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1998年5月掲載

電話の「優先接続」制度の導入を急げ

  電話の「優先接続」制度は、利用者があらかじめ使いたい電話会社を登録しておくことで、「00XX」などの識別番号の格差をなくし、公正な競争条件を整備しようというものである。郵政省が研究会を発足させ、本格的な議論が始まったが、利用者にメリットが多いと思われるこの制度も、既存の業界秩序を揺るがしかねない問題を孕んでいて、論議を呼びそうだ。

 現在、「0077」などの事業者識別番号を回さないで長距離電話をかけた場合、自動的にNTTの長距離網に接続されてしまう。それではたまらないというので、DDIや日本テレコムなどの新電電は、識別番号を付けなくても最も安い事業者の回線を自動的に選択する「LCR」を開発普及させて、NTTに対抗し顧客を獲得してきた。

 公正な競争条件の重要な要素の一つである電話番号の利用の公平性は、競争が導入されてから10年以上経過しても、なお未解決のまま今日に至っている。

 さらに、99年夏にはNTT再編で誕生するNTT長距離会社に識別番号が付与される予定で、今まで事業者識別番号が不要だったNTTの利用者に、4桁の識別番号をダイヤルさせることになれば、サービスの低下になる。NTTの再編が大幅なサービスの低下をもたらすとすれば、再編そのものの意義を問われかねない。

 規制緩和で今後も新規参入が活発化する状況だし、地域網の支配的事業者であるNTTもデジタル化が終了し、通信網の改造工事も経済的に実施できる条件が整ってきたので、この際「優先接続」の導入によって、この問題についての根本的解決をはかるべきだ。

 米国では、AT&T分割にあわせて「優先接続」制度を導入済みだし、欧州連合(EU)も2000年までの実施を目指すなど、世界的な標準としての流れでもある。米国で、利用者の事前の了解のないまま「優先接続」事業者を変更する「スラミング」が問題になっているが、これは事業者のモラルと代理店管理の問題であって、「優先接続」そのものの欠陥ではない。わが国でもかつて、LCRの取り外しや取り替えのトラブルが頻発した。

 新電電の一部には、LCR(TTNetの「東京電話」の参入を契機に、最も安い事業者の回線を選択する機能を停止させ、機能を識別番号の付与だけとしたため、最近ではアダプターということが多くなった)で今後も顧客の囲い込みを図りたい考えもあるようだが、「優先接続」が導入されれば電話番号利用上の公平性が達成できるのだから、多額の投資をしてアダプターを維持していく必要性もなくなる。将来的には、二重投資を避けアダプターの解消をはかるべきだろう。

 問題は、利用者が特定の電話会社を選んで「優先接続」の登録を行う際、公平性が保てるか、ということではないか。新規参入事業者は、地域通信市場で圧倒的なシェアを持つNTT地域会社が窓口になれば、関連企業のNTT長距離会社が有利になるのは避けられない、と心配しているからだ。

 「優先接続」に移行する際、すべての利用者の意向を確認するか、複数の電話会社と契約している利用者に限って確認するか、周知の方法と期間をどうするか、「優先接続」登録をしたくないという利用者の意向を認めるべきか、回答をしなかった利用者の扱いをどうするか、など一見事務的と思える手続きについても、事業者の利害が絡み、紛糾のタネになる可能性がある。意向確認が公正に行われる仕組みを考えるべきだ。

 国際通話や市内通話も「優先接続」の対象に含めるのか、という問題もある。KDDだけが「001」(KDDはこの7月1日から開始する国内長距離電話サービスにも「001」を使う予定)で、それ以外の事業者は「00XX」というのでは、番号利用の公平性の原則に反する。含めるのは当然だろう。

 また、事業者識別番号(4桁)をダイヤルすれば、「優先接続」登録をした事業者以外の事業者の電話サービスを自由に利用できるようにしておくべきだが(「優先接続」登録した事業者が故障もしくは輻輳の場合に有効)、その際の料金収集や清算のルール化が必要になるだろう。現在は、国際は「みなし契約」、国内は「事前契約」となっている契約方式の見直しなども必要になるのではないか。

弊社社長 本間 雅雄
編集室宛>nl@icr.co.jp
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