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2002年4月掲載 |
FCC、ブロードバンド規制の転換を検討
米国におけるブロードバンド市場は、ケーブルモデム経由でサービスを提供するケーブルテレビ業界とデジタル加入者線(DSL)を使う地域電話会社(主体はベル電話会社)の2大勢力に分かれている。現時点でこの高速ネット接続を利用している家庭、企業数は約1,000万(2001年末、内訳はケーブルモデム経由が3分の2、DSLが3分の1)、普及率は10%弱である。昨年来、新興通信会社が競争から脱落していく中で、値上げ(DSLは40ドルから50ドルへ、ケーブルモデムも追随)を実施したこともあって、新規申し込みは伸び悩んでいた。
ブロードバンドの進展の遅れは、IT不況で低迷する米国のハイテク業界全体に暗い影を落としていたが、ハイテク企業のトップが集まるシリコンバレーの業界団体「テクネット」が、昨年2月にブロードバンドを最優先課題とすることを決議し、秋以来ロビー活動を強化してきた。このような状況のなかでFCC(米連邦通信委員会)は、ブロードバンド・サービスを通常の電話サービスと区別し、規制を撤廃する新しい規則の制定手続きの開始に踏み切った。(注)以下にその動向を紹介する。 (注)FCCによるブロードバンドの規制軽減の動きに加え、ブッシュ大統領も民主党のトム・ダシェル上院院内総務も、より多くの米国民に高速ネット接続を提供する大規模な政策を準備している。1月初め、ダシェル上院院内総務は最重視する経済政策として、「ブロードバンド・サービスを今日の電話と同じくらい普及させる」と宣言。政府による補助金や融資、減税措置を通じて普及を図りたいとしている。ブッシュ大統領も、近々同政権における最も重要なハイテク政策として、ブロードバンド拡大計画を発表する予定。 ■相次ぐFCCのブロードバンド規制の見直し提案FCCは最近相次いで規則制定提案告示(NPRM)を発表して、ブロードバンド規制の見直しを進めている。
■ブロードバンドの広範な展開を促進するための規則制定提案さる2月14日、FCCは「高速ブロードバンド・インターネット接続サービスの広範な展開を促進するためのNPRM」を発表した。この規則制定提案告示は、電話をベースとした現在のブロードバンド・インターネット・アクセス・サービスの分類とその分類の規制上の意義に関する懸案事項を解決しようというものである。FCCは、ブロードバンド市場にDSLのほかケーブル・モデム、衛星、広帯域無線など複数のプラットフォームが登場して競争している市場の変化に着目し、ブロードバンド・サービスの分類を明確にすることによって、インフラに対する投資が促進されことを期待している。 今回採択された規則制定提案においてFCCは、有線によるブロードバンド・インターネット・アクセス・サービス(第三者の設備上もしくは自己の設備によって提供されるかに関係なく)は、「電気通信サービス」ではなく、通信の構成要素を有する(withatelecommunications component)「情報サービス」であると試行的に結論づけ、コメントを求めている。「情報サービス」には、ボイスメールやe−メールが含まれているが、原則として規制(料金規制など)はない。またFCCは、3月14日に採択した「ケーブル・モデムDR/NPRM」においても、ケーブル・モデムは「ケーブル・サービス」ではなく「情報サービス」に分類することを明確にしたが、それとの競争条件の整合を図る意味もある。 この規則制定提案告示で提起している諸問題に取り組むに当たって、FCCの定めた原則と政策目標は下記の通りである。
ブロードバンド・サービスを「情報サービス」に位置づけるという「分類」の問題に加え、FCCは以下の問題点についてもコメントを求めている。
(注)第3次コンピュータ裁定(1986年)において、ベル電話会社が「高度サービス」を提供する場合、それまでの構造分離要件に代えて、ONAとCEIの非構造分離要件によることを可能にした。 ■パウエルFCC委員長のコメントこのFCCの「ブロードバンド・サービス規則制定提案」の告示にあたって、FCCのパウエル委員長は、FCCの委員としてこの提案を強く支持する声明を発表している。FCCの提案の背景と問題意識を理解するために、彼の主張を以下に紹介する。(注) (注)Separate statement of chairman Michael K. Powel http://www.fcc.gov/Speeches/Powell/2002 政策担当者は、ブロードバンドの展開が通信政策の中心的な目標となったことを認識すべきだ。最近のTechNetの声明、National Academy of ScienceやComputer Systems Policy Projectなどのレポートは、不必要かつ過度な規制のコストを削減し、ブロードバンド規制を明確かつ透明にすることをFCCに求めている。今回の規則制定提案告示は、議論を終えて行動を開始しようとするものだ。 我々政策担当者がブロードバンドを促進する際の最大の挑戦は、プライベート・セクターへの巨額な投資を促進する、最良の方法を決定することである。この挑戦に勝利するためには、我々は以下のことを実施しなければならない。
■FCC提案に対する反応ワシントンポスト紙に掲載された記事(注)は以下のように、どちらかと言えばネガティブな側面を強調している。 この規則制定提案は、連邦政府による通信政策へのアプローチの重大な変更である。インターネットの進展に対応して、クリントン政権は競争の強化、とくに電話会社の提供するDSLサービスにおける競争を追求した。競争の強化は1996年通信法の目標の一つであったが、法の執行はFCCに委ねられている。これに対し、FCCのパウエル委員長とその支持者たちは、高速インターネット接続のそれぞれのプラットフォーム内での競争を促進することは、複数のネットワークを構築するコストが巨額となるため、困難であると考えた。 ブロードバンドが広く採用されることで会社を成長させたいハイテク企業は、現状では伝送スピードが十分ではなく、住宅への光ファイバーによるアクセスなどのより強い(robust)ネットワークの展開か、その他の新技術の導入が必要と主張している。パウエル委員長は、「すべての米国人にブロードバンドを提供できるネットワークを、政府が費用を負担して構築することはあり得ない」から、「我々のブロードバンドにおける最大の挑戦は、巨額なプライベート・セクターの投資を促進するためのベストな方法を決定することである」と主張している。 消費者グループと独立系インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)は,このFCC提案では、インターネット・サービスとコンテントの利用に対し強い支配力を行使する、僅かな数のブロードバンド・プロバイダーしか残らないことになるだろう、と批判している。同一地域では、利用者はケーブル会社1社と電話会社1社から選ぶしかない。衛星サービスの利用も考えられるが、そこでも2大プロバイダーの合併が進行している。「プラットフォーム内での競争がなければ、結局FCCは複占か寡占を実現するために努力することになるのではないか。」とアースリンク(米国第2位のISP)の幹部は語っている。 (注)FCC Rules Seek High-Speed Shift:Washingtonpost.com(February 15,2002) ビジネスウイーク誌の記事(注)は、FCCの提案は現時点ではやむを得ない現実的な選択である、というニュアンスで書かれている。 1996年通信法が期待した「すべてを競争に」は実現しなかった。この2年間に、新通信法制定以降に創業された新興通信企業は、あらかた崩壊した。通信市場の環境は、過去におけるそれと類似してきている。巨大な地域および長距離会社が音声市場を支配し、ブロードバンドでも急速に市場を握りつつある。関連するケーブル、衛星TV,メディアおよび無線通信の各産業でも、企業の統合が進行している。 ベル電話会社、ケーブル・テレビ会社および長距離電話会社がブロードバンドを支配することを認めるべきか。これは、それを阻止する方法が他にあるのか、という質問に置き換えた方が適切だ。レーマン・ブラザースのアナリストによれば、垣根なき競争は文字通り通信産業を破産させたのだ。 パウエル委員長のビジョンでは、ベル電話会社は依然として競争に直面するだろうが、相手は新興企業ではなく、大企業である。ケーブル・モデムはすでにDSLを凌駕しており、ケーブル会社は小企業向け高速アクセス回線についても、ケーブル・モデムで提供することを計画している。AT&Tもこの市場にDSLで追随するという。パウエル委員長の目指す新体制は、必ずしも完全ではないかもしれない。料金が可能な限り下がることも、広範な技術革新を促進することもないだろう。しかし、AT&Tがトランジスタ、携帯電話やレーザーを発明したのは、その独占時代だったことを悲観論者は思い起こすべきだ。 料金を別にすれば、規制下の独占や寡占は、電話システムのような「ユビキタス」ネットワークを構築するのには良い方法だった。今日のインターネットは電話システムなしには存在しないし、ブロードバンドにも「ユビキティ」が必要である。だから、パウエル委員長が語る規制緩和は、政府のレフェリーを常に必要とする寡占であることは明らかだ。そして、それが常に悪いことであるとは限らない。 (注)Broadband policy:Did somebody say oligopoly? BusinessWeek / March 18,2002 ■FCCのブロードバンド政策転換のインプリケーション2001年6月末における米国の高速アクセス回線数(注)は、ADSLが270万、ケーブル・モデムが520万、衛星および固定無線20万、その他(専用線など)150万の合計960万で、そのうち780万は住宅および小企業ユーザーである。ここで明らかように、ケーブル・モデムのウエイトが圧倒的に高く、電話会社の設備を利用するADSLのウエイトは低い。このような状況のもとで、ベル電話会社はブロードバンド市場において支配力を行使できるのか疑問視するのは当然だ。電話サービスに対する規制の文脈を、揺籃期のブロードバンド市場に適用すれば、過剰規制となり投資のインセンティブを削ぎ、規制コストは設備に上乗せされる。FCCの政策転換(ブロードバンド・インターネット接続を「電気通信サービス」ではなく「情報サービス」とする提案)には必然性があると思われる。 (注)FCCのニュース・リリース(2002年2月7日) 270万のADSL回線のうち93%は地域電話会社が提供し、うち86%ポイントはベル電話会社、7%ポイントは競争的地域通信会社が提供している。なお、高速アクセス回線の定義は、少なくとも一方向の伝送速度が200kbpsを超えるサービス。 第2は、バブルの破裂によって、競争促進の推進役であった新興通信会社が事実上消滅した状況のもとで、ブロードバンドのインフラ整備を急ぐとすれば、従来の規制の在り方を考え直さざるを得ないのは当然だ。「ユビキタス」ブロードバンドの推進には、いずれ光アクセスなどのインフラ整備が不可欠になる。それを担えるのは、ベル電話会社とケーブルテレビ会社しかない。しかし、電話と同様の料金規制や競争相手に回線を開放する義務が残っていれば、リスクの多い投資にインセンティブが働かない。プラットフォーム内の競争には目をつぶっても、「投資促進のベストの方法」を選択するしかないということではないか。しかし、FCCが期待するプラットフォーム間の競争が、十分機能するどうかは分からない。 第3は、消費者向けADSL料金を平均40ドルから50ドル〈6,500円〉に値上げしたことやFCCの政策転換の動きによって、ベル電話会社のADSLの供給が軌道に乗り始めたように思われることである。2001年の下半期におけるベル電話会社4社のADSLの純増数は125万で、2001年末の加入数は360万となった。ADSLを設置するごとに赤字が増えるとして、それまで消極的だったベル電話会社の姿勢に変化の兆しが見えてきた。韓国のKTは、ブロードバンド事業が2002年4月に収支均衡し、2004年早期には累損を解消できる見通しを明らかにし、今後の成長のエンジンとして自信を深めている。(注1)因みに、KTのADSL料金は月額3万ウォン(3,000円)である。 日本におけるADSL料金は世界で一番安いレベル(注2)で、加入数も急速に伸びているが、事業としての将来は全く見えない。現在は利益なき繁栄の状況ではないか。ADSLの赤字を将来のコンテントの売上で補填するとか、モデムの販売利益でカバーするビジネスモデルに期待するのではなく、光アクセスを含めてブロードバンド・サービスできちんと利益が出せる、維持可能な(sustainable)モデルに移行すべき時期に来ているのではないか。そのためには、規制の見直しも視野に入れるべきだ。 (注1)High-speed profits ahead:BusinessWeek/March 18,2002 なお、本稿の作成にあたっては、当研究所の政策研究グループ 清水憲人リサーチャーに種々ご教示をいただきました。 |
相談役 本間 雅雄 編集室宛>nl@icr.co.jp |
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