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2011年7月1日掲載

London Report(5) 英国の都市交通とICT

NTT Capital(U.K.) 岩田 祐一
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ロンドンの地下鉄と2階建てバス ロンドンの交通の足、として、真っ先に思い浮かべられるものは、恐らく、地下鉄と、2階建てバスではないかと思います。
 地下鉄は「Underground」もしくは「Tube」と呼ばれて親しまれており、現在12路線を有しています。一方、バスはこれまた、網の目のような路線網を有しており、「地下鉄では乗り換えが不便でいきづらそうだなぁ/地下鉄の駅から遠そうな目的地だなぁ」と思われるところには、たいがいフリークエントなバス路線がある、といった塩梅です。共にロンドン交通局(Transport for London)の管轄下にあります。
 実はこれら両方とも、同じ「Oyster Card」という、日本でいうSuica / Pasmo / IcocaのようなICカードで乗車できます。そしてこのOyster Cardは、ロンドン近郊においてのみですが、旧国鉄である「National Rail」でも利用でき、このCard一枚あれば、ロンドン近郊までの一帯をほぼ問題なく、動けるという優れものであります。購入も5ポンドから可能であり、観光目的の滞在にも便利(1日等のフリー乗車券を乗せることも可能)なものとなっています。日本同様、定期券としても利用できます。

 ここまでは、日本の各都市圏とも似た状況でありますので、特段驚くことはないかもしれないのですが、日本にはないいくつかの特色があります。ここでは3つほど挙げてみたいと思います。

 1つめは、地下鉄とNational Railの運賃が共通である、ということです。National Railは、運行を委託されている会社が何社かあり、方面別に異なる鉄道会社の運営とはなっています。ただ、これら各社もふくめた形で、1つの鉄道運賃制度となっており、しかも「ゾーン制」を採用していることから、運賃計算が簡素であり、より便利に利用できる仕組みとなっています。(ただしこの採用が可能な1つの背景として、鉄道経営に公的補助が無視できない規模で寄与している、ということがあるかもしれませんが・・・)
この仕組みは、思わぬ際にも利便性を発揮します。それは、ややもすると頻発しがちな「ストライキ」もしくは「信号トラブル等による運転中止」時に、容易に別路線への振り替えが可能、という点です。特に定期券利用者は、定期運賃でバスも利用可能となっているので、地下鉄・National Rail・バスを気軽にスイッチングして利用できることとなります。

 2つめには、Oyster Cardに関して、オンラインでのチャージや定期券更新が極めて容易にできる点です。クレジットカード・銀行デビットカード(共に基本、英国内発行のもの)を、ロンドン交通局サイトでオンライン登録しておきますと、ウェブ上で、オートチャージの設定、随時チャージの設定、定期券の更新(新規購入は不可)が、簡単にできます。カードは、最初に住所確認(英国の場合はカード支払情報登録時に、カード会社保有の住所情報との照合をするサイトが少なくありません)が行われ、また、利用の都度、クレジットカード会社サイトに遷移しての本人確認(暗証記番号入力)が行われるので、セキュリティとしても一定以上のものとなっています。

 3つめには、地下鉄・National Rail・バス共通して、当該駅・停留所にて、発車予定時刻がリアルタイムで更新・表示されることです。これは、特に遅れの多いときには重宝しまして(英国では日本のような秒単位での定刻運行は稀。数分単位で守られれば十分合格点、といったところ)、臨機応変に、最適のルートを考えることができます。例えば、A駅からB駅へのルートが3通りあった場合、A駅で、それぞれの掲示板を見て、最も速そうな(遅れの少なそうな)ルートを選ぶことができる、といった形です。

 英国の都市交通機関には、さまざまな設備の古さなどを、ICTの活用で補おう、という発想が根強い感があります。
鉄道のチケットも、(窓口や古ぼけた自動券売機にかわり)オンラインでの購入が推奨されています(オンラインのほうが、比較的近場も含めて、一般的に価格も安い)。
 また、ロンドン交通局のサイト上でのルート検索<では、地下鉄・National Rail・バスのほか、船・徒歩・自転車(!)も含めて出来るようになっており、都市交通をトータルに、ICTでカバーしていこう、という、同局の取り組み姿勢が強く感じられるところです。
なお、ロンドン地下鉄の初乗り運賃は、4ポンド(現在のレートで約520円!)と信じられないぐらい高価ですが、Oyster Cardを使うと、1.9ポンド(約250円)と、日本の地方都市の地下鉄にかなり近づきます。こういったところにも、ICT化推進のインセンティブが垣間見えるところです。
これらの背景には、上記の発想のみならず、人種の多様さや観光客・ビジネス客の多さへの対応、トラブルその他への危機管理的視点、そして欧州各大都市間のプレゼンス競争での優位性確保、といった都市経営的な戦略も見え隠れします。

 次回は、電子書籍・電子教科書を取り上げたいと思います。

この記事は、社外の方より投稿いただいたレポートです。 内容に関して情報通信総合研究所は責任を負うものではないことをあらかじめご了承ください。

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