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InfoComアイ
2004年12月掲載

固定・移動通信融合の最新トレンド

 欧州では、遅れていた第3世代携帯電話の本格導入が、ようやく進展しそうな気配である。次の課題は固定と移動通信の融合になるだろう。この問題にことのほか熱心なのは、通信バブルが破裂した後、移動通信部門をスピン・アウトすることを余儀なくされた英国のBTである。同社は再販方式で携帯電話市場に再参入するとともに、固定・移動通信融合の本格的プロジェクト「ブルーフォン」を来年1月から商用化する計画に取り組んでおり、世界中の通信会社の関心を集めている。今回はBTを中心に固定・移動通信融合の最新トレンドを報告する。

■固定・移動通信融合の背景とコンセプト

 携帯電話の数が固定電話の数を上回り、さらに増え続けている。一方、固定電話の数は、世界中ではフラットだが、多くの先進国で減少に転じている。最近では、固定電話を解約して携帯電話しか持たない人たちが、欧州では5%もいるという。近年、固定電話の機能はほとんど変わっていないのに、携帯電話では連絡先の電話番号を蓄積したり、テキスト・メッセージングが可能になるなど、次々に新サービスが追加されている。

 しかし、固定電話にも利点がある。通話料金が安く、通話品質がよく、接続も携帯電話よりもはるかに信頼性が高い。そこで最近、自由に移動できるという携帯電話の利点と高信頼性と低コストという固定電話の長所を組み合わせて提供する「賢い」技術を使った「固定・移動の融合(Fixed‐Mobile Convergence:FMC)」のアイデア実現に、通信産業がこぞって取り組んでいる。加入者は同じ端末で、在宅時には固定回線を経由して、外出時には移動通信網を経由して通話する。利用者は、一つの番号、一つのメール・ボックスを持ち、一つの請求書を受け取る。

 通話は住居の中では、固定回線ブロードバンド・インターネット接続装置にプラグインされた小さな基地局によって取り扱われる。この基地局は、免許不要の周波数で動作する「ブルートゥース」や「Wi‐Fi」などの無線技術を使って近くの端末と通信する。加入者が住居の中に入ってくると、端末はこの基地局に登録される。通話するときは、ブロードバンド回線(家族の何人かが同時に別々の通話をしても、それを扱うのに十分な容量がある)で目的の相手に送られる。このような方法で行われた通話は、固定通信の通話として課金される。住居を離れて通話する場合は、シームレスに通常の携帯電話ネットワーク経由に戻る。友人が来訪した場合、自分の端末でこの基地局経由で通話した場合は、その友人の請求書に合算される。着信通話については、経由したネットワークが移動か固定か(ダイヤルする番号が異なる)によって課金される(注)

(注)The marriage of two phones(The Economist / Sep 23rd 2004)

■BT、MVNOで移動通信に再参入

 英国の固定電話会社のBTは、通信バブルの後始末の過程で、不本意ながら移動通信部門(現在のmmO2)の切り離しを余儀なくされたが、最近MVNO(Mobile Virtual Network Operator)方式で英国内における企業向け市場に再参入した。同社はこれを同社が提唱する「完全に融合した固定/移動サービス」への第一歩だという。BTは6ヶ月前に、欧州の携帯電話最大手のボーダフォンとMVNO契約を締結し、mmO2との間の再販契約を終了させた(注)。これを契機にBTは、製品、サービス及び料金の全面改訂を実施した。

(注)BTモバイル(BTの移動通信部門)の現在の顧客は、契約の残存期間中はmmo2のネットワークに接続される。契約期間の終了後はBTのMVNOオプションに移行することを期待している。

 BTの移動通信部門(BTモバイル)の責任者によると、従来同社はmmO2が提供するサービスにBTのラベルを付けて提供しているだけだった。しかし、ボ−ダフォンとのMVNO協定では、単純に「生の卸売り原料(容量)」を購入し、BT独自の差別化されたサービスを開発・提供することが可能になったという。BTは、例えば音声メールのようないくつかのサービスではボーダフォンのプラットフォームを利用しているが、これからは自社のプラットフォームの利用も計画している(注)

(注)BT launches MVNO in U.K. corporate market(Total Telecom online / 19 November 2004)

 BTは、競争相手to 差別化されたサービスを提供することが、移動通信市場で成功する鍵になると確信している。MVNOによる再参入の結果、BTは11月19日に「Business Circle」パッケージを導入した。この企業向け移動通信サービス・パッケージは、企業ユーザーの移動端末をPBXの付属電話機として利用できるようにするMVNOサービスである。このサービスでは、ユーザーが携帯端末で会議に参加できるようにするため、BTの「Conference on Demand(オンデマンド会議)」の設備を利用する。端末はシーメンスが供給する。

 BTによると、小規模企業は実際の物理的インフラストラクチャーに余計な心配をしなくてもよくなるという。一方、大規模企業も、最も堅実に投資を続けるボーダフォンのネットワークにBTが移行することを朗報と受け止めている。BTがMVNOの入札でボーダフォンを選んだ理由の一つはこの点にあった。ボーダフォンを選んだその他の理由は、同等な条件で(level playing field)同社のサービスへのアクセスを認め、競争的卸売価格でサービスを提供したことである。そして、最も重要なことは、ボーダフォンはBTの推進する「固定・移動の融合」の抱負の実現を積極的にサポートすると確約したことである。

 ブルートゥースもしくはWi-Fi技術と無線アクセス・ポイントを利用して、ユーザーを固定網に無線で接続できるようにする「ブルーフォン(Bluephone)」の導入に関連して、「BTは英国全土のほとんどをカバーしている広範な固定網上で、無線の利用を可能にする。」とBTモバイルの責任者は語っている。

 ブルーフォンは2005年の上半期に商用化される計画で、ブルートゥースとGSM/GPRS技術の両方をサポートするよう設計されたモトローラ社製の折り畳み型の端末で提供される。このサービスは、当初は消費者及びSoHo(Small office Home office)向けだが、小企業もターゲットに含まれている。

 一方、BTはMVNOを英国の消費者市場に拡大する計画である。来年の1月から直営販売チャンネル経由で、2月からは特約店経由で製品の販売を開始する。サービスの内容がビジネス・バージョンと異なるが、詳細は明らかにされていない。BTの消費者向けモバイル・サービスはT-モバイル UKがリセールで提供しているが、1月以降はボーダフォンとの契約に移行する。固定・移動の融合を含むモビリティ・ビジネスを再度立ち上げ、5年以内に10億ユーロ超の市場(ポスト・ペイド顧客200万に相当)を確保するというのがBTの期待である(注)

(注)2004年9月末におけるBT(モバイル)の携帯電話顧客数は30.5万、うちビジネス顧客は14.5万、7〜9月の第2四半期で9万増加した。

■「固定」「移動」の区分が無意味になる?

 以下にエコノミスト誌の固定・移動通信の融合に関する展望を要約して紹介する(注)
BTのような固定通信会社が、固定・移動通信融合(FMC)の先導者としてこのアプローチをアッピールするのは当然だ。携帯電話にトラフィックを奪われるのを何もせず見過ごすよりは、携帯電話会社と協力して幾分かのトラフィックを奪い返すことができるからだ。BTは一旦携帯電話事業を売却した後、再販で再参入した。最近では、ボーダフォンと提携関係を結んでいる。FMCサービスは、携帯電話の通話の幾分かを固定網にシフトさせることによって、BT(モバイル)のコストを下げることを可能にする。また、BTは融合サービスを提供することによって、携帯電話専業の会社との差別化が可能になる。

(注)The marriage of two phones(The Economist / Sep 23rd 2004)

 傘下に携帯電話会社を保有する総合通信会社も、FMCの考え方を好んでいる。ネットワーク・インフラを統合し、固定と移動通信部門という組織上の区分を廃止することによって、総合通信会社は効率化を推進できる。例えばフランス・テレコムは、固定と移動の組織から(上場していた携帯電話子会社のオレンジの上場を廃止し、完全子会社にしたうえで)、消費者とビジネスの組織に再編成した。米国の二つの固定通信会社SBCとベルサウスが保有する携帯電話会社シンギュラーは、ビルディング内のカバレッジを改善するための方法としてFMCを着実に推進している。また、他の携帯電話会社に対する競争上の優位を得るため固定通信網を利用している。

 移動通信専業の会社でさえもFMCに影響を受けており、固定通信会社と取引関係を締結している。FMCは携帯電話会社の第3世代携帯電話(3G)網の余剰容量を一杯にするのを手助けするかもしれない。また、コスト削減のために、可能なところではコストの安い固定網に通話を移すことを可能にする。人々はFMCが携帯電話市場全体を拡大することに期待を寄せており、通信産業の誰もがFMCの考え方を好んでいるように思われる。いつでも、家にいるときでさえも携帯電話を離さないという習慣が顧客に一度出来てしまえば、FMCの利用は増加するだろう。メーカーもFMCの考え方を好んでいる。FMCに必要なバック・エンド設備の需要が発生するほか、FMCは既存の固定電話を取り替える機会を提供するからだ。

 最近FMCが関心を集めているのには幾つかの理由がある。一つは、携帯電話の普及である。FMCは誰もが端末を持っている状況のもとでのみ意味があり、少なくとも先進国ではそういう状況が実現した。もう一つは、端末にコストもサイズも余り追加することなく、複数の無線周波数を詰め込む(例えば一つは移動通信用、もう一つはビル内での固定網<ブルートゥースやWi-Fiなど>の利用)ことが可能になったことである。さらに重要な問題は、技術標準の制定である。今月、アルカテル、BT、シンギュラー、エリクソン、モトローラ、ノキア、ノーテル及びTモバイルを含むメーカーと携帯電話会社のコンソーシアムが、広域サービスの携帯電話とカバー領域の狭いブルートゥースとWi-Fiのネットワークを統合するための技術仕様を公表した。合意された標準は、携帯電話会社が特定の技術にロック・インされるリスク無しでFMCを推進できることを意味する。

 BTがFMCで最も関心を集めている企業であることは衆目の一致するところだ。そのBTが主導する「FMCアライアンス」(BT、NTT、ブラジル・テレコム、韓国テレコムを含む)が去る7月に発足した。「ブルーフォン」として知られるBTの先駆的なFMC技術は、アルカテル、モトローラ及びエリクソンを含む7社のコンソーシアムで開発されており、世界中の通信会社が注目している。技術標準が合意され、端末が利用できるようになって、BTは来年春の商用化に向けて、この12月から試験に取り組む。

 答えの出ていない大きな問題は、消費者がこれらの融合端末を実際に買ってくれるかどうかである。BTは「ブルーフォン」を、シンプル化した技術に基づくサービスとして販売するよう計画しているが、それはそう簡単なことではなさそうだ。FMCを考える一つの方向は、携帯電話の特性を固定網環境に持ち込むということである。市場調査の結果は、特に価格が安ければ、人々はこのアイデアを受け入れるというものだった。

 「ブルーフォン」が英国で成功すれば、同様のサービスが他の各地で始るだろう。その場合、携帯電話専業の会社はケーブル・テレビ会社と組むかもしれない。移動電話だけ、固定通信だけの通信会社は最早立ち行かなくなるからだ。さらに多くの通信会社はフランス・テレコムの先例に従って、固定通信と移動通信部門を統合するかもしれない。電話を2つのタイプに分ける歴史的な区分は消滅するのではないか。このような状況が本当に到来すれば、「固定」、「移動」という用語は数年以内に時代錯誤となるだろうと、前掲のエコノミスト誌は書いている。

■NTTの固定・移動通信融合戦略

 NTTは去る11月10日に公表した「NTTグループ中期経営戦略」で「固定通信と移動通信の融合などを実現するブロードバンド・ユビキタスサービスの開発・普及」を目標に掲げている。お客さまのニーズは“いつでもどこでもなんにでもつながる”ユビキタスサービスにあるとし、NTTはグループとしての総合力を生かして、こうしたお客様のニーズに応えていくとしている。

 そのやや具体化した構想を以下の3項目に示している。(1)光アクセスによる超高速な双方向映像通信サービスと移動通信サービスとを融合し、PC、TV、携帯電話や情報家電等から簡単に利用可能なユビキタスサービスを提供する。(2)多地点間のテレビ会議サービスなど、臨場感のあるリアルタイムな双方向映像通信サービスを提供する。(3)お客様の望む情報を的確かつ迅速に提供し、モバイルにも対応した総合的なポータルサービスを提供する。

 「中期経営計画」のニュース・リリースの際の説明資料に、ブロードバンドと携帯で使えるシームレスなサービスの例が示されている。それによると(1)ポータル・コンテンツ・アプリケーションの(固定・移動)共通利用 (2)プラットフォームの共通利用 (3)固定/携帯間で“つながる”各種コミュニケーションサービス が例示されている。アプリケーションやプラットフォームなどの共同利用は効率化のために好ましく、当然推進すべき課題であるが、お客様が望むサービスの融合とは次元が異なるように思える。また、固定/携帯間で“つながる”各種コミュニケーションサービスが、お客様が望むサービスか否かは料金と品質によって決まってくるのではないか。しかも、これらのサービスが何時頃、何処で、いくら位の料金で実現するかについては「中期経営戦略」では明らかにされておらず、近い将来に実現するサービスという印象が薄い。

 「中期経営計画」のニュース・リリースの際の記者会見で、固定と移動の融合についての具体的考えを質問されて、NTTの和田社長は次のように答えている。「移動と固定のネットワークの融合は技術の進歩によって進んでいくと思う。一方、お客様サイドから見たサービスの融合は、すでに、(同じ)携帯電話の端末が、オフィスの中では無線LANを経由して固定網につながり、外出先では携帯電話(FOMA)として移動通信網につながるというサービスを、企業向けソリューションとして提供している。」

 これはNTTドコモが提供しているモバイル・セントレックス・サービスの「パッセ−ジ・デュプレ」を指しているが、今後の固定と移動の融合サービスの戦略的な展開にあたっては、サービスに具体性がある「パッセージ・デュプレ」の全面展開をアッピールすべきだった。固定と移動の融合サービスは、必ずしも固定と移動の両会社が共同で運営するサービスではないということに思いを致すべきだ。

特別研究員 本間 雅雄
編集室宛>nl@icr.co.jp
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