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InfoComアイ
1997年8月掲載

規制の透明性と予測可能性

 電気通信事業法、NTT法、KDD法の改正が行われ第2次情報通信制度改革も一段落したかに見える。しかし、電気通信産業の活性化のためにはまだまだ多くの課題が残されている。国内に閉じた競争からグローバルな市場での競争、外国資本との競争、新市場の開拓に向けた競争へと視野を広げ、グローバルスタンダードに則った規制の枠組みのもとで競争を促進していかなければならない。

1.第1種通信事業と第2種通信事業の区分

 新聞では全く報道されなかったが1997年7月、第1種通信事業者であるKDDは第2種通信事業の届け出を行い受理された。このことは一体何を意味するのであろうか。
 従来、第1種電気通信事業と第2種電気通信事業は明確に区別されてきた。第1種電気通信事業は電気通信回線設備を設置して電気通信役務を提供する事業であるが故に国民生活における重要性が高く、事業の許可制、サービス、料金の認可制で国民の利益を守る必要があるとされた。
 これに対して第2種電気通信事業は第1種電気通信事業者から電気通信回線設備を借用して電気通信役務を提供する事業であるので、間接的に国民生活に影響を与えはするが基本的な通信需要は第1種事業によって充足されており、第2種事業の不適切な運営によって国民生活が大きく脅かされるおそれは少ないとされ、基本的には非規制という枠組みが採用された。

 第1種事業者は自分の設備の範囲内においてのみサービスを提供しユーザーに責任を負うのであり、自分の設備の範囲を超えてサービスの提供を行う場合には他の第1種事業者と回線の相互接続を行うか例外的に業務委託を行うことによってのみサービスを拡張することができた。つまり他の第1種事業者の設備を借用してサービスの提供を行うのは第2種事業であり第1種事業者が第2種事業を兼業することは区分の性格上当然許されないと考えられてきた。
 従って今回のKDDの第2種事業の届け出の受理は事業法の解釈に変更があったことを意味しているのではないかと考えられる。

2.電気通信事業法の解釈

 電気通信事業の種類を規定しているのは電気通信事業法第6条である。
 確かに条文の文章にはどこにも第1種事業と第2種事業を兼業することはできないとは書いてない。事業を区分しているだけであって事業者を区分するとは言っていない。同一の事業者が第1種事業の許可を得、同時に第2種事業の届け出を行うことができそうである。  その場合どんなことが起こるのか。

 第1種事業として提供するサービスと第2種事業として提供するサービスが分離されていれば問題は少ない。例えば国際通信の第1種事業者が国内通信を第2種事業として他事業者のサービスを購入して再販により提供することは可能だろう。長距離の第1種事業者が自ら回線設備を持たない地域へのサービスを再販によって提供することもできる。ただし、その場合おかしなことも起こり得るが、例えば第1種事業の通話サービスの料金より大口割引を利用した第2種事業の再販サービスの料金の方が安いということも起こる。

 ややこしいのは、第1種事業と第2種事業を組み合わせて一つのサービスを提供する場合である。
 例えば、自前の設備で運べるトラヒックは第1種事業としてサービス提供し、あふれたトラヒックは他事業者のネットワークに迂回させて第2種事業としてサービスを提供するような場合である。この場合ユーザーから見れば何の区別もないのに法律上は呼ごとにサービスの位置づけが変わってしまう。第2種の料金は第1種より2割安いというような料金を作ったらこの事業者の電話料金は認可されるのか。

 別の例では国内通信と国際通信を合体させたシームレスな電話サービスを提供するとき国内は自前のネットワークで、国際は他事業者のサービスの再販で提供という方法があり得る。この場合国内料金は認可で国際料金届け出ということになるのだろうか。両方の料金を合算して割り引く大口割引を作るとそれは認可料金なのか。多分そうなるからKDDとDDIはKDDテレサーブという2種事業者にそれぞれサービスを売るという形にして両サービスの一本化を図らざるを得なかったのだろう。自社で小売りと再販を組み合わせると認可料金となり、同じことを再販業者にやらせると届け出で済む。どこかおかしい。

 第1種事業者に再販を認めた今回の解釈変更は望ましい方向ではあるが問題の解決にはなっていない。第1種事業者が自らの卸売りサービスと他者から購入した再販サービスを組み合わせて弾力的なサービスの設計や価格設定ができるようにするのが競争促進のためには必要なのである。
 第1種と第2種の兼業を認めるのであればむしろ卸売り料金と小売り料金のシステムをきちんと整備し、例えば卸し料金は競争が機能しないのであれば規制、小売り料金は自由といった新しい規制の枠組みを用意すべきである。
 中途半端な改革はかえって混乱を招くだろう。

3.規制の透明性と予測可能性

 解釈の変更が望ましい方向にあっているからといってほめられるとは限らない。むしろ問題点を指摘したい。第1種、第2種の区分がぶつ切り料金をはじめとして通信事業者の事業展開を大きく制約し、競争の進展を妨げてきたことは明らかである。この兼業が競争の開始時点で認められていればネットワークの全国展開で後れをとったばかりに業績で大きく他の2社に水をあけられた日本高速通信は今頃他の2社と肩を並べていたかもしれない。

 被規制産業においては規制の枠組みによって事業の大きな部分が影響を受ける。
 規制の動向をどう読むかによって事業戦略の方向性が全く変わってしまう。

従って規制の枠組みは誰でも明確に理解できるように透明でわかりやすく示されている必要がある。つまりその規制がなぜ必要なのか、何が規制され、何は自由なのかについて規制当局はきちんと説明する責任を負っているのである。単に条文を、省令を公示すればすむというものではない。問い合わせれば答えが聞けるというのでは不足であり、書いたものできちんと理解させる義務がある。規制が出来上がっていく課程を透明にし、それを文書で公開すれば自ずから規制の必要性、範囲は明らかになる。今回、KDDの第2種兼業を受理するのであればなぜ解釈を変更したのかきちんと国民、事業者に説明する必要がある。誰も知らないところで解釈を変更することはやるべきではない。

 もう一つ重要なことは、規制の予測可能性である。現在の規制がいつまで続くのかは事業戦略の設定において非常に重要である。従って規制が設定されるときにはその期限を明確に示すことが望ましい。それがあってこそ事業者は規制の枠組みを前提として経営の自由の最大化を図れるのであり、経営の自由が縦横に発揮されてこそ競争が活性化するのである。
 我が国でも電気通信における競争がようやく始まろうとしている。
 競争の促進に向けた誰にでも分かる規制の枠組みの再構築が今必要である。

取締役 通信事業研究部長 小沢隆弘
e-mail:ozawa-t@icr.co.jp
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