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2002年2月掲載

「固定発・携帯着」の料金問題を考える

 NTTドコモ以外の携帯電話会社の割高な「固定電話発信・携帯電話着信」の通話料の引き下げが、総務省による2001年初頭の「是正指導」から1年を経てようやく実現しそうだ、と新聞が報じている(注)。業界2位のKDDIグループは3月をメドに、3分(平日昼間)170〜180円から120円程度に値下げする方針で、J−フォンも追随するという。総務省の「行政指導」に基づき格差を縮小し、利用者へのサービス向上に努めることにした、という説明である。さらにその後も段階的に値下げし、2,3年中には携帯発・固定発の格差をなくしたい考えだという。しかし、この問題は料金を値下げして格差を縮小しただけでは解決にならない。「固定発・携帯着」の通話料金の設定権を携帯電話会社が持っている限り、競争が進展しても料金値下げのインセンティブが働かないことが問題なのである。以下に「固定発・携帯着」の料金問題について考えてみたい。

(注)日刊工業新聞(2002年1月16日) 「固定発・携帯着」値下げ
   日経産業新聞(2002年1月25日) 携帯に接続問題
   日本経済新聞(2002年2月2日)  固定→携帯 通話料値下げ

■料金値下げのインセンティブが働かない「固定発・携帯着」料金

 「固定発・携帯着」の(小売)料金は携帯電話会社が決めているが、固定通信会社が料金を集め、相互接続料と料金徴収の手数料を携帯電話会社から受け取る、というのが現在の仕組みである。(表)は現時点における携帯電話各社の通話料金の比較である。NTTドコモは2000年暮れに値下げしたことで「携帯発」と「固定発」の料金格差をほぼ解消している。しかし、その他の各社は「固定発」料金が、「携帯発」に対して1.9〜2.3倍(平日昼間3分間の料金)の格差がある。相互接続料金に差がある以上、「固定発」が「携帯発」に比べ若干高くなるのは理解できるとしても、NTTドコモ以外の各社の「固定発・携帯着」の料金は明らかに高過ぎる。

(表)携帯電話の料金(3分間,2002年1月現在)

(注)代表的な料金プランの首都圏での料金。平日昼間、同一営業区域内。
通話時間分布は2000年度(総務省資料)
サービス・ブランド 固定→携帯
(A)
携帯→固定
(B)
格差
(B)/(A)
携帯→携帯
ドコモ 80円 70円 1.1倍 100円
au 170円 90円 1.9倍 90円
ツーカー 180円 78円 2.3倍 78円
J-フォン 150円 80円 1.9倍 90円
通話時間分布 20.5% 21.1% 58.4%

 NTTドコモ以外の各社は、競争に直接影響する「携帯発」の料金をドコモ並みにすることが先で、「固定発・携帯着」の料金値下げまで手が回らない、というのが本音のようだ(前記日刊工業新聞)。携帯電話会社を選択する場合、顧客のほとんどは「携帯発」の通話料金には関心を持つが、固定電話の加入者が負担する「固定発・携帯着」の通話料金まで気にする人は少ない。一方、固定電話からの発信者は、どの携帯電話会社の電話にかけているのか分からないし、たとえ分かってもその電話にかけるしかない。だから、料金が高くても利用せざるを得ない。つまり、「携帯発」の通話には、料金が高ければ解約して他社を選ぶという競争原理が働くが、「固定発・携帯着」の通話には、携帯電話会社が積極的に料金を値下げするインセンティブが働きにくい(注)という問題がある。

(注)会社や家庭で、固定電話と携帯電話の両方を契約する際、合計の料金額が最小になるような会社を選ぶというインセンティブが働くことはある

 競争による料金値下げのインセンティブが働きにくい「固定発・携帯着」の通話料金は、消費者の目に触れる機会も少ない。マスコミなどによる各社別の料金比較も、ほとんどが「携帯発」で行なわれている。また、携帯電話会社のパンフレットなどでの料金表示も小さい。因みに、携帯電話に発着信する総通話時間に占める「固定発・携帯着」の比率は20.5%(2000年度総務省調査)であり、NTTドコモ以外の携帯電話会社における料金格差(平均2倍強)を考えると、これらの会社の「隠された大きな収益源」(前記日刊工業新聞)となっていることがうかがえる。

■料金設定権の帰属問題の決着を急げ

 現在、「固定発・携帯着」の料金は、固定電話利用者が固定電話会社に支払っている。料金を決めているのは携帯電話会社だが、携帯電話会社には「固定発・携帯着」の利用者を顧客と考える意識は希薄だ。大部分の利用者は東西NTTが高い料金を取っている、と誤解している。現在、携帯電話会社は熾烈な競争を展開しているが、それは「携帯発」の市場に限られており、「固定発」の料金を引き下げるインセンティブが働きにくい。

 EU加盟国では、「固定発・携帯着」の料金は固定通信会社が決め、携帯電話会社に相互接続料を支払う方式をとっている。両事業者間で料金設定権をめぐって争っていたポルトガルは2000年10月、フランスは2000年11月から、規制当局が「固定発・携帯着」の料金の設定権を固定電話会社に移行させる裁定を下し決着した。設定権を固定通信会社が持てば、料金を下げて他の会社に流出する顧客を引き止めるインセンティブが働くことを期待できる。

 何故日本だけが「固定発・携帯着」の料金設定権を携帯電話会社に認めているのか(注)
 新聞報道(前記日経産業新聞)によれば、NTTからドコモを分離する際に、料金決定権を持っていきたいとドコモが要望し、なんとなく決まったのだという。他社もこれに追随し今日に至っている。わが国の固定通信会社は傘下に携帯電話会社を持っていて、最近はグループ全体に占める携帯電話事業のウエイトが格段に高まったこともあって、固定通信会社は「固定発・携帯着」の料金決定権の変更を主張しにくいという状況もあったと思われる。しかし、固定通信会社は軒並み経営悪化に直面しており、鷹揚に構えていられる状況ではなくなった。

(注)米国では着信交換局までの通話料は固定電話加入者の負担、着信側のエアタイムは着信携帯電話加入者の負担となっている。

 これに対し総務省は「現状の問題は認識しているが、携帯会社の経営への影響が大きく、簡単に結論は出ない。」と言っているという(前記日経産業新聞)。確かに、固定通信会社と携帯電話会社の利害が対立する問題だけに、両当事者間の交渉による解決は難しいかもしれないが、「固定発・携帯着」の料金設定権の帰属問題にも結論をだすよう努力すべきだ。値下げだけでは(新聞で報道された料金でも1.3倍の格差が残る)問題解決にならないことは、すでに述べた通りである。格安電話サービスのメディア(有線ブロードネットワークスが出資)やIP電話会社が登場し、携帯電話との相互接続が問題になることは避けられず、これ以上の問題の先送りは困難な状況にあることを認識すべきだ。

相談役 本間 雅雄
編集室宛>nl@icr.co.jp
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