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InfoComアイ
1998年2月掲載

行政改革と行政情報化

 98年2月の国会で中央省庁再編に関する基本法案が提出される運びとなった。この1年の省庁再編をめぐるマスコミの報道から興味深いものがいろいろと知らされている。しかし、行革を進める上で忘れてはいけないのが行政情報化である。行革=行政情報化とも言えるのである。

■行政改革会議との駆け引き

 政治の世界では最初に出された案はつぶされるのが常であるらしい。
 政府の行政改革会議の中間報告(97年9月3日)では、現行の1府21省庁を1府12省庁に再編する案が出されたが、これを巡っていろいろと反対意見が続出した。結局は中間報告で示された1府12省庁の枠組みを受け入れた形であるが、統合される省庁の関係者にあってはそれぞれの生き残りをかけた駆け引きが展開された。
 中間報告直後のテレビニュース番組の取材に対して「委員の人達は、役所に関しては素人だから、もっと専門家の声を聞いた方がよい」、と発言した議員がいた。さて、役所の専門家といったら誰になるのだろうか。まさか官僚を指すのではなかろう。官僚から手玉に取られる議員だって素人だろうに。恐らく族議員に好都合な案を出すのが専門家と呼ばれるのであろうか。

 11月22日の行政改革会議集中審議終了後、1府12省庁の枠組は確定した、と首相は胸を張って記者会見を行った。中間報告よりも後退したのではないかとの記者の質問に対して、中間報告は最終報告ではない、何故、中間報告通りにしなければいけないのか、と居直りとも取れる記者会見の一幕もあった。中間報告以後、党内、官庁からかなり強い抵抗があったことを伺わせる。
 12月3日の最終報告では省庁の数だけは中間報告通りとなったが、再編後の新組織については二転三転の結果、目玉は自治省、郵政省、総務庁が総務省に統合されることぐらいにとどまった。大蔵省から国税庁の分離、郵政三事業の見直し等を検討課題にすることは見送られた。役所の力関係をあらためて見直させられたようである。

■行政情報化に関する閣議決定

 行政情報化推進基本計画の改定について、行政改革会議の最終報告の後、12月20日に以下のような閣議決定がなされている。
 この行政情報化の理念は、「行政の情報化は、行政のあらゆる分野への情報通信技術の成果の普遍的な活用とこれに併せた旧来の制度・慣行の見直しにより、国民サービスの飛躍的向上と行政運営の質的向上を図ることを目的とするものである。この意味で、行政の情報化を、新時代に対応できる簡素で効率的な行政の実現、国民の主体性が生かされる行政の実現、国民に開かれた信頼される行政の実現及び国民に対する質の高い行政サービスの実現を目指す行政改革を実現していくための重要な手段として位置付け、その積極的な推進により、国民の立場に経った効率的で効果的な行政の実現を図る。」と唱われている。
 そして、計画の目標は、「行政の情報化により、事務・事業及び組織の改革を推進するとともに、セキュリティの確保等に留意しつつ、「紙」による情報の管理からネットワークを駆使した電子化された情報の管理へ移行し、21世紀初頭に高度に情報化された行政、すなわち「電子政府」の実現を目指す。」と掲げている。計画期間は平成10年度から14年度までの5か年とされている。
http://www.somucho.go.jp/gyoukan/kanri/kaitei9.htm

 この件については新聞報道で大きく取り上げられることはなかった。むしろ昨年7月に出された方針のほうが大きく扱われている。
 省庁の再編、どの省庁が生き残り、どこが吸収され、新しい名称はどうなるのかといった話題の方にニュースバリューがあると思われても仕方がない。ただ、省庁再編と行政情報化推進計画は同時並行で進められていくものであり、特に行政情報化は省庁再編が行われなくても行革につながることになるはずだからなのである。

■業務改善の指標

 中央省庁では、300万円ほどの業務委託の内部決済が完了されるまでに、今でも20数個のハンコが必要で、この間2ヶ月以上を要するのはザラだそうである。役所の数が減ってもこのような仕事の進め方がある限り行革が進められたとは評価されまい。

 閣議決定された行政情報化推進計画の改定では、行政情報システム各省庁連絡会議において、情報化の成果を毎年度公表していくものとしている。その際の評価は何を目安にしていくのか注目したい。パソコンの配備率、システムの導入率、ネットワーク利用量、等々の技術的な指標もいいが、業務の改善を示す指標、例えば起案された日から決済までに要した日数とハンコの数も客観的な指標として扱っていい。もっともこれだけを尺度にしてしまうと、防衛本能が働き、根回しを済ませてから決済伺いを廻しあたかもスムーズに仕事が流れたように見せかけることもあるだろう。根回しに時間をかけて実質的には非効率的な従来型の事務処理のままという懸念もでてこよう。これに対しては、その起案日がタイミングを失していないかの主観的判断も含まれてよいのではないか。

 素人にもわかるような仕事ぶりを見せてもらえればいいのであり、小さくてスマートな行政組織が出来上がればいいはずである。行政情報化は行政改革の必要条件として取り組まなければならないのである。

社会システム研究部長 高橋 徹
e-mail:takahasi@icr.co.jp
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