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2011年7月22日掲載

London Report(6) 電子書籍・電子教科書

NTT Capital(U.K.) 岩田 祐一
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伝書書籍を読む女性(ロンドン) ロンドン中心部から郊外に向かう帰りの通勤電車・・・筆者の目では、およそ10名に1人前後は、電子書籍に目を通しながらの帰宅の光景に映ります。それほど、電子書籍は違和感のない存在として、日常風景に溶け込んでいる感があります。

・・・携帯にしてはやや大振り、ノートPCほど多機能ではない、厚みはそれほどでもないが、全くかさばらないかといえばそんなことはない・・・ そういった電子書籍ツールが、それなりに普及している背景として、筆者が感じている理由が大きく2つほどあります。

1)「手軽」に読める「出版」ツールとしてのアドバンテージ

 日本では、通勤・通学時のお供たる「出版」ツールとしては、文庫本・新書・マンガ単行本などが挙げられるでしょうか。しかし英国では、これらに相当する「出版」ツールは、日本ほどの広い支持を得ていないように見えます。その理由としては

  1. 英語は横書きで、一単語あたりの文字数も日本語より多めであるため、縦書き+漢字活用で、コンパクトサイズ化を達成してきた日本語の「出版」ツールと同等サイズのものを出版しようとすると、濃い内容を簡素に記述するためのより一層の工夫がより伴う必要有り。

    (もともと文庫・新書は、ここ英国のPelican Books(現在のPenguin Booksの源流)他、欧米の各種Paper Backsを参考に成長してきたといわれていますが、日本では、日本語の利点をうまく活用しながら、読者の興味・関心にあわせて、独自の展開を遂げてきたといっても良いでしょう)

  2. 更に、紙質(薄さ・めくりやすさ)において、不便がある。また製本スタイルも異なり、綴じ代が硬めとなっているため、車内でしっかりと見開いてめくっていく、ということがやや難しい。

    (日本における「出版」ツール多様化には、各種出版用途に適した製紙・製本技術の弛まざる革新が貢献してきたといって良いでしょう)

といったところでしょうか。
従って、いつでもどこでも「手軽」に「出版」物に目を通したい、というニーズに対し、電子書籍がフィットしている度合いは、日本よりも英国におけるほうが高いと感じられます。

2)多言語対応・多冊数対応

 特にここロンドンでは、もともと英語を母国語としない人々が多く住んでいます。

(10年前の国勢調査データでは、欧州外出身の、いわゆるエスニック・マイノリティと括られる人々の割合が、グレーター・ロンドン(ロンドン都市圏)の1/4にのぼる、との結果がありました。尚、今年実施された最新の国勢調査は、現在データ集計中)

 私の通勤時も、特に帰路、スペイン語・イタリア語といった他の欧州言語のほか、ハングル・中国語などアジア言語を耳にすることが多々あります(日本語もごくたまにあります・・・)。そうした人々にとっては、業務や日常生活で必要とされる英語ベースの出版物のほか、プライベートライフの充実につながる、母国語での出版物も貴重なソースです。
 なお、ロンドンに限らず、欧州全体、特に都市部においては、商用・留学その他での他国からの長期滞在者、あるいは他国からの移民流入などにより、マルチリンガル対応が求められる状況は同様です。従って、マーケットベースとしての電子書籍のニーズは、日本で想像するよりもはるかに大きい可能性がある、といえましょう。
 また、関連して見逃すことが出来ないのは、都市部を中心とした、(老若男女問わぬ)根強い学習熱であります。特に、他国出身の長期滞在者・移民などにとっては、資格取得その他による「自己啓発」は、生きる術としても必要であり、通勤・通学時間帯の混雑する電車の中、分厚いテキストに熱心に目を通している人々の数も少なくありません。こうした手軽な持ち運び手段としての電子書籍ニーズも、しっかりと存在します。

電子教科書 ここまでは、電子書籍の普及に関する考察でしたが、同様の背景は、初等教育を中心とした電子教科書の普及熱にも当てはまるかと思います。
子供たちに電子教科書、というと、何となく高価なイメージがありますが、上に挙げた要因以外にも、英国でみる限り、紙が日本よりも全般的に単価が高価であること、また、教科書が一般的に貸与(年々使いまわし)であることなどから、学校の資産としての耐久性などを考慮すると、電子教科書の導入は、決して捨象すべき選択肢とはいえません。
更には、学校間・地域間の競争の激しさ(競争原理を持ち込むことで、学力レベルの底上げを図りたい、ひいては「人は宝」として、国力の増強につなげたい、という当局の意思)も、より効用の高い学習ツールへの傾斜、そして電子教科書への期待の1つの背景となっています。

 次回は、街中そのほかで手軽なアクセスが可能な、Wi-Fi(無線LAN)を取り上げたいと思います。

この記事は、社外の方より投稿いただいたレポートです。 内容に関して情報通信総合研究所は責任を負うものではないことをあらかじめご了承ください。

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