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2002年6月掲載

日本の通信会社の決算に関する海外の反響とBTの成果

  通信大手3社の2002年3月期の決算がまとまった。各社(連結)とも、固定通信事業の不振と資産や海外投資の評価損、在庫償却、リストラ費用などの計上で、NTTと日本テレコムは上場以来初の損失となった。なかでも、NTT(連結)の特別損失は、非金融機関としてはわが国史上最大の規模だった。世界の主要通信会社は、ITバブル期に推進した企業買収・出資の評価損で軒並み厳しい決算を強いられているが、わが国の通信会社も例外ではなかった。以下にNTTを始めとするわが国の通信事業者の決算をめぐる海外の反響と欧州の固定通信事業に特化して再生に賭ける新生BTの業績について紹介する。

■固定通信の収益力回復が課題のNTTグループ

  海外の反響を紹介する前に、NTTの2001年度決算の注目すべき点を指摘する。NTTは2002年3月期(2001年度)決算で、海外投資の評価損1兆4,073億円と東西NTTの大規模リストラにともなう費用6,717億円、合計2兆790億円を特別損失で処理した結果、連結決算の当期損失は8,121億円(前期は4,640億円の利益)に達した。

 しかし、特別損失などの控除前の営業利益では、9,473億円と前期比5.5%増加している。固定系音声通信の不振で、東西NTTが4,534億円(8.3%)、NTTコムが803億円(5.9%)の減収(前期比)となったが、iモードが好調だったNTTドコモ(連結)の携帯電話事業が4,855億円(10.4%)の増収に恵まれるなど、NTT(連結)の営業収益は2,673億円(2.3%)の増収を確保した。むしろ、EBITDAマージン(注)31.6%(前期比0.7ポイントの悪化、KDDIは19.2%、日本テレコムは20.1%)は4月に発表した「NTTグループ3ヶ年計画」における最終年度(2004年度)の目標32%と同水準であり、投資の削減(前期比3,739億円減)によってフリーキャッシュフロー(注)は7,700億円と前期比4,400億円増加した(しかし、期末有利子負債は5,647億円増加し、6兆7,913億円となった)。ROCE(注)は4.3%で前期と同水準を確保している。現時点におけるNTTのファンダメンタルズは悪くない。

(注)EBITDAマージン:(営業利益+減価償却費・除却損)/営業収益
フリーキャッシュフロー:営業利益+減価償却・除却費−設備投資・出資(海外大型投資を除く)
ROCE:営業利益×(1−税率)/(有利子負債+株主資本)

 問題は、NTT(連結)の経常利益7,182億円は、営業収益が44.3%のNTTドコモ(連結)の経常利益8,533億円(24.2%増)に及ばなかった点である。これはV字回復を 期待する今期(2002年度)予想においても同様で、NTTドコモ(連結)の経常利益(9,710億円、前期比13.8%増)はNTT(連結)のそれ(1兆1,160億円、前期比55.4%増)の87.0%を占める。携帯電話事業の成熟化と競争の激化によって、携帯電話事業に利益の多くを依存する現在の特異な収益構造を維持することは早晩困難となるだろう。固定通信事業における収益力回復がNTTの喫緊の課題である。

(表)NTT(連結)に占めるNTTドコモ(連結)のウェイト (単位:億円)

区  分 NTT(連結)
A
A NTTドコモ(連結)
B B/A
%
2001年度決算 営業収益 116,815 51,715 44.3
経常利益 7,182 8,533 118.9
2002年度予想 営業収益 119,690 53,740 44.9
経常利益 11,160 9,710 87.0

■キャッシュフローの健全性が評価されるNTTグループの決算

 巨額の特別損失を計上したにもかわらず、NTTの将来について余り悲観的なコメンはなされなかった。ロイター(注)は以下のように報じている。

(注)NTT unveils deep losses,vows recovery:Total Telecom Asia,14 May 2002 

 株価総額でNTTと競うトヨタ自動車は、2002年3月期に営業利益1兆1,120億円の記録を作ったが、それは海外市場での好調な販売によるものだった。日本の自動車メーカーは何十年も前から成長の機会を求めて海外に進出したが、最近になって進出したNTTの海外事業はその高額な買収や出資に巨額の損失が発生し、国内の収益で相殺できなかった。一方、携帯電話市場が成熟化の段階に近づき、新たな挑戦者がそのドミナントの地位を脅かしている国内市場では、そのハイコスト・ベースが維持できなくなって、NTTは10万人の従業員を、新たに設立した子会社のより給与の低い職位に移す計画を実行した。

 しかし、2001年度に2兆790億円の特別損失を計上しても、NTTはキャッシュフローの健全性を失っていない。2001年度の営業利益は前期比5.5%増の9,473億円だった。NTTは2002年度には、売上高は11兆690億円(2.5%増)、当期利益は3,610億円(前期損失8,121億円)と急回復を予想している。これはアナリストの予想を上回っており、1,000億円規模の自社株購入の発表と合わせて好印象を与えた。しかし、NTTのコアビジネスの成長が見込めないのだから、NTTがどこまでリストラを進めるかが今後の鍵になる。

 ウオール・ストリート・ジャーナル(注1)は、広範な事業のリストラ費用と海外投資にともなう評価損などによって、NTTグループは2001年度に2兆790億円の特別損失を計上し、前期の4,640億円の純利益から8,121億円の当期損失となったこと、今期(2002年度)には回復が期待できることなどを報じているが、NTTの次期社長について多く紙面を割いている。

(注1) NTT Posts Record Loss,Appoints Next President:The Wall Street Journal online(May15,2002)

  和田次期社長はNTTの本流(old guard)と見なされており、多くの投資家は彼の指名を、歴史的に利益の成長を追及するよりは完全雇用の維持により高いプライオリティを置く政治的に重要な会社(NTT)を変えることはほとんどない、というサインと見ている。このポリシーに関する懸念と貧弱な財務情報の公開(注2)に対する投資家の不満が、過去何年間もNTTの株式に打撃を与えてきた。

(注2)NTTグループ3ヵ年計画(2002年4月19日)において「新たに四半期毎に経営情報(主要サービス契約数、ユーザ当たり月額使用料)の開示を行う」ことにしている。

 和田氏は近年、株主の求めるものと欧米における電気通信のトレンドについて自らを教育することに懸命に努力してきた。彼は5月14日のブリーフィングにおいて、新しい職務では「我々の株主の要望に応える」ために努力するつもりだ、と語った。NTTの歴史において最もチャレンジングな期間の一つを通過するにあたって、それを導く強い手をNTTが必要としている時に、和田氏の選択が行われた。従来の事業の頼みの綱である電話サ−ビスが消え失せようとする一方で、移動通信市場の成長が鈍り始めている。和田氏は、例えば家庭への高速インターネット・アクセスのような新しい成長事業を立ち上げる一方で、NTTをさらなるコスト削減に向かわせることを期待されている。また彼は、テレコム・バブルの破裂で頓挫したNTTの海外への事業拡大を軌道に乗せなければならない。

 フィナンシャル・タイムズ(注)は、NTTグル−プの決算を紹介した後に、NTTドコモの強力なiモードの販売が寄与して、2001年度の売上高が2.3%増の11兆6,816億円、営業利益が5.5%増の9,473億円となったことを強調し、今期〈2002年度〉の回復を予想している。しかし、NTTの株価がこの1年間で42%も値下がりしたのは、移動通信市場が成熟化の段階に近づきつつある一方で、ここ数年間固定通信が競争激化に直面していることを反映している、と指摘している。また、自社株の購入を評価している。NTTの社長交代については、ビジネス環境がかつてない変化に直面している状況にあり、NTTの経営陣も一新して対処すべきだ、とする現社長の言葉を引用している。

(注)Writedowns and cutbacks push NTT to record loss:Financial Times online,May 14 2002

■3Gの成否に関心が集まるNTTドコモ

 NTTドコモの決算についてエコノミスト(注)の記事を以下に紹介する。

〈注〉Foreign Adventures:The Economist (May 11,2002)

 2001年度のドコモは、国内事業が好調だったにもかかわらず、海外事業における巨額の評価損計上で、辛うじて黒字を維持するにとどまった。子会社であるドコモの尻押しがなくなったNTTグループには、巨額の当期損失が発生した。ドコモは取得した海外パートナーの株式の値下がりによって、8,129億円の(特別)損失を負った。それでもドコモは海外事業で成功すると、自信を持っている。iモードの早期導入は、モバイル・ウェブ・コンテントの需要を増大させ、第3世代携帯電話の展開に有利に働く、と強調する。

 しかし投資家は、ドコモの海外事業よりも国内事業に注目している。海外事業者が羨ましく思っているのは、メーカーを指導して高機能新端末を製造させる携帯電話会社の能力と、それを喜んで購入しウェブ・サービスを利用する顧客である。経済が不振だった2001年ですら、新端末の導入と継続的な音声ARPUの減少をデータ・トラフィックの増加で相殺することで、ドコモの営業利益は1兆28億円(29.0%増)に急増した。現時点での問題は、ドコモが日本国内市場で壁に突き当たるかどうかである。国内の携帯電話の普及率はすでに59%であり、新規需要に頼るのではなく、既存顧客の利用を増やさねばならない。その期待を担うのが昨年10月に導入した3Gサービスであるが、その離陸は遅々として進まない。それでも、立川社長は3Gの需要は間もなく離陸するだろうと確信している。

■携帯電話事業に傾斜するKDDI

 KDDIの決算に関するウオール・ストリート・ジャーナルの記事(注)を紹介する。

(注)KDDI Posts $101.7 Million Profit,Expects Earnings Improvement : The Wall Street Journal online(May 16,2002)

 KDDIは2002年3月期決算で連結当期純利益129億円を計上した。これは、コスト削減とグループを挙げてリストラを加速させた結果だが、会社の予想を上回ったものの、前期の実績およびアナリストの予想を下回った。利益が低迷したのは、2001年度の連結売上高は24.9%増加し2兆8000億円となったものの、主として携帯電話事業の“au”改革のために投じた費用5,790億円を特別損失として計上したことが影響した。固定通信事業が振るわないなかで、携帯電話事業の成功はKDDIの鍵である。KDDIは、3Gサービスとブロードバンド・ネットワーク・サービスの厳しい競争に生残るため、よりスリムな企業構造とすることに全力をあげている。

 2002年度は、490億円の連結利益を予定しており、アナリストの予想とも合致する。同社の小野寺社長は、KDDIは費用のドラスティックな削減を進めてきたが、それでも改善の余地はなお大きく、今期は増収増益となると語った。4月にスタートした3Gサービス(cdma2000 1x)は1ヶ月で33.4万の顧客を集め、ドコモとJ-フォンに対抗する基盤を築いた。サービス開始以来7ヶ月経過したドコモの3Gサービスの加入数は、4月末で10.6万だった。現時点ではKDDIに勢いがあるが、12月にはJ-フォンも3Gサービスを開始する予定で、誰が日本における3Gの勝者となるかはまだ分からない。

■ボーダフォン主導が見えてきた日本テレコム・グループ

 日本テレコム・グループの決算に関するフィナンシャル・タイムズの記事を紹介する。(注)日本におけるボーダフォンの子会社、日本テレコム・グループは、1兆7,040億円(前期比16.3%増)の収入に対し当期損失が659億円(前期は175億円の利益)だった。この業績不振は、主として旧設備と投資の削除、バランスシートのリストラおよび(マイラインなどの)高いマーケティング費用によるものである。

(注)Japan Telecom bullish on 2002 profits:Financial Times online(May 28 2002)

 しかし今期(2002年度)は、設備投資を19%減らし(3,800億円とする)、新規顧客獲得費用を削減する予定だ。さらに日本テレコムは、移動通信子会社のJ-フォンが「写メール」、「ム−ビー写メール」(写真およびビデオ・メール・サービス)の大きな需要が業績向上に寄与することを期待している。2001年度下半期における加入者の純増の30%は「写メール」によるものだった。J-フォンのグリーン社長は、「高成長時代は終わったが、市場が飽和状態にあるのは東京だけで、全国的にはなお成長の余地がある。」と語り、今期は強気の予想をしている。グリーン社長は、J-フォンの3Gの導入は今年の12月まで延期されるが、来年の8月までには3Gのネットワークは現在の2Gと同等の展開となる、と強調した。グリーン社長の楽観的予想は、NTTドコモの立川社長の醒めた見通しと対照的である。そのドコモも6月には写真メール・サービス「i-ショット」を発売する予定だ。

 日本テレコム・グループは2001年度には投資の圧縮に努めたが、今期においても費用の削減とノンコア事業の資産売却を促進する。同社はDSL事業を55億円で(イー・アクセスに)売却することを明らかにした。モロー社長は固定通信事業の売却計画を否定したが、同社の固定通信事業を新設する持ち株会社の下に(100%子会社として)置く今回発表の組織再編は、ボーダフォンが同事業を売却するという憶測の信憑性を高めることになった。

■スリム化で再生に賭ける新BTグループの成果

 海外では、事業再建と過大債務の圧縮のために、mmO2(旧BTワイヤレス)の分離、コンサート(グローバル企業向け通信サービスについてのAT&Tとの合弁会社)の解体、簿号帳会社や海外事業の持ち株などの資産売却を促進し、国内と欧州の固定通信事業に特化して再出発した新BTグループの決算(2002年3月期)が話題を呼んでいる。以下に、フィナンシャル・タイムズの記事(注)を紹介する。

(注)BT pleases City as it bucks telecoms trend :Financial Times online(May 17 2002)

 BTグループのVerwaayen新社長のもとでの最初の年次決算が5月16日に公表され、市場は積極的な反応を示した。アナリスト達は、同社の決算数値は、新BTグループが遂に再建の手懸りを掴んだと確信させるように思え、シティーは大きな安堵のため息をついている、と語った。

 2001年度の売上高は前年比8%増加し269億ポンド、税金、利子、減価償却費控除前利益 (EBITDA)は、ほぼ前年同額の57億ポンドだった。BTグループは1株当たり2ペンスの復配を株主総会に提案している。 昨年のピーク時には279億ポンドあった債務は137億ポンドと、会社側の目標よりさらに減少した。特に、赤字を垂れ流し、株主から事業の中止を求められていたグループのデータ通信部門イグナイト(Ignite)の業績改善、なかでも欧州事業におけるコストの削減を、アナリストは評価している。

 BTリテール(固定通信小売事業)は、2001年度の第4四半期の収入が30億ポンドを超え、前年同期比0.6%の増加となった。また、EBITDAは21%増加した。顧客に月額固定料金で提供する電話サービス“BT Together”は、ライバルに顧客が移動するのを防いだ。欧州における固定通信事業の多くが利益を減らしている中で、BTリテールは増収増益を達成した数少ない通信会社の一つである。これらの改善は主として前経営陣の成果であるが、企業文化の改革を通じ、変化のプロセスを加速してきた新社長のインパクトも大きい、とアナリスト達は評価している。

 固定通信事業に特化し、「選択と集中」の徹底で再生に賭ける新BTグループは、ブロードバンド事業の急拡大に取り組むとともに最近MVNOと無線LANで無線事業に再参入する計画を発表した。どのように企業再生を定着させていくのか、今後に注目したい。

相談役 本間 雅雄
編集室宛>nl@icr.co.jp
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