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2006年12月掲載

NTTの中間期決算から見えてくるもの

  NTTが去る11月10日に発表した2007年3月期中間決算(連結、米国会計基準)は、売上高が3期ぶりに前年同期比で僅かに増収(0.3%)となったもの、営業費用が2.0%増加し、営業利益は9.4%減の6,915億円にとどまった。売上高営業利益率も1.4ポイント悪化し13.2%となった。減益となったのは、移動通信事業における端末機器原価の上昇および地域通信事業における音声通信の減収をIP系通信の伸びや費用の削減でカバーできなかったからだ。しかし、NTTは下期に期待して通期の業績予想、営業利益12,000億円は変えなかった。一方、ライバルのKDDIは移動通信事業が好調で、固定通信事業の赤字を吸収したうえで営業利益を大きく伸ばした。ソフトバンクは、ブロードバンド事業が2005年度第1四半期から、固定通信事業も2005年度第4四半期から黒字化し、移動通信事業もグループの中核事業として歩み始めた。ここでは、今期期中間決算で減益となったNTTと増益となったKDDIで何が明暗を分けたのか、それから見えてくるものは何か、を考えてみたい。

表1:通信事業大手3社の2006年度中間期決算(連結)

(注)(増減)は前年同期比
区分 売上高 営業利益 売上高営業利益率
NTT
(増減)
52,493億円
(0.3%)
6,915億点
(-9.4%)
13.2%
(-1.4ポイント)
KDDI
(増減)
16,048億円
(9.3%)
2,295億円
(37.7%)
14.3%
(3.0ポイント)
ソフトバンク
(増減)
11,202億円
(11.4%)
1,126億円
(2,457.8%)
10.0%
(9.2ポイント)

■中間期決算の明暗を分けた移動通通信事業

 NTTグループが減益となったのは、固定通信の音声関連収入の減少が続いているうえに、移動通信事業で第3世代携帯電話FOMAの販売促進にともなって調達した端末の原価が上昇したことが主な原因だ。IP系通信やシステム統合などの新分野で収入が伸びたが、音声通信の減少と移動端末費用の増加を補いきれなかった。

 中間期決算の説明会におけるNTTの資料によると、前年度の中間期決算よりも719億円減少した営業利益の事業セグメント別内訳は、固定通信事業セグメントが510億円、移動通信事業セグメントが415億円それぞれ減益、データ通信事業セグメントが204億円の増益だった。このことから、NTTの中間期決算の不振は、ここ数年来減収が続く固定通信事業だけでなく、これまでグループ利益の4分の3を稼いできたNTTドコモの収益力が低下したことに原因の一つがあることが分かる。

 これに対し、ライバルのKDDIの移動通信部門は、今中間期の売上高を前年同期比5.7%、伸ばして営業利益を23.9%増の2、428億円とし、固定通信事業の営業損失168億円を吸収したうえで、連結営業利益を33.7%増の2、295億円に押上げるのに寄与した。この間、1加入当り月額収入(ARUP)が前年同期比5%減少したが、契約数を9.0%伸ばした(2006年度上期の純増シェア47.7%で1位)ことで5.7%の増収を確保する一方、営業費用の伸びを2.3%に抑えた。この結果、売上高営業利益率は2.7ポイント改善して18.9%となるなど、好調な決算となった(注)

(注)しかし、KDDIの2006年度上期決算説明会の資料によると、移動通信部門の通期の予定営業利益率を13.5%(2005年度より0.6ポイント悪化)としている。これは。下半期にナンバー・ポータビリティ対策の料金値下げなどの影響を織り込んだ結果だが、上振れする可能性が高いと思われる。

表2:携帯電話大手3社の2006年度中間期決算

(注)KDDIはauとツーカーの合計
(増減)は前年同期比
区分 売上高 営業利益 売上高営業利益率
NTTドコモ
(増減)
23,834億円
(0.4%)
5,169億円
(-7.4%)
21.7%
(-1.8ポイント)
KDDI
(増減)
12,834億円
(5.7%)
2,428億円
(23.9%)
18.9%
(2.7ポイント)
ソフトバンクモバイル
(増減)
5,845億円
(−)
566億円
(−)
10.2%
(−)

 一方NTTドコモは、AURPの減少が前年同期比3%だったの対し、契約数の伸び率が4%で、売上高の伸び率は僅か0.4%とにとどまった。しかし、営業費用が2.8%増加したため、営業利益は7.4%減少して5,169億円、売上高営業利益率は1.8%ポイント減少して21.7%となった。上半期における営業費用の増加、514億円の8割(408億円)を占めたのが端末機器原価の増加だった。上半期における携帯電話総販売数1,182万に占める高機能のFOMAの比率が88%に高まった(前年同期は63%)ことを理由としてあげている。今上半期におけるNTTドコモの端末機器原価は、前年同期比8.0%増の5522億円だったが、一方端末機器販売収入は競争の激化で6.0%減の2,091億円、端末機器の赤字は541億円増加して3,431億円に拡大した。

 これに対してKDDIは、ラインアップの充実、機能追加、WINの端末販売比率の上昇をを図る(2006年度70%程度を見込む)中で、KDDI共通プラットフォーム(KCP)によるコスト低減が奏功し、au全体の平均端末調達単価は前年度を5%程度下回る見込だという。さらに同社は、2007年中に新統合プラットフォームを構築し、ソフトウエアの高度化・複雑化が進む携帯端末の開発で、一層のコスト競争力の強化を目指している。(KDDIの2007年3月期上期決算説明資料)

 多額の「端末補助金」を負担し端末の購入価格を下げ、加入しやくすることで市場拡大を目指すやり方は日本のキャリアに共通だが、これはもともと持続可能なビジネス・モデルではない。この赤字は結局利用者の料金に転嫁される。FCCが2005年第4四半期の各国の携帯電話料金を調査した資料(注)によれば、日本の音声通話1分当り料金は27セントで、先進国ではドイツ(28セント)と並んで最も高い部類に入る。米国(着信課金)7セント、フランス17セント、イタリア、英国21セントなど音声料金は概して安い。

(注)Commercial Mobile Radio Services(CMRS)Competition Report(FCC / 9.26 2006)

 NTTとKDDIの今期中間決算の明暗を分けたのはそれぞれの移動通信事業、とりわけ高機能化が進む携帯電話端末のコスト上昇を抑制できたかどうかだった。「日本では、キャリアのメーカーに対する技術的要求は非常に高いが、その代りにコストには甘い。とにかく言われた通りに作れば、キャリアは端末を買ってくれるので、日本の端末メーカーはコスト意識が薄くなってしまった。」(米クアルコム社上級副社長からソフトバンクモバイル副社長になった松本徹三氏、「ソフトバンク次の秘策」エコノミスト 2006.12.12)といった意見があることも認識して欲しい。

■地域通信事業の収益改善が急務

 NTTの今期中間期決算で、グループ営業利益を510億円減少させた固定通信事業の問題点は、東西NTTの地域通信事業に絞られる。今年度上半期に地域通信事業の売上高は前年同期比4.0%減少した。この減収傾向はここ数年続いており想定の範囲だが、費用の削減が3.0%にとどまったため減益となった。売上高営業利益率は2.6%という低さで、これでは持続可能なビジネスとはとても言えない。

表3:固定通信大手3社の2006年度中間期決算

(注)NTTはNTT東日本、NTT西日本およびNTTコミュニケーションズの単純合計。ソフトバンクは固定通信事業およびブロードバンドインフラ事業の単純合計
(増減)は前年同期比
区分 売上高 営業利益 売上高営業利益率
NTT
(増減)
25,203億円
(-3.2%)
827億円
(-22.9%)
3.3%
(-0.8ポイント)
KDDI
(増減)
3,624億円
(26.6%)
-168億円
(−)
-4.6%
(5.7ポイント)
ソフトバンク
(増減)
3,110億円
(4.5%)
119億円
(−)
3.8%
(19.1ポイント)

表4:NTT地域通信事業の2006年度中間期決算

(注)(増減)は前年同期比
区分 売上高 営業利益 売上高営業利益率
NTT東日本
(増減)
10,131億円
(-3.5%)
380億円
(-19.3%)
3.8%
(-0.7ポイント)
NTT西日本
(増減)
9,598億円
(-4.5%)
129億円
(-50.5%)
1.3%
(-1.3ポイント)

 東西NTTの費用削減がうまくいかない理由の一つは、光ファイバー・アクセス・サービスの収支ギャップが大きいからだ。今中間期決算の説明会で、NTTは2005年度における光ファイバー1芯当たり原価は月額11,000円弱だったことを明らかにした。これに対して現行の料金は5,074円である。料金は7年間で費用を回収することを前提に算定されているが、あと1年半の残余期間で全費用を回収するのは困難だという。

 NTTの光ファイバー・アクセス・サービスの利用者は2006年9月末で472万と、既にマスの規模であり、今後の普及促進によって急激にコストが下がることは期待できない。既存のADSL、衛星通信やケーブル・テレビに加え、WiMAXなどの参入によって、ブロードバンド市場の競争も激しくなるだろう。総務省を中心に光ファイバー・アクセス料金の値下げを模索する動きもある。赤字だからという理由で総務省は簡単に値上げを認めないだろう。

 市場の成熟化と競争の激化によって、移動通信事業の高収益に依存する現行の仕組みが今後も維持できる保証がないことが、今中間期決算で明らかになったのではないか。移動通信事業は今後、更に競争が激化する可能性がある。そのためにも地域通信事業の収益改善が急務ではないか。

特別研究員 本間 雅雄
編集室宛>nl@icr.co.jp
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