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投稿レポート
2012年8月13日掲載

London Report(9) 
日英インターネット利用スタイルの違い

NTT Capital(U.K.) 岩田 祐一
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オリンピックとインターネット

ロンドンオリンピックが無事閉幕しました。
五輪とタワーブリッジ開催前は、「今一つ盛り上がりに欠ける」「通勤の妨げになる」といった声もあがっていましたが、終わってみれば、英国勢の日々の活躍も、事前の期待を上回るなど、人々の印象に残るシーンが多かったからか、全般的には盛り上がった感があります。
とはいえ、街中がオリンピック一色になることはなく、夏のイベントの1つとして、溶け込んでいた感を受けています。

こういったなか、やはり、日向に陰に活躍したのは、インターネットでした。
BBCでは、放映権を持つ各競技のうち、テレビチャンネルで放映しない競技について、国内限定でインターネット(BBC iPlayer)を通じて映像を流しました。BBCは複数のチャンネル(BBC1、BBC3 他)を活用して、極めて幅広い競技をカバーしていたものの、複数会場で同時進行される競技の全てを流すことはさすがに出来ず、特に、英国選手の活躍が薄い競技を楽しみたい英国内の人々にとっては、このインターネットによる恩恵が大きかったものと思われます。
そしてこのインターネット視聴においては、PCのみならず、携帯も含めたケアがなされていました。街中や鉄道の移動時でも、携帯端末で、競技を楽しむ人々の姿が見られました。

テムズ川に浮かぶ、オリンピック5輪マーク
テムズ川に浮かぶ五輪マーク

インターネットにおける媒体ミックス

このように、テレビ、PC、携帯のメディアミックスが際立ったこのオリンピックでしたが、メディアミックスは、放映するサイドのシーズのみならず、視聴する側のニーズによって成り立っていることは言うまでもありません。
オックスフォード大学のインターネット研究所がまとめた英国インターネットユーザ動向調査「OxIS2011」は、まさにその状況を「Next Generation Users」(次世代ユーザたち)というキーワードで示していました。

同研究所の示す、Next Generation Usersの特徴は以下の2つです。

  1. Portability (インターネットの携帯性)
  2. The Range of Available Devices (活用端末の幅広さ)

つまり、携帯用端末を含む、複数の端末を日常、シームレスに使いこなすユーザを指して「Next Generation Users」と呼んでいるわけです。

同調査によれば、全ユーザのうち、Next Generation Usersはトータルで4割を超え、この割合は。学生・勤め人では5割を超えるとのことです。
もちろんこの背景には、スマートフォンの普及があることは言うまでもありませんが、より大切なのは、その用途といってよいでしょう。
同調査では、Next Generation Usersの利用コンテンツ(5割以上が利用のもの)は以下の通りでした。

  1位 2位 3位 4位 5位
コンテンツ書き込み ソーシャル・ネットワーキング 写真共有      
利用エンタテイメント 音楽聴取 音楽ダウンロード 映像視聴 ゲーム  
情報探索 トラベルプラン
(お出かけ情報)
ニュース 健康情報 スポーツ情報 職探し

「人との出会い・つながり・楽しみ」が、英国におけるインターネット活用の主な原動力

表をご覧になってお感じかもしれませんが、「人と人が出会うためのコンテンツ」「人と人がつながるためのコンテンツ」「人と人が共に楽しむためのコンテンツ」が、Next Generation Usersにとっての、主力コンテンツであることがここから見出せます。

人との出会い・つながり・楽しみは、職場(学校)、家庭、外出先を問わないもの。
インターネットアクセスにおけるこの原動力こそが、「携帯性」と「活用端末の幅広さ」とをもたらす、Next Generation Usersのベースといえます。

翻って、日本においても同様の調査(「インターネットの利用動向に関する実態調査」)が2010年に、複数大学の先生等の協力のもと、行われています。
英日の調査とも、「ワールドインターネットプロジェクト」という世界的調査プロジェクトの下、設問のジャンルを共通にしており、一定の傾向比較ができるようになっています。
この日本での調査によれば、「インターネットを通じて、人間関係が増した」という声は、「友人」の3割が最高であり、人との出会い・つながり・楽しみがインターネット活用におけるモチベーションとして優先されている、イギリスの状況と大きく違う可能性が伺えます。
先述のオックスフォード大の調査を指揮された、W. H. Dutton先生は、筆者の問いに対し、「人とのつながりへの活用、という面で、日本でのインターネット利用状況は、他の調査各国での一般傾向と比較して、異なる部分があると捉えている」とお答えされていました。

「人との出会い・つながり・楽しみ」に関する盛り上がり方が、オリンピックでのパフォーマンスをも左右!?

・・・私もオリンピック会場に足を運ぶ機会がありましたが、そこでみた光景は、やはり「人と人とがつながる」光景でした。
メイン会場では、オープンエアの飲食スペースや芝生広場にも場所が大きく割かれ、人々は思い思いに、食べ物・飲み物を手にしながら、談笑していました。「あれ、ここはオリンピック会場ではなく、違う野外イベントなのでは?」と思わず錯覚してしまうほどの光景でした。
また競技会場においても、大型スクリーンを前に、司会が、試合開始前の会場をパフォーマンスで盛り上げる光景が見られるなど、やはり「人と人とをつなげる」イベントであった感があります。

今回、日本選手団のメダルラッシュではありましたが、金メダルに届くことが必ずしも多くなかったのは、「一番」をとるために必要な「リラックス」、すなわち「肉体的・精神的に必要な緩み・安心感」が、必ずしも得られなかったことにあるのではないか、と個人的には感じています。
他国の観客団をみていましたが、イギリスをはじめとして、選手のパフォーマンスを最高に引き出すための、いわば「盛り上げる応援」に長けている感を折々に受けました。その応援がもたらす「選手と観客の一体感」が、選手の安心感を生んでいたことは、想像に難くありません。

リアルにつながるために、ヴァーチャルを活用する。そして、それが人々のパフォーマンスを高める。そうした強みを随所に垣間見た、今回のオリンピックでした。

次回は、「インターネットショッピング比率世界一!? イギリスの秘訣?弱点?」をお伝えします。 

この記事は、社外の方より投稿いただいたレポートです。 内容に関して情報通信総合研究所は責任を負うものではないことをあらかじめご了承ください。

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