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1997年1月掲載

1997年における海外電気通信の展望

 1996年2月に成立した米国の新電気通信法、98年はじめの欧州連合(EU)の全面自由化、97年に着手されるわが国の一層の規制緩和とNTTの「バーチャル分割」、中国をはじめとするアジア・太平洋経済圏諸国の電気通信の飛躍的発展、これらは世界的規模の情報通信のビッグバン(大爆発)をもたらしつつある。
 ディジタル/インターネット/マルチメディア革命とグローバルなボーダーレス世界の急速な出現は、これまでの電話中心の国営・独占をベースとする電気通信の世界を、この2、3年で一変させようとしている。

1.米国−1996年電気通信法が変革の引き金

 昨年2月にクリントン大統領が署名して成立し、1934年通信法を60年ぶりに抜本的に改革した「1996年電気通信法」は、市内/長距離/国際/移動体などの電気通信産業内部の境界を撤廃しただけでなく、電気通信/ケーブルTV・放送などの垣根も一挙に取払い、プレーヤーの相互進出を認める画期的なものであった。
 この結果、それまで長距離市場への進出を禁じられてきたベル地域電話会社(RBOC)も市内網の競争への開放を条件としてこれを認められることとなり、今年から来年にかけて、AT&T、MCIなどの長距離電話会社が市内通信でRBOCと競争する一方、長距離市場では逆にRBOCがなぐり込みをかけるという構図が現実のものとなりそうだ。

 既にこのような大競争時代の到来を目前にして、地域電話会社どうしや電話会社とケーブルTV会社、さらにはBT/MCIという国境をまたがる巨大キャリアの大型合併・提携計画が次々と公表されている。
 また、このような規制緩和による制度上の改革だけでなく、「ネットワークのネットワーク」であるインターネットの爆発的発展は、米国の情報通信市場の流動化を急速に促進している。

 本年は、このような情報通信市場の構造的変化がさらに加速されるものと予想される。

2.BT/MCIの完全取得計画の意義

 BT(年間売上げ:約200億ドル)は、1994年に米国第2の長距離電話会社であるMCI(同じく約160億ドル)の20%を40数億ドルで取得して、念願の北米市場への進出をはたしたが、昨年11月はじめに残りの80%を210億ドルで取得することで両社が合意したことを明らかにした。
 両社は既にグローバル・アウトソーシング合弁企業として「コンサート」(10億ドル、BT:75%、MCI:25%)を設立して、10億ドルの契約、年間数億ドルの収入、3000の顧客を獲得している。
 米国や英国、EU委員会などの規制上の承認が得られれば、98年はじめには大西洋にまたがる世界第4位の多国籍電話会社(「コンサート」が社名となる)が出現することになる。

 これに伴い、米英間の国際通信は、いわば同社の米国事業部(MCIが担当)と英国事業部(BTが担当)を結ぶ長距離通信にすぎなくなり、現在、2国間の国際清算料金として11セント/分を相互に支払ってきたのものが、合併終了後は社内取引料金としてコスト・ベースの4セント/分を支払えばよいこととなる。
 これは次項で述べるような英米間の国際通信の競争のし烈化と相まって、国際通信料金の大巾な低下をもたらすであろう。
 このBT/MCIの合併は、他の有力キャリアも従来の戦略的提携を見直すものと予想されている。
 その主要なターゲットの1つは、急速な成長を遂げるアジア市場であり、NTT分離問題が決着し、一層の規制緩和が見込まれるわが国市場であろう。

3.英国−国際通信も含めて電気通信は全面自由化へ

 英国の電気通信は、1世紀に及ぶ国営・独占時代ののち、BT(1984年に民営化)/マーキュリーの複占時代(80年代半ば〜92、3年)を経て、この数年来、100以上の通信事業者が、市内/長距離/国際(再販売ベース)/移動体/衛星などの様々な市場でし烈な競争を展開する状況となっている。
 このため、支配的電話会社であるBTは厳しいプライス・キャップ(料金上限)規制下で、赤字の基本料を段階的に引上げるとともに、長距離通話料金も今日では昼間3分間で50円程度にまで引下げてきた。
 最近では、ケーブルTV電話の加入数も200万に達し、BTも市内通話料の値下げを余儀なくされている。
 貿易産業省(DTI)は、さらに、欧州(EU)委員会の代替インフラ自由化と関連して、再販売ベースだけでなく施設ベースの国際通信もBT/マーキュリーの複占を終了させ、昨年末に、申請された45の通信事業者(うち半分は米国系)に国際通信免許を付与した。
 このため、特に英米間などの国際通信市場はし烈な競争下で、国際通信料金はさらに大巾に低下していくものと予想される。
 一方、電気通信規制機関「オフテル」は、競争本格化に伴い、BTに対する規制を本年8月以降、次のように緩和する計画である。

  • エンドユーザー向け小売料金について、住宅用加入者向けの料金に関し、「小売物価指数(PRI)−4.5%」を料金上限とし、事務用向けサービスを料金規制からはずす
  • 競争事業者向け卸売料金(相互接続料金)については、オフテルが標準料金を本年5月に従来に引続いて決定したのち、8月以降、料金上限規制に移行して、その範囲内でBTが標準相互接続料金を決定できることとなる。
   クルックシャンク・オフテル長官は、競争の進展に伴い、電気通信規制(特に支配的事業者であるBTに対する)を次第に市場原理に委ねて、反競争的行為以外の規制は縮小していくことを明らかにしている。

4.ドイツ、フランスなど他のEU諸国
 −98年1月はじめの完全自由化に向けて体制を整備

 英国などを除く多くのEU加盟国では、現在、基本電話サービスと電気通信インフラは過去の国営電話会社の独占下にあるが、98年1月はじめには競争に開放される。

 ドイツ、フランスでは、政府は昨年半ばに電気通信自由化に向けた立法化を行ない、現在、新規参入者に対する免許付与手続きに着手している。
 既に、この両国では、電力会社、鉄道会社などが、外国の主要キャリアとコンソーシアムを構成し、免許を得て、来年はじめから強力なドイツ・テレコムやフランス・テレコムとし烈な競争を展開することになろう。
 自由化に伴い、この両国の通信事業者規制は新たに創設される独立の電気通信規制機関が行うことになる。
 EU15ヵ国の電気通信市場は、若干の例外を除き、いよいよ来年から全域で内外のキャリアが入乱れる激しい競争に直面することになる。
 欧州規模の情報社会形成に向けて、電気通信自由化は加速されつつある。

5.「世界貿易機関(WTO)」における基本電気通信自由化交渉も進展

 ウルグアイ・ラウンドより引継がれた「基本電気通信自由化交渉」は昨年4月末の当初の期限には決着しなかったが、本年2月15日の延期された期限に向けて合意が形成されつつある。
 EUの動きと相まって、国際的規模で、各国が相互に自国の電気通信市場を外国キャリアに開放し、自国キャリアと外国キャリアを規制上差別しない方向が明らかになってきた。  わが国もこのような国際的トレンドのもとで、新規参入事業者のNCCや過去の独占事業者であるNTT、KDDも外資規制を緩和−撤廃することになるであろう。

 わが国を含めて世界の電気通信市場は、上記の動きのほか携帯電話の爆発的成長、インターネットの急速な普及、電気通信と放送・ケーブルTV、コンピューティングの融合を含めて、市場規模の成長とともに著しい構造的変貌を急速に遂げていくであろう。

取締役 海外調査第一部長 堀 伸樹
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