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1999年11月掲載

地域通信市場での競争促進へ一層の規制改革を

1.英国政府とBTが「定額料金制」で話し合い

 10月29日のウオ−ル・ストリ−ト・ジャ−ナル(インタ−ラクティク版)は、英国の貿易産業大臣と規制機関のオフテル長官が電話会社のBTの社長と会って、インタ−ネット・サ−ビス・プロバイダ−(ISP)が時間無制限のウェ ブ・アクセスを月額定額料金で提供できるように、BTの料金体系をオ−プンにすることについて、話し合いを持つ準備をしていると、以下のように報じている。

 1分毎に料金を課す(per-minute charges)現在の電話の仕組みが、利用者が長時間インタ−ネットをサ−フィングしたりオンライン・ショッピングをする気持ちを失わせ、そのことが英国やその他の欧州各国の電子商取引の発展を遅らせている。アナリストや多くのオンライン企業の幹部は、市内電話定額料金制が米国にインタ−ネット分野での競争優位をもたらした、と信じている。

 欧州では、旧独占国営企業のBT、ドイツ・テレコムやフランス・テレコムなどが、市内電話の時分制と自社のインタ−ネット接続部門で多くの収入を得ていたため、改革は遅々として進まなかった。また、政治家や規制当局も、市内電話サ−ビスやインタ−ネット接続の分野で、旧独占企業に対して自由な競争を促進してこなかった。特に、政府が過半数の株を所有するフランスとドイツでは、その傾向が強かった。

 従来定額料金制に消極的だったBTも、「(時分制とは)異なる解決方法が見つけられるだろう。定額料金制は明らかにそのうちの一つだ。」と言っていることからも、何らかの方針転換を打ち出す可能性も考えられる。政府当局とBTの話し合いは今後数週間以内の見通しだという。

 しかし、収入の多くを時分制料金に依存している既存の電話会社が、全面的な方向転換をするのは難しい。ISDN料金の完全定額制(月額8、000 円でNTTに批判が殺到した)や一定時間までの定額制(37.5時間まで3、000 円、何故かこちらは余り話題にならなかった)がせいぜいではないか。現時点で市内電話を事実上独占しているNTTに、いくら情報立国の理念を説いてみても、企業存立の根幹にかかわる問題だけに、理念だけで解決できる話ではない。また、現在の電話収入を前提にしての定額料金制なら、定額料金が高くなってインタ−ネットの普及は進まず、意味がない。

2.設備ベ−スでの競争促進が本命

 基本的な解決は、ロ−カル・アクセス市場での競争を促進することではないか。これには方向が二つある。一つは、事実上ロ−カル市場を独占しているNTT地域会社の市内網をオ−プンにして、競争者に一定の条件で利用できるようにすることである。郵政省はNTTの市内電話回線のMDF(本配線盤)接続を認める意向であり、DSLの競争が促進されよう。しかし、それだけでは十分ではない。

 設備ベ−スでの競争促進が第二の方向である。ロ−カル・アクセスの技術もいろいろ出揃ってきた。FWA(Fixed Wireless Access )といわれる無線アクセス技術や携帯電話(最近NTTドコモのiモ−ドでインタ−ネット接続の有効性が証明された)、通信衛星、ケ−ブルテレビ・モデム、既設の電話線の高周波部分を使うDSL(Digital Subsciber Line)、それに光ファイバ−である。ここに、投資が集中する環境を整備する必要がある。

 しかしここには、いろいろと難関がある。一番難しいのは、光ファイバ−を収容する地下管路の設置である。同じ場所を掘り返すのは3年あるいは5年といった決まりがあって、すぐには工事ができない。許可がでても工事は夜間だけというケ−スもある。無線の場合でも、無線基地局を設置するビルの屋上や電柱などの使用が難しい。ビル内配線との接続はビルのオ−ナ−の了解が必要だ。

3.米国の先例に学ぶべきこと
 米国では、これらの問題をどう解決しているのか。第一に、1996年通信法251 条には、 先行地域通信事業者(Incumbent Local Exchange Carrier)の相互接続義務が定められている。そのなかに、公道使用権(Rights-of-Way) へのアクセスが規定されていて、 ILECは競争相手に、電柱、管路、導管および公道使用権へのアクセスを提供する義務がある。因みに、 筆者が去る7月に訪問したBTの研究所で見せて貰った”Blown Fiber"は、 管路の中に最大19本の細いプラスチックのチュ−ブを挿入し、1 チュ−ブに最大16心の光ファイバ−を、 空気で吹き込む(blown) というものだった。管路の効率的利用が可能である。

 第二に、通信法224 条の電柱添架(Pole Attachment )の規程である。電気通信事業者以外の「公益事業者」が所有または支配する電柱、管路、導管または公道使用権(poles、ducts、conduits、or rights-of-way )に、ケ−ブルテレビと電気通信事業者がアクセスできる権利を認めている。

 第三に、1996年通信法706 条の「高度電気通信への誘因(Incentives)」の規程である。「FCCおよび州の規制機関は、公衆の利益、利便および必要に適合する方法で、プライス・キャップ規制、規制の差し控え(forbearance )、電気通信を促進する施策、その他インフラストラクチャ−への投資障壁を除去する規制方法を活用することによって、すべての米国人に対して高度電気通信の能力を、合理的かつ時宜に適した方式で提供することを奨励せねばならない。」州の規制機関などは、インフラに対する投資障壁を除去する有効な施策を打ち出さなければ、通信事業者の訴訟に曝されることになる。

4.競争促進の「配当」を期待

 わが国の「電気通信事業法」にはこのような規程はない。そもそも「競争」という言葉が全く出てこない。これは「通信法」と「通信事業法」の差なのかもしれないが、競争促進のために選択すべき政策手段として、電気通信産業内部での対処に止まらず、他の公益事業の公道使用権へのアクセスを認め、インフラへの投資障壁の除去する規制方法を活用することを義務づけている点は注目すべきだ。

 情報通信産業を、21世紀の日本の発展の牽引力として期待するというのであれば、そこに投資のインセンティブが働く仕組みが必要だ。一業界、一省庁の枠を超えた、国としての戦略と意思が明確に示されなければならない。米国では、上記のような通信法の規定があっても、ロ−カル市場の売上に占める新規参入企業のシェアは3〜5%程度に止まっていることを、問題視している。

 わが国でも、現在の道路占用協議の在り方を見直し、極力需要に柔軟に対処できるようにすべきだ。また、先行通信事業者だけでなく、他の公益事業(電力、ガス、上下水道、鉄道、高速道路など)の公道使用権にも通信事業者のアクセスを認め、 高度情報通信の能力(capability)を誰でも使える料金(affordable)で提供し、 競争促進の配当をすべての国民に享受できるようにしていくべきではないか。

相談役 本間 雅雄
編集室宛>nl@icr.co.jp
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