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2012年11月14日掲載

London Report(終) 
オンラインショッピングを支える裏事情

NTT Capital(U.K.) 岩田 祐一
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ここロンドンは、サマータイムが終わる10月下旬から、急に、冬の訪れを感じる日々が増えてきました。北緯50度の此の地は、西岸海洋性気候のおかげで、気候こそ比較的穏やかなものの、季節の変わり目には、緯度の高さが故の特徴が様々な形で顔を出してきます。冬の訪れが感じられる季節となってくると、人々の装いも冬行きとなり、急にクリスマスモードも近づいてまいります。
こうした雰囲気を最も感じられるのは、やはり「冬商戦」「クリスマス商戦」であります。

今回は「London Report」最終回として、ここ英国のオンラインショッピング事情を取り上げてみます。

Christmas shopping
Photo: Peter Hilton, Flickr

感謝祭に向け、某スーパーのオンライン注文画面
Ocado's Thanksgiving selection
Photo: London looks, Flickr

英国のオンラインショッピングは、様々な形で世界の先端を走っているといわれます。明確な客観的統計は難しいところですが、複数の調査等によれば、利用時間数・利用頻度・市場規模等共に、欧州ではトップクラス、世界でもトップ3〜5には入るといわれています。

その理由を、小売事業者サイド、消費者サイド、それぞれの側面から考察してみました。

売事業者サイドの事情:オンライン販売は、自社の更なる飛躍への挑戦課題

英国のオンラインショッピングの特徴は、オンライン専業事業者もさることながら、同時に「ブリック&モルタル」つまり、実店舗とのコンビネーションに1つの大きな特徴があります。

例えば、当地ではどのデパートに行きましても、大概「お店よりも幅広い品ぞろえ・弊社のオンラインサイトをご利用ください」といった案内が、目立つ所にかかっています。実際、オンラインサイトを訪れてみると、品ぞろえはもちろんのこと、色などのバリエーションも豊富に示されています。
これはスーパーマーケットでも同様です。

この1つの要因として考えられるのが、当地における流通構造の違いです。
当地では、卸業者が大きな形で存在しないため、デパート・スーパーとも、単なる小売りではなく、物流機能も担っています。従って、各チェーンからみた場合、販路は何であろうと、売れれば確実に利益につながる構造があります。
むしろ、売れ行きの少ない商品は、オンラインサイトに誘導して在庫を圧縮し、一方で、店頭は、その場の衝動買いであったり、ショーケースであったり、といった位置づけと考えている節もあります。特に都市部において、小売店舗の面積が、日本に比して相対的に小さい(=坪単価効率・利益を重視しているため、スペースを節約)ことも、その一因かもしれません。

“実店舗のネット展開は、店舗がメイン、ネットがサブ” 
英国の小売業界は、「この“  ”の前提に大きな挑戦をすることこそが、自社の更なる飛躍のカギ、として、オンライン販売を伸ばしている」、そうした側面は見逃せません。

消費者サイドの事情:実店舗での買い物の不便さ、週末の時間の使い方

一方、消費者サイドの事情としてですが、実店舗での買い物が不便、という側面があります。品ぞろえについては、先の小売事業者サイドの項で述べたところですが、その他にも

  • 日曜日の店舗開店時間が制限。
    (英国では法律により、日曜日の大規模小売店舗の開店時間が6時間に制限されている。日曜日は安息日、というキリスト教の考え方が背景に。)
  • 取扱商品であっても、欠品が少なくない。 
    (一店舗あたりの取扱アイテム数が多い一方、欠品補充に関する予測精度が必ずしも高くないため)
  • 店頭での購入価格が、一般に高くつきがち。 
    (人件費が、商品提供価格に反映されやすい土壌があり、実店舗販売価格と、オンライン販売価格との間の差が明確になりやすい)

といった状況があり、
実店舗での買い物は、必ずしも便利なものではありません。

もちろん、週末における店舗への人出は、日本並み、もしくは日本以上の部分はあるのですが、この人出の背景には、

「“必要な買い物をする”派」(特に壮年層、主婦層を中心に、手にメモを持って買い物をしている人たちの比率も、日本並み、もしくは日本以上です。
 また週末は、日本に比して大きな冷蔵庫・冷凍庫を活用して、一週間分のまとめ買いをする傾向も強く、その分、生活必需品以外の買い物をする時間が限られる状況もあります)

「“家族  もしくは 友人との街歩きを楽しむ”派」
(人との触れ合い時間を殊更大事にする土壌はあり、こうした場として、人の集いやすい商業施設が選ばれる傾向もあります。販売店舗もぶらつきますが、一番時間を使うのが、外食店舗です。)
が多いように見受けられ、

「“ウィンドーショッピングもするけど、買い物もしっかりしていく”派」
は、これらに比して、決してマジョリティには位置しておりません。

勢い、「買うと決めたもので、その場で買わずとも良いものは、オンラインに頼った方が便利」という感覚が醸成されることになります。

多くの小売業者は、PC、モバイル双方に対応したオンラインストアを有していますから、買いたいと思ったら、いつでもどこでも、その場で手続き完了、ということが可能です。

弱点は宅配網の弱さ・・・しかし

しかし、こうしたオンラインショッピングにおける、英国最大の敵・弱点があります。
それは、「宅配網の弱さ」です。

日本では、複数の大手宅配業者が、郵便局と比肩する(もしくはそれ以上)の宅配網を整備しているため、日時に確実な宅配を期待できますが、
当地では、そうした宅配業者が存在しません。

これも言ってみれば、物流業者の利益率確保のために、宅配拠点を絞っているということと、確実な宅配を担保するための労働力確保の難しさ、といった背景があります。

従って当地では、宅配を申し込んだ人が、宅配のために一日家で待つ、という非合理が、半ば当たり前という実情があります。

しかしながら、これをカバーするショッピングスタイルもあります。それは「店舗でのピックアップ」です。

比較的広大な駐車スペースを確保できる小売事業者は、オンラインショッピングの受け取り方法として、自社店舗を指定できるようになっています。
また英国では、自社店舗でのピックアップをメインビジネスとした大手小売チェーンもあり、カウンター+倉庫スペース+駐車場 という小売ビジネス業態が確立しています。
Amazonでさえも、当地の小売チェーン等と提携して、店舗内に「Amazon受取ボックス」を設置し、こうした店舗ピックアップ需要に対応できるようにしています。外食産業でも「宅配」と同様に「Take Away」(店舗からの持ち帰り)が一的な英国、これがオンライン小売シーンにも普及していると言えそうです。

終わりに

ここまで2年半弱、10回にわたる、飛びとびのレポートでしたが、ご愛読いただいた皆様に感謝いたします。往々にして、通信・ICTをめぐる各国事情差異レポートは、単に日本の状況に関する優劣問題として扱われてしまうことがありますが、このレポートでは「優劣」で捉えることなく、各国の事情の背景にこそ、差異の要因が隠れている、というところに焦点を当てて、お伝えしてきたつもりです。

英国は、植民地経営の歴史も長く、その盛衰が、自国の国力の盛衰とも結びついてきたことから、土地土地の状況差異を、単に「優劣」で捉える事の愚を、時には痛い思いと大きな代償とを払いつつ、感じ取ってきた歴史があります。
日本も、そうしたスタンスが、今後の成熟社会・人口減少社会のなかで、世界の一角を占めていきていくうえで求められる、そういった想いを、読者の方々に少しでも抱いていただけることができたなならば、望外の喜びです。

またいずれ、ロンドン以外の街角から、気づいたことをしたためる形で、皆様とお目にかかれます機会を楽しみにしております。

当地ロンドンからは、また、他の方による部外投稿があるのではないか、と勝手な期待(!?)をしております。もしありましたら、よろしくご声援のほどお願いいたします。

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