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1999年4月掲載

通信機器業界で何が起きているか

  昨年8月のNortelのBay Networks買収以来、電気通信とコンピュータ各業界の提携、M&Aが相次いでいる。これら機器ベンダーの相次ぐ提携、M&Aを推し進めているのは、ドラスティックに変化する市場に適合していかなければ淘汰されてしまうという通信機器メーカの危機感である。
 以下、通信機器業界における最近のM&Aの動きから通信機器産業のグローバルトレンドについて考えてみたい。

1.エッジングアウト型M&Aの進展

 1999年に入り、1月には局用交換機メーカ第3位のLucentのAscend買収、そして3月にはシェアトップのフランスのAlcatelのXylan買収と続き、残る第2位ドイツのSiemensと第4位スウェーデンのEricssonの動きが注目されていたが、つい先日Siemensの新会社設立と買収が発表された。
 局用交換機市場で15%のシェアをもつSiemensはCiscoとのLANスイッチとコールプロセッシング技術開発分野における提携関係を維持しながら、データネットワーキング分野に特化した新会社UNISPHERE SOLUTIONS(www.unispheresolutions.com)を米国に設立し、3ComとCisco製品の供給体制を確立するとともに広帯域IP、ATMの開発を手がけている2つの会社を買収した。
相次ぐ通信機器メーカのデータネットワーキング機器ベンダーの買収は音声とデータの2つの業界が互いに歩み寄って成立したものではない点に注目する必要がある。歩み寄っているのはいづれも局用交換機の老舗ともいうべき通信機器メーカであり、歩み寄られているのは、インターネットとともに急成長してきたNew Boysと呼ばれるデータネットワーキング機器ベンダーである。
 こうした老舗メーカの新参ベンダーへの一方的な歩み寄りはエッジングアウト型 (edging out) M&Aと呼んでよいだろう。エッジングアウトとは、インターネットを媒介に、コンピュータ用に開発された情報技術が回線交換網の世界を急速にレガシー化していくことを言い表す用語である。

2.New Boysの台頭

 New Boysの筆頭格は7年間で売上を130倍の92億ドルへと、Lucentに次ぐ売上規模にまで伸ばしたCiscoである。ハブ、スイッチ、ルータ等企業向けのデータネットワーキング機器分野でのブランドをいち早く確立しただけでなく、インターネットを活用した受注、販売方式によりEricsson, Siemens, NECの3倍以上の生産性を達成していることでも知られている。
 Cisco, Microsoft, Intelのインターネット市場の寡占化を警戒する声も聞かれるが、3Com, Tellabs等ダウンサイジングの流れのなかで急成長してきたデータネットワーキング機器ベンダーとのエッジングアウト型M&Aの動きがこれからも一層加速することは間違いない。

3.Old Boysにとってのチャレンジ

 1世紀近くの間、各国のドミナントなキャリアに依存してきたLucennt, Nortel, NEC等の通信機器メーカは大きな転換を迫られている。これら通信機器メーカはIPネットワークのエッジからバックボーン、さらには回線交換部分までのトータルソリューションに加えて、特にパブリックネットワークのメインサプライヤーとしてのPSTN上でのより効率的なデータ伝送技術、回線交換網からパケット網へのトランジット技術、インターネットワイヤレスと固定網の統合技術等の開発が急がれている。
 技術的な課題に関しては、エッジングアウト型M&Aで対応していくとして、ITUを中心とするデジュレスタンダード、キャリアへの年単位での納入等慣れ親しんだキャリアの世界からの脱却が一番の課題となるだろう。

4.電気通信機器産業のグローバルトレンド
 Financial Timesのテレコムアナリスト、Alan Cane氏は電気通信産業の新しい構造が出来上がるまでのステップとして、次の4段階を挙げている。

第1段階 既存通信事業者が国営企業として存在するなかでの新規通信事業者の参入が進む段階
第2段階 グローバルな競争環境のもとでの提携、M&Aが進む段階
第3段階 競争の激化によるサプライヤー等事業者の淘汰、再編が行われる段階
第4段階 混乱のなかからの新しい産業構造の胎動

 通信機器産業は、第2段階から第3段階にさしかかろうとしているが、エッジングアウト型M&Aが進んでいる背景には、IP化の大きな流れのあることはもちろんのこと、局用交換機、伝送機器市場をはるかに凌ぐデータネットワーキング機器市場の拡大がある。第4段階に向けた通信機器産業の方向は、音声ではなくデータであり、局用交換伝送技術の汎用化ではなく、LAN/WAN等企業ネットワーク技術のPSTNへのトランジットであり、ハードウェア/技術からソフトウェア/マーケットへのシフト、キャリア志向から顧客志向への転換ではないだろうか。

グローバルシステム研究部長 平川 照英
e-mail:hirakawa@icr.co.jp
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