞こえてこない。理由はいくつか考えられるが、下院議員選挙という性格上、アピール対象となる有権者が選挙区内のユーザに限定されるということ(米国の大統領選のように、候補者が広く国民にアピールする性質のものではない)や、候補者がSNSをひとつのメディアとして認知するにいたっていない(もしくは使いこなせていない)ことがあるかもしれない。とは言え、今後はインドでも、SNSを使いこなす“新世代”の候補者が少しずつ出てくるのではないかという気はする。

 ICTのパワーで有権者が必要とする情報を集約的に提供し、役立ててもらおうという機運が、インドでもこのように少しずつ育ちつつある、と言ってよいかと思う。
ところで、Tataでは今回の総選挙に合わせ、ユーザのCRBT(カラーリングバックトーン)に選挙関連ソングを流すサービスも提供している。ユーザが支持する政党や候補者のテーマソングを選んでCRBTに設定できるということのようであるが、なんとも音楽好き、お祭り好きな国民性が垣間見えるサービスである。

3Gオークションは先送りに

 ところでインドでは、携帯電話の3G(3rd Generation;第三世代)サービス免許のオークションが今年1月に実施される予定であったが、実施が延び延びになっており、現時点でもまだ開催されていない。その理由については、例えば通信関連の監督機関であるDoT(Department of Telecommunications)と規制機関TRAI(Telecom Regulatory Authority of India)との間の軋轢であるとか、電波監理官庁との調整に時間がかかっているためであるとか(電波の軍事利用と民間利用との調整に手間取っているという説がある)、さまざまな憶測がなされているのだが、「関連省庁が下院選挙の準備に手いっぱいで、総選挙が終わるまでは3Gオークションどころではないから」という見方もある。

 実際、今回の総選挙は、今後のインド経済・外交の行き先を左右しうる、インド国民にとって重大な決断であると同時に、ある面では“お祭り的なイベント”であり、またある面では複雑な多様性のバランスの上に成り立つ<インド>という国の危うさ、もろさが露呈しかねない危険をはらむものでもある。政府関係者が過敏になるのも無理はない。

 インド選挙管理委員会は、4月13日の第1回投票日から5月16日の開票日までの間に投票日を計5回設け、<○月○日は△△州の投票日>といったようなぐあいにスケジュールを分散させている。この投開票まで1ヶ月もかける理由は、全国に散らばる投票所(80万箇所とも言われる)を警備するために、治安部隊を順々に移動させなければならないためなのだそうだ。特に治安が不安定な国境付近では、ゲリラが投票にやってきた地元住民を「非国民」だとして殺傷する事件も過去に発生している。なんともきな臭い話であるけれども、政治・外交的に微妙なバランスを保ちながら成り立っているインドという国の、デリケートな一面をうかがい知ることができるだろう。

 ICTを選挙活動に応用し、有権者一人ひとりの票を少しでも有効に国政へ反映させようとするこころみが、何らかの結果として現れるのだろうか。そして、3Gオークションに進展は見られるのだろうか。5月16日の開票結果と、その後の政策展開が気になる今日この頃である。

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