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2001年7月掲載

欧州における3Gネットワーク・シェアリングの容認とその影響

■ドイツ政府が3Gネットワークの共用を許める

欧州主要国次世代携帯電話免許の許可状況と各国の人口  ドイツの電気通信・郵便に関する独立規制機関(RegTP)は去る6月5日に、第3世代携帯電話(3G)システム(UMTS)の構築を、一定の範囲内で事業者が協力して行うことを認めるとする規制緩和案を発表した。欧州の通信事業者は1,200億ユーロを超える電波免許料とそれとほぼ同額のシステム構築のための投資資金の調達に苦しんでいるが、今回の改革案によって40〜20%程度の投資額の削減(このほかに運営経費の節減も)見込まれることから、通信事業者はおおむね歓迎の意向を表明している。

 ドイツの規制当局の改革案に対する基本的考え方は、経営が悪化するなかで資金調達に苦悩する通信事業者に手を差し伸べるにしても、競争を阻害するような設備の共用(ネットワーク・シェアリング)は認めないこと、および周波数の競売を行った際の免許条件の変更は行わない(免許条件の変更を行えば、共用によるメリットの小さいドイツ・テレコムやボーダフォンなどから訴訟を提起される可能性が強い)こと、の2つの条件を満たすというものだった。

 通信事業者にとって携帯電話網の共用は新しいことではない。欧州においても、不動産コスト削減のためや、電波の照射による健康への影響を懸念する近隣住民に対する配慮から、アンテナを共用することは広く行われていた。しかし、ここにきて新技術の開発によって、無線信号の送受を制御する基地局装置の一部を通信事業者が共用することが可能になった。2003年までに利用可能になると見られるソフトウエアによって、通信事業者は物理的な第3世代ネットワークの各部分を共用しながらも、各社の周波数を独立して制御できるようになる。通信事業者は、不動産、電子機器ユニットと配線および基地局設備の共用によって、コストの削減を実現できる。

 事業者間で共用できる主要機器と装置は

  1. サイト、マスト、アンテナ、ケーブル、コンバイナー
  2. 基地局、レピーター、電源機器を収容するサイト・サポート・キャビネット
  3. 論理識別無線ネットワーク・コントローラー
などである。RegTPのクルス長官は、従来から行われていた物理的設備の共用以上のものではなく、周波数のプーリングやコア・ネットワーク(携帯電話加入者を接続し、他社のネットワークへのゲートウェイを提供するスイッチイング・センターを含む)の共用は行わない、したがって、各通信事業者の相互に独立した競争者としての位置付けは変わらない、変わったのは規制の枠組みではなく技術である、と主張している。

 3Gで携帯電話市場に新規参入する企業は、初期投資を低く抑えられることを歓迎している。モービルコム(フランス・テレコムの関連会社)は、この規制の枠組みで対応可能だとして、他の2社と交渉中であるが、計画によればトータル・コストの約40%の節減が可能だとしている。グループ3G(テレフォニカ57%、ソネラ43%出資)は、2002年初頭からE‐プルス(KPNの子会社)の通信容量を借り受け、GPRSによる高速データ伝送サービス提供を先行させたうえで、2002年末にはUMTSサービスを開始する予定だ。設備共用の提携先は、出来るだけ早く決定したいとしているが、対等のパートナーシップによりネットワークを構築できる相手が望ましいという。このほかE‐プルスは欧州最大の携帯電話プロバイダーのデビテルに、UMTSサービスを卸売りする契約を締結した。

 産業アナリストは、今回のRegTPの発表に積極的な反応を示している。通信事業者によるUMTSの建設コストの節減が確実になったと評価するアナリストもいるが、ネットワーク・シェアリングが通信会社の債務の格付けに影響を与えるほど効果があるかについては疑問だとする見方もあり、評価が分かれている。しかし、欧州の他の諸国がドイツに倣えば、通信会社の資金ポジションにかなりのインパクトを与えるとする見方が有力だ(注)

(注)通信事業者は3Gネットワーク・シェアリングによって設備投資の40〜20%が節約可能だと見ている。欧州におけるUMTSの投資予定額は約1,200億ユーロであり、設備共用による節減額は大金(serous money)である。
3G telecoms,Think thin and crispy,The Economist ;June 7th 2001

■欧州各国への影響とスウェーデンの先例

 欧州連合の競争法担当のモンティ委員は、通信事業者相互の3Gネットワーク・シェアリングに関する如何なる協定も、競争ルールを遵守しなければならないと語ったが、その審査のガイドラインについては、ほとんど触れなかった。欧州委員会は、事例毎に事業者の協力の態称と度合いが異なるであろうから、協定の競争的側面について個別に審査を行うものと見られる。欧州委員会は、欧州の無線通信事業における優位が、周波数の競売によって犠牲となることについて懸念を表明しており、競売のプロセスについて再吟味を始めている。また同委員会は去る3月に、周波数を落札した通信事業者の負担を軽減する方法として、ネットワーク・シェアリングを提起した経緯もあり、その有用性を十分理解していると思われる。

 欧州各国の規制当局で、ドイツに最も近い立場にあるのは英国の規制当局のオフテルであると見られている。オフテルは、原則としてネットワーク・シェアリングに反対せず、通信会社によるアンテナの共用を支持してきた。しかし、3Gのシェアリングはこれとは別の問題であり、利用者の利益確保の視点から、ケース・バイ・ケースで判断する必要がある、と語っている。

 欧州で3Gネットワーク・シェアリングに最も積極的なのはスウェーデンである。政府の税収への寄与よりも、市民にあまねく3G携帯電話サービスを提供することを優先し、4事業者に周波数を割り当てる際には、競売ではなく審査(ビューティー・コンテスト)方式を選択した。その結果驚いたことに、旧国営電話会社でノルディック地域最大の通信事業者のテリアはUMTS免許を受けることができなかった。

 しかし同社は、免許を取得したライバルのテレ2と、両社別々に競争的サービスを提供することを前提に、3Gネットワークを共同で構築することに合意した。この結果、テレ2は当初計画の50%以上のコスト削減が可能になった。

 スウェーデンにおいてUMTS免許を取得した他の3社は、ユーロポリタン・ホールディングス(ボーダフォンが支配的株主)、Hi3G(インベスターとハチソン・ワンポアとの合弁会社)およびオレンジ(フランス・テレコムの子会社)であるが、これらの3社は現在コスト削減のために、共同でネットワークを構築することで協力している。ボーダフォンは英国とドイツでは単独で3Gネットワークを構築する計画だが、スウェーデンでは今年の初めにネットワーク・シェアリングを推進する最初の事業者(ユーロポリタン)となった。

 UMTS免許を取得した通信事業者は、3大都市圏では夫々がネットワークを構築して運営する計画だが、ユーロポリタンはHi3Gと提携して、広大で人口密度の低い地域を中心に、ネットワークの70%を共用する計画だ。オレンジも、過疎地域はユーロポリタン/Hi3Gに合流する事を決定した。スウェーデンの規制当局は、UMTSの早期展開を優先する考えで、ネットワーク・シェアリングに反対しなかった。

 スペインでは、インフラの共用を認めて欲しいとする意見提起が、まだ事業者側から出されておらず、規制当局の態度もはっきりしない。イタリアでもこの問題に対する規制当局の態度ははっきりしないが、大手のテレコム・イタリアとオムニテル・プロントは、彼らの資源をライバルと共用することに反対している。しかし、新規にUMTS免許を取得したH3G(ハチソン・ワンポア78%)、CIRおよびティスカリの3社は設備共用について交渉を進めており、競争を阻害しない限りその可能性を歓迎するとしている。

 フランスは,UMTS免許の付与が既存大手2社(フランス・テレコムのオレンジ、ビべェンディ・ユニバーサルのSFR)に止まっており、現時点でネットワーク・シェアリングに対するインセンティブは小さい。オレンジとSFRは夫々自前のネットワークを構築する計画である。しかし、SFRは他社から人口密度の低い地域でネットワーク・シェアリングの要請あった場合、また通信容量を他社から購入し自社ブランドで再販するバーチャル・オペレーターからの要請があれば、これに応ずる用意があるとしている。

■BTとドイツ・テレコムが英独でUMTSのネットワークを共用

 RegTPが3Gネットワーク・シェアリングを認める方針を発表してから僅か1週間後の6月12日に、ブリティッシュ・テレコム(BT)とドイツ・テレコムは、英独においてUMTSのインフラ設備を共用することで合意したと発表した。ドイツにおいてBTの子会社のフィアック・インターコム(ドイツ第4位)とドイツ・テレコム(T‐モービル)、英国においてドイツ・テレコムの子会社のワン2ワン(英国第4位)とBT(BTセルネット)とが、夫々UMTSのインフラ(基地局、アンテナ塔、アンテナなど)を共用するというものだ。発表する時期も提携する2社の組み合わせも (ドイツ・テレコムは設備共用に反対と見られていた)予想外だったことで注目を集めた。

 BTとドイツ・テレコムは、夫々が英国とドイツにおいて計画していた投資額の30%に相当する20億ユーロを節約可能としている。両社は、都市地域では設備を共用してネットワークを構築し、地方では夫々が地域を分けてネットワークを作り、ローミングによって双方の利用者を接続するとしている。BTワイヤレスによると、設備共用の協定締結によってUMTSサービスの展開は加速し、2003年には地域ドイツにおけるカバー率(人口比)が当初想定の倍の50%に高まる見通しだという。この協定によって、BTワイヤレスとドイツ・テレコムは競争他社よりもUMTSの早期展開で優位に立つことが出来る、我々はこの協定をまとめるために数ヶ月間も働いており細部を知っている、我々はもう走っているのだ、とBTワイヤレスは強調している。

 両社はさらに、現行のGSMやGPRSでも設備共用を進める予定だ。両国の規制当局の承認が必要となるが、両社とも問題はないとの見方を示している。また、両社の提携発表当日の株価は僅かながら上昇し、欧州の通信事業者の債務削減にプラスと判断し、市場も好感をもって迎えたと見られる。今後この動きがどこまで広がるか、に関心が集まっている。BTワイヤレスは、BT本体からの資本分離と株式の上場後に、テレフォニカ・モビレスと合併すると噂されていたが、BT/ドイツ・テレコムの提携にテレフォニカが加わる(テレフォニカはドイツにUMTS子会社グループ3Gを持つ)可能性もあるという。通信機器メーカーのノキアによると、アンテナは技術的には最大4社の共用が可能とさており、今後欧州では携帯電話の設備共用の提携が広範に進むものと見られる。

■設備共用でUMTS事業のリスクを回避できるか

 RegTPの前副長官のベルゼン氏は「UMTS事業者の事業リスクは依然高く、設備共用が認められてもすべての事業者の生き残りを保証するものではない。」と語った。同氏によると、RegTPの要件を満たせるような設備共用の技術が2〜3年以内に実用化できる保証がなく、設備共用による費用節減効果は、最高40%、1事業者あたり約50億ユーロにのぼるとされているが、実際には多く見ても15%程度ではないか。さらに、国民の間で携帯電話基地局から出る電磁波の人体に及ぼす影響を心配する声が高まっていることを受けて、連邦政府は許容量規制を強化する方針だが、仮に出力を低く抑えているスイスのGSM網の基準をドイツに適用した場合、基地局の増設によって15%のコストが上昇する。これだけで設備共有のコストダウン効果は相殺されてしまうという。

 ベルゼン氏は、事業免許の条件自体を見直すべきだという。2003年までに人口比カバー率25%、2005年までに50%とするサービスエリア拡大義務を緩和すること、ドイツにおけるUMTS事業者6社は多過ぎ最低でも1社の削減が必要であり、RegTPは合併によって余剰となる周波数の売却を認めるべきだと主張している(注)

(注)Frankfurter Allgemeine Zeitung; 2001.6.7

 一方、3Gは別の方面からも攻撃に曝されている。メリル・リンチが最近出した報告書 “The 3G Squeeze” によると、3Gは2.5G(GPRS)とIEEE802.11b(2.4GHz無線LANの規格)などの無線コンピュータ・ネットワーク技術(ラップトップ・コンピュータを事務所のネットワークに接続する)の間で押しつぶされる危険に陥っている、という。同レポートによると、3G事業者が期待をもたせるハイ・ビット・レートはビデオのために計画されたが、利用者は移動しながらビデオを視ることはなさそうだ。移動時は速度の遅い2.5Gのネットワークで十分と利用者は考えている、と指摘している。

 しかし、このことは3Gネットワークが完全に不要であることを意味しない。2.5Gは現行の2Gよりも多くの無線周波数帯域を必要とするが、2.5Gに必要な追加の周波数はすでに他の用途で保留されているか3G事業者に売却されている。そこで事業者の多くは、まず人口密度の高い地域で3Gサービスを開始し、顧客に3Gと2.5Gのデュアル・モード端末を提供する計画である。したがって、事業者はこれらの“thin and crispy”(薄くパリパリした)3Gネットワークでスタートし、容量のアップグレードはその後に行うだろう。これは、もしも広帯域サービスの需要が具体化しなければ、アップグレードは必要がなくなることを意味している。そうなれば請求書は当初想定した額に達しないかもしれない。「3G事業者は穴の中にいる(窮地に陥っている)が、その穴は見た目ほどには深くないのではないか。」とエコノミスト誌は書いている(注)

(注)(注)前掲 The Economist,Jun 7th 2001

(参考)

Germany Softens Rules to Allow Telecoms to Share 3G Networks:The Wall Street Journal;June 6,2001 http://interactive.wsj.com

Deutsche Telecom,British Telecom Plan to Share Costs of 3G Wireless Networks:The Wall Street Journal;June 13, 2001
http://interactive.wsj.com

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