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InfoComアイ
1998年10月掲載

激化するグローバル競争と国内キャリアの生き残り戦略

1.国際通信市場の底流にパラダイム・シフト

 通信市場が大きく変化している要因の一つは需要サイドにある。企業活動のグローバル化が進んだ現在では、経営に必要な情報をリアルタイムに流通させ、スピード経営を実現しなければ、企業は競争力を維持できない。多国籍企業に流通する情報の大部分は音声ではなくデータだが、インターネット技術の高度化によって音声、データ、画像情報の統合へと向かいつつある。企業の求める情報を必要な形態で、シームレスにワンストップ・ショッピング・サービスとして提供していくのが通信市場の一つの流れだ。
 この市場は現在の400億ドル規模から、10年後には2000億ドルに急成長すると見られる。巨大な通信事業者といえども独力で対応するには、技術開発、販売、顧客サービス、資金などの面で限界がある。サービス提供地域の拡大、コストの低下、新サービスの開発や「品揃え」の競争に勝ち抜くためには、規模の拡大や新技術の取り込みを目指す必要があり、提携や合併に踏み切らざるを得ない理由はそこにある。
 また、市場の変化は供給サイドの技術の進歩による影響も大きい。例えば光波長多重技術(WDM)による光ファイバー回線の大容量化が進んでいるほか、インターネット技術の進歩でルーターの大容量化・高機能機種も実際に企業通信の現場に導入できるまでに品質が向上している。無線技術の高度化で固定電話と携帯電話の料金差がなくなるのは時間の問題。双方向の広帯域通信も可能になってきた状況だ。その結果、効果として通信コストの大幅な低下だけでなく、通信事業と放送事業、コンピューター産業との融合が起こっている。

 一方、規制環境の変化としては97年2月にWTO(世界貿易機構)で通信自由化が合意され、今年5月に批准された。これまでも先進諸国では規制緩和による競争原理の導入、民営化、外資規制の撤廃・緩和がすでに進展しているが、WTOの合意により全世界的な流れとして一般化した。これが現在の通信市場で起こりつつある動きの底流にもなっている。
 なかでも、国際通信市場はパラダイム・シフトの時期を迎えている。第一に、電気通信サービスが「コモディティー化(一般化)」していく傾向にあるということだ。これまで通信事業が規制対象だったのは、通信容量が稀少資源であったためだが、技術の高度化で大容量化がますます進展し、競争が激しくなれば今後は通信容量の過剰時代へ移行していくと見られる。
 第二に、通信の主役は固定網の音声通信からインターネット中心のデータ通信へ変わろうとしており、音声通信自体は一人一台が見込める移動体通信に取って代わられる可能性も秘めている。また、回線交換のネットワークは数年内に終止符を打って、IPネットワークの時代に入るだろう。従来の電話交換機を中心のインテリジェント・ネットワーク構成は、今後サーバーやルーターで構成されるシンプル・ネットワークに移行する流れをたどり、インテリジェント性はエンドユーザーに近い端末部分で機能を発揮するだろう。
 したがって、国際通信も2国の事業者の共同事業としてのコンセプトから、単純に市場原理による事業展開へと変化していく。これまでの設備所有原則から回線リースも可能になるほか、2国の直通回線によるエンド・ツー・エンドのサービス概念から、多国間市場でハブ・アンド・スポーク回線構造によるサービスに進展していくと考えられる。

2.グローバルIP時代にらむAT&T、BT連合の構想

 一般的なグローバル・アライアンスのねらいは、シナジー効果の追求にある。具体的には、戦略上欠落している技術、顧客ベース、地域、設備面などを補うケースや、規模と範囲の経済の追求を達成する場合、あるいは統合により重複部分を効率化する場合のほか、多くの顧客が存在する地域での事業展開、資金調達を容易にするメリットなどがある。これまでの通信事業者同士のグローバル・アライアンスは主にグローバル・カバレッジ重視型であり、AT&TとBTの場合もやはりその傾向が強い。
 AT&TとBTのアライアンスで最も注目すべき点は、従来の電話の時代を前提にしたアライアンスを精算し、IPネットワーク時代のアライアンスを再構築しようとしていることだ。両社が共同で設立する新会社が展開するグローバルIPプラットフォームの上で、他のパートナーとオープンなアライアンスを構築する新しいビジネス・モデルを提起した。
 さらに特徴として、(1)設備を含めた両社の国際通信部門の全面的統合であり、初年度から110億ドルの売上げと10億ドルの利益を見込んでいる、(2)次世代公衆通信網の標準を確立し、グローバルIPネットワーク事業を展開する、(3)中継、ハブを含む通信事業者向けサービス、および国際通信卸売りサービスなどの「国際キャリア・サービス事業」を重視し、初年度売上げの40%強を見込んでいる、(4)新通信網はオープン・プラットフォームとして展開し、網のAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を介してパートナーの利用を可能にする、の4点が挙げられる。

  こうした点から見て、AT&TとBTが提携する意義は、(1)大西洋を挟んで約50%のシェアを占める圧倒的なグローバル・カバレッジ、(2)英語圏同士で比較的文化が共通する企業提携、(3)比較的成功したグローバル・アライアンスのコンサートの資産の継承、(4)50%対50%の資本構成、という点から成功する可能性が高いものの、両社のアライアンスが支配力を持つという保証はない。巨大通信会社同士が組んでも安泰だと言えないのが通信市場の特性だ。

3.通信事業は二極化に収斂、選択迫られる国内キャリア

 グローバルな競争が進展する中で、日本の通信事業者が超えるべき課題は、第2次情報通信改革の規制緩和の枠組みによる経営環境の変化への対応であり、さらなる規制緩和への対応だ。コンピューター産業や外資系事業者の参入で競争激化による料金の低下は避けられないだけでなく、ニーズの変化と技術革新への対応が必須の条件だ。
 具体的には、(1)コスト削減による効率的な経営へのシフトと新技術の導入、設備コスト、販売および管理費コストなどの削減、(2)新市場、新サービスの開発、とりわけビジネス活動向けの電子商取引やウェブベースのEDI、インターネットVPN、インターネット・コールセンター、ポイント・ツー・マルチポイントの統合サービスなどを含めたネットワーク・ソリューション・ビジネスへの取り組み、(3)回線交換からIPネットワークへの転換をいつどのように実施するか、(4)スケールと品揃えを誇るグローバル・キャリアを目指すか、またはサービスに特徴を持たせたニッチ市場に特化するか、事業展開の二極化に対応した戦略の見直し、の4点で選択を迫られる。
 国内ではある程度の国際、長距離、地域の事業区分を超えたアライアンスが進んでいるが、今後、海外戦略を見据えながらどうアライアンスを組むか経営戦略の岐路に立たされている。

「テレコミュニケーション」(1998年10月号)『座談会』における基調スピーチより。
リックテレコム社のご好意により転載させていただきました。
取締役相談役 本間 雅雄
編集室宛>nl@icr.co.jp
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