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2003年1月掲載

電気通信事業2003年の課題

 2002年におけるわが国の電気通信事業はブロードバンド、IP電話とカメラ付き携帯に象徴されたといってよい。「より早く、より安く」を追求するブロードバンドは、ADSLの相次ぐ高速化と低料金化、それにIP電話で顧客を集めた。現在トップシェアを握っているのはヤフーBBである。このほか、格安料金の中継系IP電話会社が健闘して既存の電話サービスを大きく侵食し、電話会社は電話以外の新たな収入源を見つけざるを得ない情況に追い込まれている。加入電話を上回る契約数を獲得した携帯電話事業は、普及率の向上にともなって新規需要の伸び率が鈍化しただけでなく、音声通信収入がインターネット・メールへの移行によって減少するなど、成熟化の傾向が鮮明になる中で、カメラ付き携帯電話が大ヒットした。その一方で、次世代携帯電話として期待されたNTTドコモのFOMAは不振だったが、KDDIのCDMA 1Xは順調に加入数を伸ばして明暗を分けた。さて、このような状況の中で、わが国の2003年の電気通信事業はどういう展開になるのか、またそこでの課題は何かを考えてみたい。

■本格的な普及期を迎え黒字化が課題のブロードバンド事業

 それまで月平均30万前後だったADSLの新規加入が、2002年10月には41万、11月には48万に急増した。駅頭などでヤフーBBがモデムを無料で配るというキャンペーンが効いている(2002年11月末加入数512万のうちヤフーBBは146万、シェア28.5%、11月の純増数のシェアは53%)という見方もあるが、ここにきて普及が加速していることは注目すべきだ。ソフトバンクの説明によれば、ADSLにIP電話のBBフォンをセットにして差別化したことが急成長のポイントだという。すでにBBフォンの利用者は100万を超え、月額1加入平均利用額は1,100円程度に達している。これに対してイー・アクセス、アッカ、東西NTTなどがADSL内蔵モデムを配布して対抗する計画だ。「050」を使ったIP電話の着信やプロバイダー相互のIP電話接続が可能になることも追い風になるだろう。電話を主要な収入源としてきた電話会社にとってはつらい決断だが、将来を睨んでブロードバンド・アクセスの顧客確保を優先させざるを得ない情況だ。

 ADSLはすでに12メガ・サービスの時代に入っているが、2003年には16メガ、24メガの高速サービスが登場しそうだが、この速度の差がサービスの差別化につながるかは疑問だ。アプリケーションの面でも、米国のクリスマス商戦で電子商取引が大きく伸びたが、これにはブロードバンドの普及が大きく寄与したといわれている。日本ではソフトバンク・グループが「BBケーブルテレビ」を2003年春から開始する計画を発表している。このほか、ネットワークを介した対戦ゲームや動画を使ったブロードバンド広告など、ブロードバンドならではのアプリケーションの登場が期待できそうだ。ビジネス分野では、ADSLはIP-VPNや高速イーサネットのアクセス回線としても利用が拡大しそうだ。

 料金については、最大手のヤフーBBはプロバイダー料金込みで2000円台前半という価格設定を強力にアッピールしているが、対抗するNTT東西も3月に実施する12メガサービスの全国拡大に合せて追随値下げを実施し、料金を500円値下げし2,700円(プロバイダー料金を含めて3,000円台)とするとしている。これも普及を促進する要因の一つだ。

 ブロードバンドで先行したCATVインターネットは、主役の座をADSLに明け渡した感がある。2002年11月末の利用者数は190万(最近の月間増加数は約5万)でADSLの4割に過ぎない。CATV事業者にとってインターネット事業は、いまや主力事業に成長しており、ここで降りるわけにはいかない。危機感を深めたCATV事業者は、最大30メガの高速サービスに注力し、速度や料金などでADSLに対抗できるサービスに改善しようと動き出した。イッツコムは、年初にも月額5,200円だった30メガ・サービスを8メガ・サービスの月額2,500円近くまで値下げする。また、関東、東海、中部、関西のCATV事業者84社が「広域ケーブルフォン検討会」を設立して具体的なサービス計画を検討中だ。2003年4月から一部でサービスが始まる予定である。

 2002年におけるFTTH(光ファイバーによるアクセス)の増加は、月間純増1.5〜2万と予想を下回るペースだったが11月には3.4万に増加し、11月末加入数は17万となった。課題だったエリアの拡大や工事期間の短縮などの改善も進んでいる。普及促進のための今後の課題は料金とアプリケーションだ。FTTHの優位性を考慮しても、先行するADSLとの料金差を1,000〜2,000円位までに縮める必要がある。最近値下げが相次いでいるが、まだ壁は高い。端末価格の低下やIP電話の取り込みも必要条件だ。アプリケーションには、上りも下りも最大100メガという高速性や信頼性を生かすメニューが求められるが、まだ見えていない。テレビ電話などの日常的な映像の双方向通信が、FTTHのキラー・アプリケーションになると期待する向きもあるが疑問だ。これらの情況を考えると、2003年にFTTH需要の急増を期待するのは無理ではないか。

 CATVインターネットとADSLの競争が激しくなることは、ブロードバンド市場の成長にプラスに働くだろう。2003年末にADSLで1,000万、CATVインターネットで300万加入を超えることも無理ではなさそうだ。問題は事業として採算がとれるかである。現時点でプライス・リーダーであるソフトバンクの孫社長によると、ブロードバンド事業はシェアがすべてといってよいくらい数が大事であり、顧客獲得費用を除くADSLの損益分岐点は200万加入で2003年初めには達成できる、単月の黒字化も2003年度中に達成できる、今後のエリア展開やユーザー増にともなう投資のための資金調達も既にめどが立っている、という。(注)この見方が正しいとすれば、ブロードバンド事業には大変な体力が必要だということになる。今はこの消耗戦に耐えなければならない、成功するかどうかはさらに先の課題なのだ。

 

(注)2003年の通信ネットワーク トップはこう見る 日経コミュニケーション(2003年1月6日号)

 

■第3世代携帯電話(3G)の成功には料金値下げが不可欠

「カメラ付き携帯電話」が好調に推移している。J-フォンが先行し、KDDIとNTTドコモが追随して、2002年末までに3社合計で1,300万台の大ヒット商品になった。最近では、静止画だけでなく短時間ながら動画を撮影・送受信できるサービスも提供している。外国の携帯電話会社も相次いで「カメラ付き携帯電話」とモバイル・インターネット接続に注力し始めた。日本の事業者は、この両方のサービスで一歩先んじている。(注)携帯電話の普及が進み新規需要の伸びが鈍化する中で、これらの新サービスの導入によってARPU(平均1加入当り収入)の低下を最小限に食い止めることができた。

(注)わが国におけるブラウザフォンは、2002年11月末で5,834万、携帯電話総数の80.1%

 

 2001年10月に世界に先駆けて商用化したNTTドコモの第3世代(3G)携帯電話「FOMA」が伸び悩み(2002年11月末15万)、2002年11月には当初目標の2003年末138万を32万に下方修正を余儀なくされた。一方、同じ3GでもKDDIのCDMA 1xは順調に加入数を伸ばし(2002年11月末389万)明暗を分けた。FOMAの不振の理由としては、サービス・エリアが狭い、端末価格が高い、バッテリ-の持続時間が短い、などが挙げられていたが、かなりの部分で改善が進んでいる。2003年3月末までにはサービス・エリアの人口カバー率が91%となり、バッテリーの持続時間も2003年には170〜180時間を達成する見込みだ。店頭の端末価格もかなり安くなった。それならば2003年は3Gの一大反攻の年になるのか。

 3Gの2Gに対する差別化のポイントは、高品質の動画通信とその双方向化ではないか。液晶画面の高精細化にともなって、2003年には100万画素クラスのカメラを搭載した携帯電話機(現在は最上位機種でも31万画素)が売り出されるだろう。また、毎秒のフレーム数も15程度に向上し、長時間の撮影、伝送が可能となる。当然、テレビ電話などの双方向リアル・タイム通信の機能拡充も期待できる。

 ここでの課題はパケット料金だ。いくら高画質の動画といっても数分間伝送して数百円の料金になるのでは利用は限られる。動画伝送の料金を現在の料金よりも一ケタ低くしないと需要は顕在化しないだろう。2003年は料金をどれだけ下げれば高品質の画像通信の需要が本当に期待できるのかを見極める年になるのではないか。2002年12月に開始したJ-フォンの3Gサービスは、国際ローミングを売り物にしているがカメラ付き端末は提供していない。KDDIは2003年10月に開始する1xEV-DOでパケット料金を大幅に引き下げるが、他の2社はその結果需要がどれだけ喚起されるかに強い関心を寄せている。3Gの本格的展開はその結果が明らかになる2004年以降になるだろう。

 無線LANの商用サービス第1号のMIS(モバイル・インターネット・サービス)が、2002年12月にサービス休止に追い込まれた。基地局の増設が思うように進まなかったのが原因と言われている。採算ラインは各事業者10万加入と言われているのに対し、乱立気味の参入各社が獲得したユーザー数は軒並み大きく下回っている。その打開策として各社が取り組んでいるのが事業者間ローミング、VoIP機能を搭載したPDA(携帯情報端末)や専用電話機の開発、セキュリティの確保などだが、現時点ではいずれも技術的問題が未解決である。このような「公衆型」サービスが伸び悩む中で、携帯電話事業者は携帯電話(3G)と無線LANの融合を視野に入れ、システムの開発や無線LANサービスの提供に取り組んでいるが、これらはやがて第4世代移動通信システム(4G)に取り込まれていくと見られる。

 

■電話に代わる収益源の確保が急務

「全国どこへかけても3分7.5円、会員相互なら無料」というヤフーの「BBフォン」の料金は、大きな衝撃を与えた。IP電話であり相互接続料の支払いが片側だけで済むから赤字サービスではないが、電話はブロードバンドサービスの販売促進商品となったのだ。ブロードバンドを提供する各社もヤフーに追随し、IP電話は一気に普及する気配だ。IP電話はインターネット電話とは異なって、通信事業者内部のIP網で閉じているため、通話品質も悪くない。さらに、2003年には「050」を利用してIP電話への着信も可能になる。 

 ADSLを利用する場合は、NTT東西の加入電話を解約してもメタルのアクセス回線を使用することになるので、NTT東西に払う料金は余り変わらない。だから、加入電話の契約を継続するユーザーが大半だろう。しかし、ユーザーは料金の安いIP電話を多用するだろうから、加入電話に流れるトラフィックの大幅な減少は避けられないだろう。しかし、すべての電話加入者がADSLを利用するわけではない。かなりの時間をかけて徐々に移行が進むだろう。

 ADSLでもFTTHでも、現在のような激しい競争が続く限り、ブロードバンドの接続サービスは儲けの薄いビジネスであることを覚悟しなければならない。今後は通信サービス以外に収入源を見つけることがどうしても必要だ。それはサービス、ソリューション、セキュリティを含むプラットフォーム・ビジネスやコンテントなどだろうが、収益に寄与するまでには長い時間と忍耐が必要だ。AT&Tのサービス部門は最近40億ドルの売上をあげる事業に成長したが、10年間を要したという。電話会社の当面の生き残り策は、ネットワークのコストをギリギリまで下げるとともに、新しいビジネスの早期立上げに注力するということであろう。

 トラフィックは減少するものの、電話網が相当期間残るとすれば、その間これを目一杯活用する方策を考えるべきだ。トラフィックに対して設備に余裕が生ずることに着目して、国内電話定額制料金とか国内電話とADSLなどを定額料金でパッケージしたサービス(注)を導入するなど、なお工夫の余地があるのではないか。

 

 (注)米国の長距離電話会社ワールドコム(米連邦破産法11条のもとで再建に取り組んでいる)の消費者向け事業MCIが開始した国内定額制電話サービス「ネィバーフッド」(料金は月50〜70ドル)が好調だという。NTTコミュニケーションズは一定時間までの国内電話定額料金プランを開始している。加入数の減少に直面した米国のベル電話会社SBCが提供する長距離・地域電話のかけ放題プランに、ADSLの高速ネット接続、携帯電話を組み合わせた標準プラン(SBCトータル・コネクションズ)は月86.89ドルで、個別に契約するより23ドル安い。

 

■ようやく動き出す規制緩和

 NTT東西は、ようやく2003年3月に念願の県間通信に進出できそうだ。2001年11月に改正電気通信事業法が施行されたことによるもので、総務省による進出条件をクリアし、まずは各県単位に設置した地域IP網の相互接続を推進する。これで、県内限定の広域イーサネットといった制度の歪を解消できるし、地域IP網の広域統合による効率化も可能となる。
 そもそもこの規制は電話事業を想定したもので、インターネット時代に適合できないことは明らかだった。今後は、地域IP網だけでなくすべてのサービス(IP電話を含む)、設備の県内制限を撤廃すべきだ。(注)しかし、NTTも地域、長距離、固定、移動など、電話時代の組織の在り方を自らの意思で見直すべき時期にきている。 

(注)米国では、1,996年通信法によってベル電話会社が自営業区域内において長距離通信サービスに進出を認められた州が、2003年1月現在で35に達した。2003年末までには全州が認められる見通しだ。

 2003年には、電気通信事業法の重要な改正が予定されている。まず、市場支配力を有する通信事業者を除き、契約約款や料 金表の作成・公表義務がなくなる。料金などは相対取引が可能になり、企業などでは複数の通信事業者による入札で料金を決めることになるだろう。結果として大口ユーザーの獲得競争が激しくなり、料金値下げが進むだろう。次に、第一種・第二種電気通信事業者の区分をなくし同じ扱いにする。現在は設備を保有する第一種事業者には約款や料金表の作成・公表義務などを一律に課している。今後は、市場画定し、夫々の市場毎に競争情況を把握し、市場支配力を有する事業者に対して、必要に応じ事後もしくは事前に適切に規制を行なう体制に変わる。しかし、独禁法との二重規制の回避、市場画定の具体的な基準と市場支配力の定義、規制当局の裁量範囲の拡大や事前規制の是非、NTTに対するNTT法による規制の撤廃問題など多くの課題が残されている。

 

(注)ウオール・ストリートジャーナル(オンライン版 2003年1月6日)によると、FCCはベル電話会社がその通信網を競争相手に割引料金で提供することを義務付けている規制を段階的に撤廃する規則制定を2月初旬に採決するという。これは、地域電話市場で競争する事業者は、自らの設備を所有すべきだというパウエル委員長の信念からでたものだが、採択されればフリー・フォア・オール(すべての市場を競争に)を標榜した1996年通信法の大転換となる。

 
相談役 本間 雅雄
編集室宛>nl@icr.co.jp
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