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2000年2月掲載

AOLとタイム・ワ−ナ−の合併が意味するもの

 去る1月10日、米国のインタ−ネット・サ−ビス1位のAOL(アメリカ・オンライン)とメディア最大手のタイム・ワ−ナ−が合併し、AOLタイム・ワ−ナ−が誕生する という発表があった。新会社の持ち分の55%をAOLの株主が保有し、新会社の会長にはAOLのケ−スCEO、CEOにはタイム・ワ−ナ−のレビンCEOが就任する。

 これは米国における(インタ−)ネットとメディアのトップ企業の合併であり、まったく新しい時代の幕を開ける先見性に富んだ世紀の大合併として、評価が高かった。かなりの新聞や雑誌が「次はどこか」について書いている。日本の新聞などでは「合併」と報ずる記事が多かったが、実質上はAOLによるタイム・ワ−ナ−の「買収」であり、「ノミが象を買収できた訳」(NEWSWEEK 2000.1.26 日本語版)にも関心か集まった。

 世紀の大合併の報道ラッシュも一段落したところで、この「合併」の本当の狙いは何か、またその影響をどう評価したらよいのか、について考えてみたい。

両社のプロフィール

  AOL タイム・ワーナー
顧客
  • 2,000万人のAOL会員
  • 220万のコンピュサーブ顧客
  • AIM(注)利用者5,000万人
  • 海外における利用者 340万人
  • 同時オンライン利用者 140万人
  • CNNアクセス 10億
  • HBO加入者 3,500万人
  • 雑誌読者 1億2,000万人
  • ケーブル加入者 1,300万人
  • Roal Runner(注)顧客 32万人
経営
  • 99年売上高 48億ドル
  • 99年純利益 7.6億ドル
  • 株価総額 1,600億ドル
  • 98年売上高 268億ドル
  • 99年純利益 1.7億ドル
  • 株価総額 920億ドル
従業員
  • 12,100人
  • 70,000人

(注)株価総額は2000.1.7現在(合併発表前)
AIM はAOL のインスタント・メッセ-ジイング・サービス
Road Runner はケ−ブルテレビの設備を利用したインタ−ネッと接続事業

■AOLによるタイム・ワ−ナ−「合併」の狙いは何か

 新「AOLタイム・ワ−ナ−」の強みは、メディア企業であるタイム・ワ−ナ−が持っている豊富なコンテンツをインタ−ネット・サ−ビスのリ−ダ−AOLのネットワ−クを経由して、世界最大の顧客基盤に配信できることにある、と大方の評価は高い。
 両社の「合併」(BUSINESS WEEK 2000.1.24 は「間違えてはいけない。AOLが買収したのだ」と書いている)は「ニュ−ミレミアムに向けたニュ−・メディアの構築」(合併発表の際の両社のニュ−ス・リリ−ス)であり、相互補完のメリットが大きく、将来より大きな価値を生みだすだろう、というのがその理由である。

 この「合併」は、型破りのスピ−ド合併だった。AOLのケ−スがタイム・ワ−ナ−のレビンに電話をかけて、合併を持ちかけたのは昨年の10月だったという。AOLは以前から巨大メディア企業の買収に関心を持っていたし、タイム・ワ−ナ−に「敵対的買収」を仕掛ける体制を整えていた可能性もある。一方、タイム・ワ−ナ−は巨大な株価総額を持つインタ−ネット企業による買収を警戒していた。(NEWSWEEK 2000.1.26)

 AOLの株価は97年以降急激に上昇し、合併発表前の段階ではAOLの株式時価総額はタイム・ワ−ナ−の1.74倍の規模に達していた。急速に変化する市場での自社の位置づけ不安を募らせていたタイム・ワ−ナ−のトップは、AOLからの合併提案を好意的に受け止めたという。話合いは当初は、対等合併(株主資本の持ち分が50対50)で始まったが、その後もAOLの株価上昇が続いて対等合併は困難になり、タイム・ワ−ナ−の株主に71%のプレミアムを付けることで折り合ったようだ。(前掲NEWSWEEK,BUSINESS WEEK 2000.1.24)

 AOLは株式交換とはいえ、なぜAOLの株価が下落するリスクを冒してまでタイム・ワ−ナ−の株主に破格のプレミアムを認め、異例のスピ−ド合併に踏み切ったのか( 1月28日現在AOLの株価は合併前に比べ20%下落した)。世界最大の顧客を擁するAOLのネットワ−クは「ダイヤル・アップ ナロ−バンド ネットワ−ク」(両社の合併のニュ−ス・リリ−ス)で、このままではブロ−ドバンド革命に乗り遅れてしまう、どうしてもタイム・ワ−ナ−のケ−ブルテレビ事業(加入数1,300 万)を支配下におきたいと判断したようだ。キ−・ワ−ドはコンテンツより「ブロ−ドバンド」である(前掲 NEWSWEEk )。

 昨年、米国長距離通信事業1位のAT&Tはケ−ブル・テレビ1位のTCIを合併し、次いで3位のメディワンとの合併合意を取り付け、ケ−ブルテレビ事業でも一躍トップの座を占めることになった(この合併規模は1,100 億ドル)。さらに、AT&Tはケ−ブルテレビ2位のタイム・ワ−ナ−および4位のコムキャストともケ−ブルテレフォニ−や双方向広帯域サ−ビスで提携することで合意し、交渉を続けていた。
 これらのケ−ブルテレビ会社とその関連企業を含めると、全米のケ−ブルテレビの約60%がAT&Tの影響下に入る、とみられていた。AT&Tの狙いは、ブロ−ドバンド革命をにらんで広帯域双方向のアクセス伝送路を確保し、サ−ビス、品質、コストを直接コントロ−ルすることである。

 AOLはこのAT&Tによる「ケ−ブル・テレビ支配」に反発し、「オ−プン・アクセス」を強く主張していた。その一方で、AOLは広帯域アクセスを確保するため、衛星デジタル放送のディレクTVに出資し衛星利用を促進するとか、ベル電話会社と提携してADSLによるアクセスを確保するなどの対抗策を講じていたが、いま一つ決め手を欠いていた。

 一方、タイム・ワ−ナ−はインタ−ネットの将来性を見込んで、1990年代前半、ケ−ブル・テレビ事業の買収に巨費を投じた。だが、同社のネット事業は誤算続きだった。フロリダ州オ−ランドでの双方向テレビなどのプロジェクト、「フル・サ−ビス・ネット」は失敗だった。94年に立ち上げた同社のポ−タル・サイト「パスファインダー」も 5年間に400 億ドルの赤字を出し、撤退を決めている。タイム・ワ−ナ−は、顧客基盤を拡大しコンテンツの価値を高めるため、汎用ポ−タルに進出したいが独力では限界があると判断して、株主に有利な条件を引き出し、「買収」に応じたのではないか。

ケーブルとDSLモデムの需要比較  AT&Tは、AOLとタイム・ワ−ナ−の合併で、ケ−ブル設備が広帯域アクセスのインフラとして、その価値が改めて評価されたことを強調したうえで、これでコンテンツと伝送が別々のものではなくなり、種々の企業が新しい提携関係を追求する契機になるだろう。しかし、AOLのコンテンツ指向に対しAT&Tは通信指向であり、より相互補完的になったのだから、相互に協力する機会がより増加したことになる。協力の舞台は双方向テレビだろう、と両社の関係改善をアッピ−ルした(New York Times 2000.1.16 Interactive版)。
 しかし、両社の合併で昨年来続けてきたAT&Tとタイム・ワ−ナ−・ケ−ブルの提携交渉の見直しは避けられないとか、AOLがケ−ブル・テレビ網を支配すれば「オ−プン・アクセス」の主張を取り下げるのではないか、という見方もでている。

■ノミが象を買収できた訳

 ノミ(AOL)による象(タイム・ワ−ナ−)の買収を可能にしたのは、米国の株式市場である(買収はオ−ル株式交換で行われ、AOLとタイム・ワ−ナ−の株式1株に、新会社の株式がそれぞれ 1株および1.5 株が割り当てられる)。すでに市場は、創業15年のAOLに、78年の歴史をもつタイム・ワ−ナ−の2 倍近い評価を与えていた。前掲のNEWSWEEK誌によれば、ウオ−ル街はAOLが稼ぐ1 ドルは、タイム・ワ−ナ−が稼ぐ 1ドルの8〜12倍の価値があると言っている、ことになる。

 アナリスト達は、次世代のブロ−ドバンド・サ−ビスを担うインフラの主役として注目されているケ−ブル・テレビ網から締め出されれば、AOLは不利になると懸念していた。AOLの説明によると、ケ−ブル・テレビは合併の動機の一つに過ぎない、としているが、ウオ−ル街が心配していることにはAOLは手を打たなければならない。ストックオプション(自社株購入権)こそがAOLの企業文化の原動力になっているからである。そして、高株価こそが買収の原資になっている(NEWSWEEK 2000.1.26)。

 しかし合併発表直後、AOLの株価は19%下落し、株価総額を320 億ドル減らした。このうち、220 億ドルはタイム・ワ−ナ−の株主に価値が移転し(株価の上昇は42%)、残りの100 億ドルは合併それ自体が市場にマイナスに評価されたことになる(1月12日現在、BUSINESS WEEK 2000.1.24 )。今後もAOLの株価の下落が続けば(その原因はタイム・ワ−ナ−の株主に71%ものプレミアムを認めたことにある)株主の合意が得られない場合も考えられる。

 さて、次にA0L/タイム・ワ−ナ−型の合併(ネットとメディアのアライアンス)を目指す企業はどこか、に関心が集まっている。BUSINESS WEEK 誌(2000.1.24) は以下の 6社をあげているが、その見出しは「彼らはお互いに見つめ合っている」であった。

 (1)マイクロソフト  (2)AT&T    (3)ヤフ−
 (4)ディズニ−    (5)バイアコム  (6)ニュ−ズ・コ−ポレション

■ポスト・パソコンの時代に走りだしたマイクロソフト

 AOLとタイム・ワ−ナ−の合併が発表された 3日後の1 月13日に、マイクロソフトのビル・ゲイツがCEOを辞任して、会長兼「チ−フ・ソフトウエア・ア−キテクト(CSA)」に就任すると発表して話題を集めた。「インタ−ネットの可能性を最大限に引きす新世代のソフトの開発」に専念するという。

 AOLタイム・ワ−ナ−は、すでに確立されたインタ−ネット技術の活用を目指しているのに対し、マイクロ・ソフトは別の可能性に挑戦する。これからのネット社会を制するカギはコンテンツを所有することではなく、(パソコン以外の)あらゆるデバイスで使えるソフトを開発することである、というのがマイクロソフトの考え方のようだ。

 昨年10月に開催された「テレコム99」でビル・ゲイツは、これからのネット社会で必要なのは「いつでも、どこでも、どんなデバイスでも(on any device )」インタ−ネットの利用を可能にすることであり、その実現ためには「ブロ−ドバンド、モバイル、アプリケ−ション・ホスティング」が重要である、と語っていた。

マイクロソフトが目指すのは、様々なアプリケ−ションやウェブペ−ジ、デ−タベ−スをつなぐサ−ビスやツ−ルの開発のようだ。マイクロソフトは、世界中のあらゆるデジタル情報を統合し、誰が、どこで、どんなデバイスを使ってもコミュニケ−ションができるようにするソフトウエアを、近くリリ−スが予定されているウィンドウズ2000を最大限に生かして開発する、という壮大で困難な目標に挑戦することになった。

 AOLが巨大メディア企業を買収する必要はなかった、という声もあるようだ。AOLがタイム・ワ−ナ−のケ−ブル網へのアクセスを確保した点は評価するが、企業文化が大きく異なる会社をまるごと買い取ることが得策だったか、という疑問である。一方、業界最大手の合併によって、二番手以下は苦しい戦いを強いられるから、それなりの意味があるという見方もある。また、マイクロソフト(米国2位のインタ−ネット接続会社)も別の途を歩みそうだ。ネット企業とオ−ルド・メディアの合併が、2000年のトレンドになるかは分からない。

取締役相談役 本間 雅雄
編集室宛>nl@icr.co.jp
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