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InfoComアイ
1998年4月掲載

電気通信事業に関する規制緩和の動向とその影響

「規制緩和推進3か年計画」と法改正

 政府は平成10年3月31日「規制緩和推進3か年計画」を閣議決定した。その中には情報・通信関係として電気通信事業法の改正を含む多くの規制緩和策が盛り込まれている。
 今国会で法改正が予定されているものの内主なものをあげれば、(1)料金の個別認可制から原則届出制への移行(ただし地域通信市場における加入電話等基本的なサービスについては上限価格制)、(2)第2種事業者のアクセス系加入回線設備の設置の自由化、(3)KDD法を廃止しKDDを完全民営化、などである。
 一番目の料金届出制への移行は、制度的には思い切った規制緩和であり評価されるべきであるが、それが大きな効果を上げるためにはタイミングがいかにも遅かった。10年前に行われていればサービス・料金の多様化に大いに貢献したと思われるが、競争がここまで進展し料金も大幅に低下してこれ以上の値下げは経営の破綻につながりかねないような状況下では、料金が届出制になったからといってさらに料金競争が加速されるようなことは予測しにくい。もっとも東京通信ネットワークやKDDのようにその存在意義をかけて死にもの狂いでシェア競争を挑む事業者にとっては届出制は追い風となろう。ユーザーにとっては価格競争は歓迎だが破滅的な競争によって事業からの撤退が起こるようでも困る。郵政省や公正取引委員会は価格がコスト割れになっていないかどうかなど十分監視する必要がある。
 通信事業者にとっては規制当局との認可手続きが不要になるのでアイデアを生かした市場を拡大するようなサービス・料金の開発・提供が望まれる。上限価格制の導入についても事業者に効率化のインセンティブを与え競争を促進するという観点に立った基本的枠組み作りが望まれる。

2種事業者の規制緩和とKDDの完全民営化

 第2種事業者の設備設置の自由化は2種事業者にとっては選択の幅が広がるわけでありそれなりの効果は期待できると思われるが、アクセス系設備に限られていることから限界もある。事業者の経営の自由度を大きく高めるためには、1種、2種の区分をなくすことが必要である。
 KDDの完全民営化によってKDDは経営の自由を拡大することになるが他方外資などのM&A戦略にも曝されることになる。これまで法律による規制と保護を受けてきたKDDは自立と同時に厳しいグローバル競争に立ち向かわなければならない。

その他の規制緩和措置(長期増分費用方式や番号ポータビリティ)

 今回の規制緩和推進3か年計画における重要な事項としてはもちろん法改正が行われる料金届出制への移行もあるが、むしろ今後検討される項目の方により重要なものが多く含まれている。
 その第1はネットワークの相互接続規制の問題である。平成12年度を目途に接続ルールの見直しを行うことになっているが、その前に接続料金の設定における長期増分費用方式の導入について平成11年度末を目途に関係者の意見調整を図り、その取扱いを決定することになっている。アメリカなどからの早期導入を求める声が高まる中でこのスケジュールどおりでいけるかどうか懸念もあるが、拙速な検討ではなく地に足のついた検討を行った上で結論を出すことが望まれる。
 2番目には番号ポータビリティの導入の検討が盛り込まれている。番号ポータビリティ(事業者を変更しても同一の番号が利用できること)の実現方式について検討を行い10年度中に結論を得ることになっている。地域における競争を促進するために必要な条件ではあるが実現方式によっては多大のコストがかかりユーザーの負担が増すこともあり得るのでこれについてもキチンとした検討が必要である。
 3番目は事業者選択制(優先接続)の問題である。その導入の可能性を検討し10年度中に結論を得ることになっている。番号上の公正競争条件を整える一つの方法だが日本の特殊事情、すなわちこれほど広範囲にLCR(現在はACRなどと改称)が普及してしまっている中で優先接続をどのような方法で導入するのか難しい問題である。しかし新たに参入する外国事業者からはその実施を強く求められる可能性があり何らかの対応策が必要であろう。

おわりに

 今回の規制緩和推進3か年計画が着実に実施されれば情報通信産業を取り巻く環境が大きく変わることは間違いない。自由で公正な市場競争が原則となり規制当局は市場の監視と事後的なチェックを基本とする体制に移行していくだろう。そのプロセスの中で残された競争を阻害する要因をひとつひとつ除いて行くことがわが国の電気通信市場の活性化につながっていくだろう。規制の枠がはずれる以上、産業の発展はすべて事業者の創意工夫や努力にっかってくる。外資を含む厳しい競争に勝ち抜くためには、より一層の経営努力が求められるだろう。

通信事業研究部長 小沢 隆弘
e-mail:ozawa-t@icr.co.jp
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