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1997年12月掲載

国際清算料金の行方

1.国際清算の仕組み

 国際清算料金という言葉は、業界の外にいる人には耳慣れない言葉だが、簡単に説明すれば次ぎのようになる。
 二者以上の国際通信事業者が提携して国際電話サービスを提供する場合に、通話発信国の事業者と通話着信国の事業者との間で通話にかかった費用をどう負担しあうかという問題が起こる。現在の仕組みは料金収入は発信国の事業者が全て自分のものにものにすることになっているので、お互いに相手国の事業者に相手国の事業者が提供したサービスに見合う費用を払うことによって清算をすることになる。

 清算を簡単にするために、国際通信回線設備は両国の事業者が半分ずつお金を出し合って作ることが原則になっている。そして両国とも通話分数あたりの費用には差がないものとして一定の費用にそれぞれの発信分数を掛けた金額を相手国事業者に払うことになっている。実際には発信分数を相殺して残った差分の発信分数に単位分数あたりの費用、すなわちこれが清算料金なのだが、それを掛けた金額を発信分数の多い方の事業者が支払っている。
まとめれば、清算料金とは国際通話サービスの提供について両国事業者が相手国事業者に負っている債務を清算するため、両国事業者が協議して定める費用清算の単価のことである。

2.清算料金に関するアメリカの新提案

 前置きがいささか長くなったがその清算料金が今なぜ問題になっているのか。
それはアメリカが国際通信にかかる貿易赤字の大きさに業を煮やして赤字を発生させている国の事業者に対して清算料金の引き下げを求める方針を打ち出したからである。
アメリカの連邦通信委員会は、アメリカは国際通信にかかる清算において50億ドルの支払い超過となっており、その原因は主として相手国事業者が実際の費用より高い清算料金を設定していることにあるとする。そこでアメリカが考える相手国の費用に基づく適正な水準の清算料金をベンチマークとして定め、一定の期間内にこの水準まで清算料金の引き下げを行わない国の事業者にはアメリカ市場への参入を認めない、あるいはアメリカの事業者に対して相手国事業者への清算料金の支払いを一部停止させるなどの措置を取ることを提案している。
貿易赤字の縮小と外国に対してコスト以上の高い料金を払っている消費者を守るため清算料金の引き下げを迫るというアメリカの大義名分は理解できないこともない。
 しかし、それを相手国と何の相談もしないで自国の規則として一方的に適用しようとすることに問題はないか。

3.アメリカの提案の意義

 アメリカの提案は単に清算料金をコストに近付けること以上の意味を持っている。
それは長年続いてきた国際電気通信連合(ITU)を中心とする国際電気通信秩序を変えようとするものである。

 国際通信事業は2カ国の事業者が共同事業として行ってきたものであり、その中で先進国の事業者は清算料金収入が発展途上国の電気通信インフラの拡充を支え、外貨獲得の有力な手段となっていることを理解し、コストを上回る清算料金の設定を容認してきた経緯がある。
それをここで一気にコスト料金に持っていこうとするのは、今まで先進国が与えてきた途上国への補助を止めたいという話であり途上国が簡単に呑める話ではない。 日本のように先進国でありながら清算料金が高く引き下げを迫られている国もあるが、先進国の事業者にとっては途上国への支払いが減る話であり方向としては歓迎できる。
問題はそれがアメリカの一方的措置として実行されようとしていることであり、なぜITUやWTOの場で途上国も含めて議論することができなかったのかということである。

4.新しい国際通信秩序に向けて

 国際通信市場における競争の進展、技術進歩によって国際清算料金は低下しつつある。
さらに国際公ー専ー公接続の自由化、国際通信事業者の多国籍化などによって国際清算料金の枠組みに縛られない国際サービスの提供が可能になりつつあり、清算料金は遠からずコストベースになっていかざるを得ない。

 国際通信分野への競争の導入により新しい国際通信秩序が求められている。しかしそこには依然として通信の南北格差、ミッシングリンクをどうするのかという問題が残っている。ITUやWTOのようないつ決着するか分からない多国間協議を待ってはいられないというアメリカの苛立ちも分からないではないが、GII(Global Information Infrastructure)を標榜し世界の民の情報格差をなくそうと言っているアメリカ、世界の電気通信産業をリードする通信大国アメリカには、一段高い見識と寛容を求めたい。

 新しい国際通信秩序は民主的なプロセスを経て、必要なステップを踏んで形作られていくべきだろう。

取締役 通信事業研究部長 小澤 隆弘
e-mail:ozawa-t@icr.co.jp
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