ホーム > InfoComアイ2005 >
InfoComアイ
2005年7月掲載

動き出した次世代高速無線アクセス技術、WiMAX

 第3世代携帯電話(3G)の展開が本格化する一方で、固定無線アクセスの分野でも無線LAN(WiFi)より広い範囲で高速通信が可能になるWiMAX(注)の現場試験に取り組む通信会社が増加している。さらに、今年秋に携帯端末用の規格がまとまる予定のモバイルWiMAXに対する関心が一段と高まっている。韓国のように、固定通信用のWiMAXをスキップして一気にモバイルWiMAX(韓国の場合は独自開発によるWiBRO)の商用化を目指す国もある。以下に、最近における高速無線アクセス・サービス、WiMAXの動向をレポートする。

(注)WiMAX:Worldwide Interoperability for Microwave Access

■加速するWiMAXの開発競争、関心はモビリティへ

 現在電話会社など(韓国を除く)が商用化に向けた実証実験に取り組んでいるのは、2004年6月にWiMAXフォーラムによって標準化されたIEEE 802.16で、モビリティをサポートしない固定WiMAXである。2〜11GHz帯の周波数を使って、1基地局当り最大280Mbpsの速度で、半径50Kmの通信が出来るとされている。今年の5月にWiMAXフォーラムは欧州の通信規格制定機関のETSIと、WiMAXが無線MAN(Metropolitan Area Network)技術に関する世界で唯一の標準であることを確認する正式な協定を締結したことを公表している。

 WiMAX向けチップの開発をリードしてきたインテルは、「ローズデール」として知られている新WiMAXチップを今年末に出荷を開始する予定である。同社は2004年3月に、WiMAX向け機器市場のリーダーであるアルカテルと、2005年下半期までにWiMAX向け機器の出荷を開始することで非排他的な提携関係を結んでいた。この他、富士通も今年の早い時期に、WiMAX向けチップの開発を開始しており、2006年には出荷したい意向である。さらに、WiMAXフォーラムのメンバーであるAirspan Networks、Alvarion、Aperto Networks、Ensemble Communications、Navini Networks、Proxim、Wi-LANなどの新興企業及びノキアが、WiMAX機器の出荷開始を2005年か2006年に計画している。一方、通信会社のWiMAXに関する関心は高く、2005年末までには世界中の75社超が試験を開始するとみられている。

 Aperto Networksは、802.16のチップとデータ・カードが市場でヒットすれば、顧客構内に設置する設備(CPE)を300ドルで出荷できるだろう、その後は値下りし結局現在の無線LAN(WiFi)カードの価格である30ドルになるかもしれない,と見通しを述べている。また、多くのWiMAXベンダーは、顧客自身が設置できる窓に貼り付けるアンテナや屋根に設置する設備を提供する計画である。最初にWiMAXフォーラムが認証する製品は固定WiMAX向けであり、3.5GHz帯の製品をカバーすることになるだろうという。将来における製品の高度化にあたっては、以前の製品との互換性の確保を同フォーラムが認証することを考えている(注)。いずれにしても、WiMAX関連機器の価格は、携帯電話ではなくWiFiのそれに近づくことが期待できそうだ。都市地域では、固定ブロードバンドのADSLやケーブル・モデムとの競合もありうるとみられている。

(注)Here comes WiMAX world,Tech Knowledge from S&P(BusinessWeek online / June 20,2005)

 WiMAXフォーラムは、モバイルWiMAX(802.16e)の規格を今年の下半期に制定する意向のようだ。また、同フォーラムはラップトップ及びハンドヘルド・コンピュータからのハンドオーバーをサポートするモバイル・ワイヤレス・アクセスの規格制定を2007年の早期に行う計画である。デルやその他の主要なPCメーカーは、ラップトップにWiMAXの機能を内蔵する(WiFiの機能を内蔵したセントリーノに相当する)ための設計要件について、すでにインテルやその他のチップ・メーカーと話し合いを始めている模様だ。

 今年5月に、モバイルWiMAXの独自規格(WiBRO)制定を目指して、通信会社と共同で実験を続けている韓国のサムスン及びLGエレクトロニクスなどのメーカーが,WiMAXフォーラムに加盟することを発表した。これは、韓国がWiBRO(2.3GHz帯)をWiMAXフォーラムの枠組みの中で,国際標準化したいとする協調的な態度に転換したと受け止められ、歓迎されている。

 WiMAXの技術開発は、家庭などの固定端末向けが先行した。コストの高い有線通信網を敷設せずに高速インターネット接続を実現できるからだ。特に、過疎地域や発展途上国でのブロードバンド需要を充たすのに効果を発揮すると期待されていた。有線の高速通信網が整備されている都市地域ではそのメリットが見えにくかったが、WiMAXのモビリティ機能が見えてきたことから、モバイル・ブロードバンドを効率的に実現する有力な技術として通信会社の関心が高まり、開発に拍車がかかっている。

 前掲のビジネスウィーク・オンライン版のS&Pのレポートによると、設備やチップのメーカーがWiMAXソリューションの将来に関する「ウィン・ウィン」シナリオを発表しているが、サービス・プロバイダー側のビジネスという視点からは、これが確信の持てる見取り図だとはとてもいえない、と指摘している。現状では、WiMAX免許の前提となる周波数の割り当てに関する方針さえ明確になっていない。それでも、新免許の取得には新興企業を優遇する措置が取られることを見込んで、クレイグ・マッコウ氏(注)のClearwire(非上場企業)が独自のWiMAXタイプの技術に関する試験を全米15ヶ所以上で実施し、他社に先行している。大手の電話会社は、規制とマーケティングの駆け引きを通じて、WiMAXの拡大を遅らせようと試みるだろうが、その努力は恐らく失敗するだろう。WiMAXから利益を得るのは一般利用者だけでなく、すでにWiFiのアプリケーションを取り入れている大企業にも利益をもたらすからで、WiMAXが次ぎのステップとなることは当然である。S&Pの意見は、相手と闘えないなら、その相手と組めということだ、と書いている。

(注)AT&Tワイヤレス(昨年シンギュラー・ワイヤレスに買収された)の前身であるマッコウ・セルラーのオーナーだった人物。

■通信会社による相次ぐWiMAX実験

 米国の大手地域通信会社ベルサウスも6月7日に、初期バージョンのWiMAXをベースにした「Fast-Access Internet Service」を、ジョージア州Athensで8月から住宅用顧客向けに開始すると発表した。今年末にはこのサービスをフロリダ州のいくつかの市に拡大したい意向である。他の電話会社同様、同社はWiMAXを、有線のブロードバンドによるアクセスを拡大することが困難な地域、つまり、余りに多額の費用が必要で有線を展開できない場所への無線による低コストの代替手段と考えている。ベルサウスはこのサービスの料金について詳細を発表していないが、競争商品のケーブル・モデム、ADSL及び第3世代携帯電話などのブロードバンド料金が概ね月額30〜50ドルであり、これらと競争ができることが必要条件になるだろうという。

 米国の長距離通信会社のAT&T(地域通信大手のSBCに買収されることで合意)は去る6月20日に、今年の秋ジョージア州で無線ブロードバンド技術の大規模な商用試験を実施すると発表した。AT&Tは、最近の数ヵ月間にこのような試験をキック・オフすると発表した最後の大手通信会社である。同社は、来年商用試験が終了した後、企業顧客にサービスの提供を開始する計画である。導入する技術は初期バージョンのWiMAXで、有線による高速接続の速度に匹敵する無線によるインターネット接続を提供する。AT&Tは今年の初めに、WiMAXの小規模実験を研究所内及びニュー・ジャージーとアラスカの小さなコミュニティで実施していた。

 AT&Tの実験は、都市地域における企業顧客を対象にするもので、有線でブロードバンドを提供することが困難もしくは著しく不経済な過疎的な地域における無線による代替手段と位置づけている電話会社の一般的な考え方と違っている。この点について同社の技術責任者は、WiMAXはすべてのサービスの信頼性をより高め、モビリティを可能にし、それをより望ましいコストで実現する破壊的(disruptive)技術であると語って(注)、同社の試験がWiMAXの初期バージョンにとどまらず、モバイルWiMAXを含む次のステップの技術を展望していることを明らかにしている。

(注)AT&T to test wireless broadband in a large-scale trial this fall(The Wall Street Journal/ June 20,2005)

 AT&Tはジョージア州における試験のために、4つの送信タワーを建設中である。1つはアトランタのビジネス・センター街に、残りの3つは同市北部のコミュニティに建設される。同社は30程度の大企業顧客が実験に参加することを期待している。同社の試験ではインテル製のチップセットが使われる予定である。WiMAXは、サービス・プロバイダーにインターネット電話、ビデオ、双方向メッセージ通信(チャット)及びインターネットなどの多くのサービスを、高度にセキュアな無線接続上で同時に提供することを可能にし、そのことによって無線通信を劇的に変える潜在的能力を持っている、と前掲のウォール・ストリート・ジャーナル紙は書いている。

 米国第3位の携帯電話会社スプリント(携帯電話、長距離通信及び地域通信事業を運営、携帯電話会社のネクステルの買収で合意)は、去る6月初旬に、モトローラと共同でWiMAXによる無線ブロードバンド・サービスの試験を開始すると発表した。同社は今年1月にインテルとも同様の提携をしている。スプリントとモトローラによる今回の共同試験は、無線ブロードバンド技術のテストと設備の試験を都市地域で行うもので、スプリントの長期経営戦略の決定をサポートするという意味もある。試験は今年の第4四半期に開始され、2006年まで継続する予定である。

 スプリントは将来のワイヤレス・インターラクティブ・マルチメディア・サービスをサポートするため、多くの戦略的な提携を行ない多数の技術の調査を実施しており、WiMAXはスプリントが調査している技術の中の一つである。この試験が次世代無線ネットワークのインフラストラクチャーの要件と将来のワイヤレス・マルチメディア・サービスの製品の具体化をサポートすることをスプリントは期待している。欧州やアジアの同業者と同様、米国の携帯電話会社は今後5年以内に展開されるであろう第4世代のブロードバンド無線技術の調査をしており、有線による固定ブロードバンド・サービスと同様のサービスを無線でも提供したいと考えている。したがって、この試験サービスの商用化がすぐに実現することはないだろう、とスプリントのスポークスマンは語っている(注)

(注)Sprint,Motorola link in WiMAX move(Financial Times online / July 1 2005)

 日本でもKDDIが6月29日に、WiMAXの実証実験を7月から始めると発表した。大阪市内で、自動車での移動中の性能評価などを行う予定である。同社は実験に必要な免許を、このほど総務省から取得した。今回の実験は、時速120kmまでの速度で移動中にも利用できるモバイルWiMAX(802/16e)で、通信速度は最高15Mbpsで現行の3Gより高速で通信できる。PCに挿入して使うカード型通信機器などが、移動時でも安定して利用できるかなどを確認する。携帯電話機や携帯情報端末(PDA)にWiMAX技術を組み入れ、より高速なデータ通信が必要な場合はWiMAXを、音声通話では携帯電話を使う、などを想定しているという(注)

(注)新無線技術「WiMAX」 来月に実証実験(日経産業新聞 / 05.6.30)

■韓国の「国策」高速無線通信規格WiBRO

 韓国政府が主導する高速無線通信規格WiBRO(ワイブロ:ワイヤレス・ブロードバンドの略)が注目を集めている。移動中でも高速インターネットを利用できるようにするため、インテルが推進するWiMAXを韓国政府(情報通信部)主導で改良して独自規格を策定し、2006年の商用化を目指している。高速で移動中の車内でも1Mbpsの通信が可能という。

 韓国政府が2002年に各界の専門家を集めて通信市場の動向と技術発展を予測した際、現状では「携帯電話はデータ通信速度が遅く、料金も高い」、「無線LAN(WiFi)は到達距離が短く、サービス地域が限定的」という問題点が浮かんだ。この分析結果を受けて、韓国政府として取り組む分野を「携帯インターネット・サービス」に決め、その規格をWiBroと命名し2004年から開発を促進してきた。韓国勢はインテルと組んでWiBroをWiMAXフォーラムの下で国際標準化する方針である(注)

(注)韓国が策定 無線規格 「WiBro」 将来見据え政府主導(日経産業新聞 /05.6.29)

 ブロードバンド無線アクセス(BWA)プロジェクトが欧州でも展開されている。去る5月にBrightonは、英国で最初の固定WiMAXサービスを展開する市となった。しかし、韓国は独自に開発したWiBroを2006年早期に商用化し、BWAモビリティの先駆者となろうとしている。韓国は固定WiMAXを飛び越えて、一挙にかつ早期にモバイル・バージョンに向かって進んでいる。現行のWiMAX規格は、静止している端末に高速ブロードバンド・ワイヤレスのアクセスをカバーする。しかし、それがモバイルWiMAXにアップグレードされれば、固定と移動の融合を確実にするとして、通信産業に多大の誇大宣伝を現出させている、と英国の通信業界誌トータル・テレコム・マガジンは書いている(注)

(注)Broadband Wireless Access:A broadly mobile dilemma(Total Telecom Magazine / 01 June,2005)

 韓国の固定通信第1位の韓国テレコム(KT)とインテルは、KTの無線ブロードバンド、WiBroの商用化に向けて共同で努力する、という趣旨の覚書を6月16日に締結した。インテルは、地域通信会社向けの端末を開発するため、ブロードバンド無線の技術、チップ及び技術サービスを提供する予定である。また、インテルは同社のWiMAX無線技術とKTのWiBroサービスのコンパティビリティを可能にするエンジニアリング支援を行う予定である。KTは11月に韓国で開催予定のAPECサミット2005で、WiBroの最初の実演展示を計画している(注)

(注)KT Corp,Intel sign cooperation deal on wireless broadband(Dow Jones Newswires/16 June 2005)

 韓国のサムスン・エレクトロニクスは、モバイルWiMAXのグローバル規格802.16eが今年第3四半期に承認され次第、その規格に従うため同社の無線ブロードバンド技術WiBroのアップグレードを開始することを計画している。しかし、同社の技術責任者はその所要期間がどのぐらいかを明らかにしていない。彼によればWiBroは802.16e規格の不完全バージョンをベースにしているという。それでも、サムスンはWiBroを2006年4月から商用化するという目標を変えていない。それは、韓国政府が韓国の機器メーカーと電話会社に、2006年4月までに商用サービスを開始するというスケジュールを強制しているからであり、標準化以前の設備で対応するほかなかったのだという。

 そのような状況の中で、携帯電話事業のSKテレコムとKTグループはWiBroサービスを導入する計画を変えていないが、経営不振が続く固定通信会社のハナロはWiBroからの撤退を表明している。すでにブロードバンドの普及が飽和状態に近づいている韓国で、あらためてWiMAXの需要は何処にあるのかという疑問が出されている。先進国市場においてWiMAXが大規模な展開を成し遂げる場合、そのクリティカル・ファクターとなるのは恐らくモビリティだろう、と前掲のトータル・テレコム誌は指摘している。英国の調査会社のオーバムによれば、WiMAXが本当に離陸する時期は、コスト効果の高いモバイルPCカードがラップトップに組み込まれる2008〜2009年になるだろうという。

■WiMAXアプリの改善でノキアとインテルが協力

 世界第1位の携帯電話メーカーのノキアと世界第1位のコンピュータ・チップ・メーカーのインテルは、6月10日にWiMAXの開発に両社が共同であたると発表した。両社の提携はWiMAXのモバイル・アプリケーションの改善(refining)を目的にしている。この分野は、セルラー技術をベースとしたモバイル・データ・ネットワークからの厳しい競争(高速化と料金の低下)に直面している。両社は、ラップトップ・コンピュータ、移動端末及び基地局ネットワークのためのWiMAX技術を共同で開発する。

 ノキアのニュース・リリースは次のように述べている。「WiMAXは現在普及しているWiFi(無線LAN)に匹敵する高速の通信が可能なうえ、その接続はかなり広い範囲に及ぶにもかかわれず、今日まで主として固定網インターネット接続の代替サービスとして利用されてきた。都市地域の公園やカフェ、その他のパブリック・スペースでラップトップや携帯電話を利用している人たちに、今世紀最初の10年の終り頃(later this decade)に高速インターネット・アクセスを提供することが適切であろう、と我々は確信している。」(注)

(注)Nokia and Intel collaborate on WiMAX broadband wireless technology(Nokia Press Release /June 10,2005)

 ウォール・ストリート・ジャーナル(注)は、かつてインテルが短い範囲(約100m)をカバーするWiFi規格を広く普及させたように、ノキアの協力はWiMAXをマス・マーケット技術にしようとしているインテルの努力を補強することになる、と指摘している。WiFiの普及は、インテルのラップトップ向けチップの販売増加に大きく寄与した。両社は、現在のWiFiをベースとした「ホット・スポット」を、WiMAXが「ホット・ゾーン」に拡大するだろうと期待している。ノキアは最初のWiMAX端末を2008年に販売開始する予定である。インテルのモビリティ・グループの責任者は、将来の電話やモバイル・コンピュータは複数の通信チップの組み合わせを内蔵し、利用できる最良の接続を選択して、利用者がWiFi、WiMAXあるいはセルラー・ネットワークの間をスムースに移動(ハンドオーバー)できるようになるだろう、と予測している。

(注)Nokia,Intel plan to collaborate on wireless technology WiMAX(The Wall Street Journal / June 10,2005)

特別研究員 本間 雅雄
編集室宛>nl@icr.co.jp
▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。