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2005年11月掲載

KDDIのau事業とNTTドコモの上半期決算を比較する

  KDDIは10月21日、NTTドコモは10月28日に、夫々2006年3月期中間期(2005年4月〜9月)の決算を発表した。最大手のドコモは、競争力の強化を狙った割引制度の拡充などによって減収(前年同期比3.2%減)となったものの、販売数の減少にともなう関連経費の減少や経費の節減などによって、増益の決算となった。NTTグループの連結営業利益の73%をドコモが占め、固定通信事業の不振を携帯電話事業で支える構図が一層明確になった。KDDIは、携帯電話事業のau事業が好調で増収増益となり、固定通信事業の不振(営業損失295億円)を補填したうえで、グループ全体の増益(前年同期比2.6%増)に貢献した。KDDIグループの今期の営業収益に占める携帯電話事業の比率は83%まで高まった。両社の上半期決算から携帯電話事業の問題点を考えてみたい。

■減収増益となったNTTドコモの決算

 NTTドコモの05年度上半期の営業収益は前年同期比3.2%の減収だった。しかし、当期の減収額785億円(3.2%減)のうち、657億円は端末機器販売額の減収(22.4%減)で、無線通信サービスの減収は128億円(0.6%減)と減収幅が縮小した。一方、営業費用は前年同期比4.8%の減少だった。当期の営業費用減少額914億円のうち、販売及び一般管理費の減少567億円(8.4%減)及び端末機器原価の減少441億円(7.9%減)が大部分を占めている。この結果、ドコモの営業利益は前年同期を2.4%上回る5,584億円となり、減収増益だった。営業利益率は前年同期比1.3ポイント改善して23.5%となった。

表1 NTTドコモ2006年3月期中間期(05年4〜9月)連結決算概要

 営業収益のうち無線通信サービスの減収が前年同期比0.6%にとどまったのは、契約数の純増の伸び率(5.4%増)と、ARPU(1契約当たり月間平均収入)の減少率(5.1%:FOMA+mova)がほぼ均衡したからだ。より高い収入が期待できる第3世代携帯電話(3G)FOMAへの移行が進んだことも寄与している。ドコモは05年度通期の携帯電話収入予測を、上半期の実績をもとに610億円(1.5%)上方修正(当初ARPUの0.7%増と契約数の純増を20万プラス)している。

 一方、端末機器販売額の減収(前年同期比22.4%)および端末機器原価の減少(7.9%)は、新規、取替、移行など総販売数が9.7%減少して1,191万となったことによる。しかし、端末機器の収支率は、前年同期に販売額100に対し原価193だったものが、今期は販売額100に対し原価は230と悪化している。販売及び一般管理費の減少も、販売数の減少にリンクしていると思われる。05年度通期の見通しでは、端末機器販売収入を当初計画に対し890億円の減を見込むほか、「収益連動経費」(注)を当初計画に対し690億円(3.8%)削減するよう修正している。販売数が減少すると利益が増加する不思議な仕組みになっている。

(注)収益連動経費:端末機器原価+代理店手数料+ポイントサービス経費
 ドコモの05年度上半期の「収益連動経費」は8,208億円、総販売数は1,191万台、販売1台当たり収益連動経費は6.9万円、これから端末機器1台当たり販売収入1.9万円を差し引いた5万円が1台当たり実質代理店手数料(販売奨励金)と推定できる。

■高い販売関連経費と安い端末価格

 ドコモの中村社長は、携帯電話収入はファミリー割引の拡充など各種の料金改定に伴うARPUの減少はあったものの、端末ラインアップの充実等による新規契約者の獲得(05年度上半期の純増数は前年同期比5万増の108万)と解約率の低減(05年度上半期の解約率は前年同期比0.26ポイント低下し0.81%)により減収幅は縮小し、前年同期比の0.5%減にとどまったことを強調している。また、今後は総合的な取り組みを展開していくことによりコアビジネスの充実強化を図り、不採算事業の見直し、端末調達コスト・ネットワークコストの低減および代理店手数料の効率的運用などをはじめとした事業の効率化を進めることにも触れている。

 しかし、05年度上半期における販売費及び一般管理費の営業費用全体に占める比率は34.1%(前年同期比1.3ポイント減)と高い水準にあり、端末機器原価5,115億円と端末機器販売額2,225億円との逆ザヤ2,891億円(前年同期の逆ザヤより216億円増化)を実質的な販売費用とみなした場合の販管費比率は50.0%(前年同期比0.5ポイント増)と依然として高いままである。

 これはドコモだけでなく日本の携帯電話会社に共通する問題である。ドコモは、FOMAの廉価版機種(700シリーズ)を投入したり、海外メーカーからの廉価な端末の調達を検討して、端末調達コストの低減に努める考えだ。また、2年以上同じ端末を使い続けている顧客に電池パックを無料で提供して、販売数(取替数)を減らす対策にも取り組んでいる。さらに、販売代理店の整理統合も検討している。

 しかし、これだけでは対策として十分でない。高額な「販売奨励金」を代理店に提供し、原価の43%(05年度上半期の場合)(注)で端末を販売することで顧客に新機種への買い替えを競わせ、その赤字を毎月の料金で穴埋めするという従来からの仕組みが、高機能化による端末価格の高騰によって限界に来ている。基本的には、顧客に端末の価値に見合った対価で購入して貰うことが必要ではないか。少なくとも現在代理店の店頭で売られている端末価格はどう見ても異常である。

(注)ドコモを例にとると、端末1台当たり平均原価は4.3万円、平均販売額は1.9万円(原価の43%、通常は原価に50%程度の流通経費を加えた額が販売額になる)である。FOMA900iの店頭価格は1万円前後(Nikkei プラス / 05.11.5)である。ドコモの販売価格と店頭価格の差は、代理店が販売奨励金を充当して販売価格を引き下げて販売しているものと思われる。

 ドコモは11月から新料金プランを導入する。新料金プランの第1の狙いは、顧客に分かりやすい料金プランを提供することである。現在別々になっているFOMAとmovaの基本使用料の各種プランを統一し、通話料についても距離区分など複雑な「通話料金区分」を廃止して「30秒課金」に統一する。第2の狙いは長期契約顧客の優遇である。新1年割引(10%)を導入して10年超まで年々割引を拡大し、最大25%まで割引く。ファミリー割引とセットの場合、基本使用料が最大半額まで割引かれる。この料金プランの改定は、movaからFOMAへの移行促進と06年から始るナンバー・ポータビリティに備えたものだ。新料金プランが狙い通り顧客のロイヤリティを高めることができるか、また期待通りARPUの減少に歯止めを掛けられるか、今後を注目したい。

 事業の大幅な伸びが期待できないなかで、ドコモが新たな事業の柱として位置づけているのが決済事業である。去る7月に三井住友カードに980億円出資して34%の株を保有し、最近では楽天オークションに42億円出資して40%の株式を保有することで、またタワーレコードに128億円出資し42%の株式を保有することで合意している。FOMA900シリーズに内蔵されている「おさいふ携帯」の拡販と手数料ビジネスの拡大を狙ったものだ。

 ドコモは2005年度の連結業績見通しを上方修正した。携帯電話収入を当初計画比610億円増と見込み、販売数の減少に伴う機器販売収入を890億円減と見込み、営業収益を210億円減と見込んでいる。営業費用については、KPNモバイルとの資本関係の解消に伴う費用として140億円、設備更改に伴う原価償却費の増230億円を見込む一方、販売数の減少に伴う収益連動経費を当初計画比690億円減と見込んでいる。その結果営業利益は当初計画比200億円増の8,300億円に上方修正している。

表2 NTTドコモ2006年3月期連結業績修正見通し

■好調のKDDI au事業と赤字の固定通信事業

 KDDIのau事業は好調で、05年度上半期は増収・増益となった。営業収益は前年同期比10.4%の増収だった。販売が好調で、携帯電話の総契約数は前年上半期末比13.8%の増加となった。上半期の契約純増数は116万で、ドコモの108万を上回りトップだった。当期のARPU(総合)を前年同期比2.2%減の7,120円にとどめられたことも増収に寄与している。この間ドコモのARPUは5.2%減少して7,000円となり、auに逆転された。一方、営業費用の増加は7.3%と営業収益の伸び率を下回ったため、営業利益は29.0%増加し、1,852億円となった。営業利益率は16.6%と2.4ポイント改善された。

表3 KDDI au事業2006年3月期中間期(2006年4〜9月)決算概要

 05年度上半期のauの業績とドコモを比較すると、営業利益率ではauの16.6%(前年同期比2.4ポイント改善)に対し、ドコモは23.5%(1.3ポイント改善)と高い。しかし、営業利益率の改善率ではauが高い。EBITDAマージンについてもauの26.0%(1.6ポイント改善)に対しドコモは38.2%(1.6ポイント改善)と高い。現時点ではドコモの経営効率がauをかなり上回っている。ただし、経営効率を考える場合、04年9月末〜05年9月末までの携帯電話契約数増加率がauでは13.8%だったのに対しドコモは5.4%だったこと、auは増収増益でドコモは減収増益だったことなども考慮する必要がある。ARPU(総合)は、auの7,120円(前年同期比2.2%減)に対しドコモの7,000円(5.2%減)と05年度上半期で逆転が起きている。auの解約率は今期に1.21%(前年同期比0.28ポイント改善)と過去最低を記録したが、ドコモの解約率はこれを下回る0.81%(0.26ポイント改善)だった。auのARPUの低い減少率や解約率の改善は、「着うたフル」(05年9月28日に累計2,000万曲のダウンロードを達成)や「助手席ナビ」、また「ダブル定額料金」などの革新的なサービスや料金が顧客に受け入れられたからだろう。

表4 2005年度上半期の経営成果比較

 au事業の「販売関連経費」はどうなっているか。KDDIはau事業の「販売コミッション」の時系列データを公表している。「販売コミッション」の定義は明らかでないが、ドコモの「収益関連費用」とは異なり、端末機器原価が含まれていない「販売代理店手数料」ではないかと思われる。KDDIの中間決算資料によると、05年度上半期の「販売コッミッション」総額は2,210億円で端末販売台数は592万である。販売1端末当たりの「販売コミッション」は37,300円である。

 このほかに、端末機器の原価と販売額の逆ザヤが実質的な販売コストに加わる。KDDIはこれらに関連する情報を公開していないが、ドコモのケースでは1端末当たり販売額は1.9万円、その原価は4.3万円で、逆ザヤは2.4万円となる。「販売コミッション」37,000円に、単純に端末の逆ザヤを加えると6万円を超える。実質販売費用はauの方がドコモを上回ると考えられる。

(注)KDDIの2006年3月期中間決算(固定通信事業等を含む)では、電気通信営業費用(10,105億円)に占める営業費(4,997億円)と管理費(344億円)の合計比率は52.9%(前年同期比0.8ポイント増)だった。

 この問題に対処するため、KDDIは端末コスト低減に向けて取り組みを強化している。海外メーカーと日本向け端末の共同開発を推進することや、KDDIコモン・プラットフォーム(KCP)の活用による各端末メーカー間でのハードとソフトの共通化などを推進している。CDMA世界5位の韓国の携帯電話メーカー、パンテック社と共同開発した新端末が11月下旬に発売される予定だ。しかし、それだけでは対策として不十分であることは、すでに指摘したところだ。

 au事業の好調にもかかわらず、KDDIの05年度上半期の連結決算における営業収益は、固定通信事業の不振で0.2%の減収となった。同社の固定通信事業の当期における営業収益は前年同期比3.6%の減収で2,862億円となった。これは同社全体の営業収益の25.6%を占める。営業損失は295億円、営業利益率はマイナス10.3%だった。不振の原因の一つは「メタルプラス」の販売エリア拡大の遅れで、利用者は05年9月末68万(9月末契約数は136万)に過ぎない。下期にはメタルプラスの早期開通による採算の改善に取り組むことを表明している。

 このような情況を打開するため、KDDIは固定通信事業の強化に踏み切った。去る10月13日に、東京電力の通信子会社(83%を出資)パワードコムを06年1月に合併することで合意した。さらに、東電本体が運営する家庭向け光ファイバー回線「TEPCOひかり」についてもKDDIに統合する方向で検討中だという。固定電話や携帯電話それにブロードバンド・ネット接続などのサービスをパッケージ化して提供する総合サービスが、今後の通信事業の競争力を左右するとみて、KDDIは東電グループと提携を強化し、手薄な固定通信部門(特にアクセス)に梃入れする。一方、日本テレコムを買収したソフトバンク・グループとeアクセスなどは、待望の携帯電話事業に進出する。成熟化の一方で融合の時代を迎えた通信市場で、新たな競争の時代の幕が明くかもしれない。

特別研究員 本間 雅雄
編集室宛>nl@icr.co.jp
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