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InfoComアイ
1997年7月掲載

メガキャリア(グローバル・アライアンス)の狙い、
そして日本の立場

 

1.グローバル・アライアンスの事業概念

 グローバル・アライアンスの人々と話して、そのビジネス・コンセプトに現われるキーワードは常に、「トータル・ソリューション」「マネージド・サービス」というものであり、この概念の発祥は、AT&Tが10数年前に取り組んだ「tariff 12」にあると筆者は思っている。
 すなわち顧客としての個々の超大企業に対して、各企業にユニークなトータル・ソリューションを一括して提供し、プライシングにおいては企業にも規制当局にもその構成要素たるサービス個々のブレークダウンを示さない(すなわち顧客とのネゴシエーションにおいてトータルプライスが決定されて行く)。
 このような方法をとれば、AT&Tはこの顧客の全トラフィックの中から「長距離電話だけを通話料金の安いMCIに奪われてしまう」といったリスクを回避できるわけである。
 すなわち顧客は個々のサービスのレベルにおいてはその料金を知らない(もしくは各サービスの積み上げに対してのトータル・プライスを大幅に値引くことにより、各サービスのプライスがあいまいなものになってしまっている)ため、他の競争事業者のサービスを比較することすら不可能になってくる。 また、通信・情報システムのマネージメントまで取り込んでしまえばこの顧客を獲得したキャリアは未来永劫にその顧客を囲い込んでしまえる。
 こういった発想は現在世界に展開しつつある各グローバル・アライアンスのビジネス戦略の中にも前述のキーワードを通じて感じることができる。 グローバル・アライアンス同士の顧客争奪戦になり、個々のサービスを提供する事業者の存在価値は皆無になってしまう。

 以上の見方はあまりにも極端に過ぎるかもしれないが、グローバル・アライアンスが提供する日本発国際専用線の再販プライスがあいまいになりつつある現実も存在している。 また、日本企業の中でも真のグローバル企業(事業活動全般がグローバル化しており、また同時に世界の拠点での事業は十分にローカル化しているといった企業)であればあるほど、このリストラクチュアリングの時代に思いきったアウトソーシングを実行する例も出つつある。 まさにグローバル・アライアンスの目論みが実現段階に入りつつあると言える。

2.事業戦略

 グローバル・アライアンスが描いているソリューション提供の戦略は以下のようなものであると思われる。
  1. アライアンス内のキャリアならびに他のキャリアからトランスポート用設備を借り上げ、ネットワーク・マネージメント機能を付加することにより地球をカバーする自らのネットワーク・インフラを構築する。
  2. 各国のレギュレーションの緩和を待ちつつ、このインフラ上で独自のサービス開発を行っていく。開発された各サービスを組み合わせたユーザ個々へのトータル・ソリューションは、ユーザから見て各国のキャリアの存在をまったく意識しないで居られる環境のもとに提供される。(ワンストップ・オーダリング、ワンストップ・ビリング、ワンストップ・メンテナンスなど) すなわち、完全な意味でのアウトソーシングを可能とする環境が整うわけである。
  3. また、サービス品質においてもアライアンスが自らそのレベル規定を行えることから、世界的に均質なサービスの提供が可能である。
 彼等はしばしば、「21世紀の世界の通信事業は2から3のメガ・キャリアに淘汰されるだろう」と言うが、以上のような概念にもとづく自信が裏打ちしているのであろう。

3.アジアでの事業展開状況

 次に彼等の提供するサービスの現状を見るために、昨今グローバル・アライアンスの中で先行していると目される Concert について、その提供サービスならびに地域的なカバレッジを調べてみよう。
 規制の緩やかな米国、ならびにEUの主導により同一歩調が採られつつある欧州においてはConcertが提供する次のサービスがほぼ全地域で可能であるが、アジア/太洋州地域ではどうであろうか。

(1)データ系サービス

サービス名提供国(アジア・太洋州)
フレーム・リレー香港、インドネシア、日本、マレーシア、フィリピン、シンガポール、韓国、台湾、オーストラリア、ニュージーランド
パケット香港、インド、インドネシア、日本、マレーシア、フィリピン、シンガポール、韓国、台湾、タイ、オーストラリア、ニュージーランド、グアム

(2)音声系サービス

サービス名提供国(アジア・太洋州)
バーチャル・ネットワーク・サービス日本、オーストラリア
インバウンド・サービスオーストラリア
会議サービス日本、オーストラリア

(3)専用線

サービス名提供国(アジア・太洋州)
マネージド・帯域サービス香港、日本

 この表から明らかなように、データ系サービスについてはアジア各国とも規制緩和が進み、一部の国を除きほぼアジア全域で可能な状態に達している。 また、現在ニーズも顕著なのであろう。
 一方、音声系サービスならびに専用線においては、ほとんどの国で不可能であり、アジア各国の音声系サービスの規制緩和に対する慎重な姿勢がうかがえる。
 反面グローバル・アライアンスにとって、彼等のサービスを構築して行く上でのいわば空白地帯ともなっている。

4.日本の立場

 各グローバル・アライアンスは日本の通信事業者をパートナーとするべく接触を図ってきている。しかしながらその目的は、将来とも世界のトラフィックの約10%は担っていくであろう日本企業を顧客として迎えたいが為であって、通信事業におけるアジアの規制緩和の旗振り役としての日本を期待しているものではないし、もともと彼等は日本とアジア各国との政治的不和にも熟知している。
 一方、ユーザの利便性、世界的な企業のリストラクチュアリングを考えた場合、グローバル・アライアンスの進めるサービスは徐々に受け入れられていくだろう。またその中へ日本が食い込めるタイミングとしては最終の段階にさしかかっていると思われる。しかも既存のグローバル・アライアンスと対等な立場を確保できるような何物かを遅まきながら模索せねばならない。
 日本は黒子で良い。ゆるやかても良い、アジア全体の何らかの結び付きができ、規制緩和がアジアを面として進むような取り組みが必要で、日本がこのような話し合いのきっかけを作れないものか。
 Asia Multimedia Forumなど共同の場でこのようなアプローチがなされないものか。
システム応用研究部長 佐久間信行
e-mail:sakuma@icr.co.jp
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