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2007年5月掲載

FCC、700MHz帯をブロードバンドの第3のパイプとして期待

 米国連邦通信委員会(FCC)は去る4月25日に、2009年2月に終了する700MHz帯のアナログ・テレビの周波数を、商用サービスを含む無線サービスに利用するためのオークション規則案を公表した。オークションは2008年早期に行われるとみられているが、FCCのマーチン委員長はこのオークションを通じて、ブロードバンドの第3の「パイプ」が実現してプラットフォーム間の競争が促進され、普及率の向上と料金の低下が進むことへの期待を表明した。このため、ハイテク企業の連合体の意見提起を少なからず取り入れている。このオークションに参加が見込まれている企業では、検索サービスの最大手のグーグルに関心が集まっている。同社が前向きなだけでなく、その株価総額は1,435億ドル(5月10日現在17.2兆円、NTTは9.5兆円)と、同社には第3のパイプ構築の負担にも十分耐えられる財務的基盤があるからだ。我が国でも2011年にはアナログ・テレビの放送終了が予定されているが、不要となる周波数をどう活用するのかについて、周波数が有限な国民の共有資産であるという観点から、もっと議論を深めるべきではないか。

■FCC、700MHz帯周波数の利用計画を承認

 米国連邦通信委員会(FCC)は,去る4月25日、通常700MHz帯と称されている698〜806MHz周波数バンドの無線免許を管理する規則(周波数の競売計画)制定に取り組む報告および命令、規則案に対する意見の招致を採択した。これらの周波数は、デジタル・テレビジョンへ移行する間は放送事業者によって占有されているが、2009年2月17日にデジタル・テレビジョンへの移行が完了すれば、安全確保のための無線や商用サービスを含む無線サービスのために、完全に利用可能になる。

 FCCのニュース・リリース(注1)によれば、FCCは700MHz帯周波数利用に関連する規則案を検討してきたが、次の3つの手続きを進行させる予定だ。第1は700MHz帯商業サービス、第2は700MHz帯ガード・バンド、第3は700MHz帯パブリック・セーフティ(公衆の安全)についてである。これらの決定および提案は、FCCに700MHz帯のオークションにおいて多様な免許を提供することを認め、全米の消費者に新しいイノベーティブなサービスの提供を促進するとしている。また、公衆の安全確保に携わるコミュニティに全米規模で相互運用が可能な無線ブロードバンド・サービスへの道筋を明らかにしている、と述べている。

(注1)FCC addresses rules governing commercial wireless and public safety licenses in the 700 MHz spectrum band(FCC news / April 25,2007)

 また、商業サービスの部分に関する今回の「命令」で、FCCは周波数の免許付与について地理的エリアの規模の混在を認めるなど、いくつかのアクションを講じたと説明している。具体的には、Cellular Market Areas(CMAs)、Economic Areas(EAs)、およびRegional Economic Area Groupings(REAGs)で、いくつかのハイテク大企業による広域周波数免許のオークションの要請にFCCが応えたのだという。また、この周波数帯は、通常セルラーに使われている高い周波数よりも4倍も広い面積をカバーでき、多様な無線ブロードバンド・サービスに対応できるため、ハイテク企業や通信会社などが700MHz帯の周波数オークションに注目している。2008年早期に行われるとみられている60MHz(700MHz帯の高い方の周波数)のオークションでは、少なくとも100億ドルの国庫収入をもたらすとみられている(注2)

(注2)FCC approves plan for auctioning 700MHz spectrum(Washingtonpost.com / April 27,2007)

■FCCのマーチン委員長の注目すべき「声明」

 FCCのマーチン委員長は、700MHz帯周波数利用計画案の採択にあたって、次のような「声明」を出している。米国におけるブロードバンドの成長率は2006年に倍増(前年比)し、普及率は40%まで高まり、料金も下がった。しかし、やるべきことはまだ多くあり、その一つはブロードバンド・プラットフォーム間の競争によって普及率の向上と料金の低下に拍車をかけることだ。米国の多くの地域では、消費者はブロードバンドに2つの選択(ケーブルもしくはDSL)しか持っていない。その選択さえ持たない地域もある。アメリカ人であれば誰でも利用できる(affordable)ブロードバンドを提供するために、我々がとりうる最も重要なステップは、家庭に第3の「パイプ」を展開することを促進することである。我々は真の第3の競争者を必要としている。そして我々は、大都市ではなく、地方においてブロードバンドを展開するためのコスト効果の高い技術も必要としている。すべてのアメリカ人は、どこでも、高速度で低価格のサービスを利用できるというブロードバンド競争の利点を享受すべきである。今回提起している周波数オークションは、この目標を達成すための唯一の機会を我々に提供するものだ、と書いている(注3)

(注3)Statement of chairman Kevin J.Martin(FCC news / April 25、2007)

 マーチン委員長の「声明」には次のような言及もある。「全米規模の無線ブロードバンドの提供にトライすることを公約したのは、ハイテクのリーディング企業であるグーグル、インテル、スカイプおよびヤフーと衛星放送のディレクTVとエコスターの連合体(注4)だけだった。彼らは全米規模の無線ブロードバンド・サービスの実現にあたって、周波数のオークションには (1)少なくとも11MHzのペアードの周波数ブロック (2)少なくともいくつかの地理的大エリアでのサービス提供 (3)全米サービスを提供できるようにするためのパッケージ入札 の3点が必要であると説明していた。これらのハイテク企業は連合を形成し、第3の競争者がブロードバンドを展開するには、彼らが信じるこれらの基本原則に従うことが不可欠である、とFCCを強く説得していた。私は、これらの3つの要件に合致する提案を提出した。」

(注4)Coalition for4G

 FCCのニュース・リリースおよびマーチン委員長の「声明」を読むと、従来アナログ・テレビに使っていた周波数の大部分を、オークション制度を見直してブロードバンドの第3の「パイプ」を実現し、それによる競争の促進によって、誰でも利用できる料金でブロードバンド・サービスを実現しようとしている意慾が読み取れる。そのなかで特に注目すべき新提案は、地理的免許地域における様々な規模の周波数ブロックの混在を容認したことである。同じ地域における免許規模の混在とネットワーク構築の要件(これまでで最も厳しい)とが相まって、地方および普及が遅れた地域においても、この周波数のオークションが促進する新サービスの提供から利益を得られるだろうという。さらに、FCCは地方では電波出力の制限を緩めることを認めるだろう、そうなれば消費者にサービスを提供するために必要な電波塔の数を減らすことができ、コストの引き下げが可能になる、とマーチン委員長はその「声明」で言及している。

■第3の「パイプ」に進出を目指すグーグル

 グーグルは3ヶ月前に、長距離通信会社MCIで規制担当部門の責任者を務めたウィット氏を雇い、ワシントンのオフイスの通信およびメディア部門の顧問として迎え入れている。彼の主な仕事は、無線産業が直面している最大の課題のいくつかに関して、FCCに対しロビー活動を行うことである。グーグルの取り組むべき課題は明瞭である。サーチ、eメールおよびユーチューブを経由するオンライン・ビデオを含む多くのインターネット・サービスのプロバイダーとして、グーグルはそのコンテントが妨害なしに、かつ課税されることなく世界中のブロードバンド・ネットワークに流れることを確実にすることである。

 このことを実現する一つの方法は、高速インターネット接続の市場において、AT&T(通信)およびコムキャスト(ケーブル)のような巨人以外で、多くの競争が行われることを確実にすることである。ここでのグーグルの基本的な関心は、ケーブルおよび通信会社と競争するため、第4および第5のブロードバンド接続パイプを視野に入れることである。グーグルは、米国の無線サービス、ホーム・ブロードバンドおよびテレビ会社は、どんなコンテントおよびサービスを加入者に利用できるようにするかの決定において、影響力を発揮し過ぎており、今回の700MHz帯周波数のオークションは競争促進の鍵を握っている、と信じているという(注5)

(注5)Google goes wireless(BusinessWeek online / May 3,2007)

 グーグルは無線サービスについて、これまでいくつかの経験を積んでいる。インターネット・プロバイダーのアースリンクと提携して、サン・フランシスコで無線LANによる市民向けの無線ブロードバンド・ネットワークを無料で提供している。現在は、そのモバイル・サーチ・アプリケーションをさらに拡大して提供することに取り組んでいる。さらに、グーグルは自社の無線端末の開発を進めていると報じられている。去る3月にグーグルが「Coalition of4G」に加わった理由がこれらのことから説明できると、前掲のBusinessWeekは書いている。

 「Coalition of4G」は、700MHz帯周波数のオークションに関していくつかの意見をFCCに提起している。その一つは、パッケージされた入札を含めることで、入札者が免許を市場ごとに取得して全国免許とするのではなく、一括して全国免許を入札し取得できるようにするというものだ。FCCは6月にオークションに関する規則を制定する予定だが、FCCのマーチン委員長の「声明」でも明らかなように、規則制定提案では「Coalition」の提案が広く取り入れられている。FCCが最終的に「Coalition」の政策変更提案を含む規則を承認すれば、「Coalition」のメンバーを含む多数の企業が、新たな無線ブロードバンドの競争に参加するだろうという。

 グーグルも、単独もしくはWi-Fiのパートナーであるアースリンクと、場合によっては他の「Coalition」のパートナーと組んで700MHz帯周波数のオークションに参加するだろうという。(前掲BusinessWeek online / May 3,2007)グーグルにはコンテントとアプリケーションはあるがネットワークがない。グーグルの最大の弱点は、彼らが消費者に直接タッチできないことにあるという。しかし、グーグルはオークション規則が固まるまで、700MHz帯周波数にどの程度関与するか、明確な意思決定は行わないとみられている。

 衛星放送のディレクTVやエコスターも700MHz帯周波数のオークションに参加するとみられているが、両社は昨年行われた「オークション66」で、全国網を形成するのに十分な免許を集めることができないという理由から、突如としてオークションから撤退して話題になった。FCCはオークションの新規則に、このような問題が起こらないようなセーフガードを盛り込むものとみられている。

 「Coalition for 4G」のメンバーであるスカイプ(インターネット・オークション最大手eベィの傘下)も、同じメンバーのヤフーと提携して、自前の無線ネットワーク展開するためにオークションに参加するとみられている。また、WiMaxを展開するクリアワイヤ(インテルが出資している)も、ネットワークの拡大のため、最終的にはオークションに加わるだろうという。

 FCCのマーチン委員長のいう第3の「パイプ」に参入する「Coalition」のメンバーは、既に長い間事業を行っている電話会社やケーブル会社の縄張りで戦争を始めるようなもので、苦戦は避けられないだろうとみられている。昨年の「オークション66」以降、AT&Tやベライゾンのような既存の電話会社では、周波数は余っている。それでも、大手の通信会社は700MHz帯の周波数に関心を示しているのは、彼らにとって周波数が必要かどうかは問題ではなく、価値ある資産を取得したいということなのだという。(前掲BusinessWeek online / May 3,2007)

 前掲のBusinessWeek onlineによると、グーグルにとって第3の「パイプ」への参入は明らかに価値のあるリスクだという。グーグルは無線の規制に関心を持っており、700MHz帯のオークションに向けてその関心はさらに強まるだろう。また、グーグルは、既存の周波数保有者がそれを再販し易くすること、周波数のオーバーレィを創設すること、および何社かのプロバイダーが同じ電波を共同で利用できるようにすることをFCCに働きかけたいとしている。ワイヤレスにはもっと大きな機会があることを皆がいずれ理解するだろうが、グーグルはそのためのガイドの役割を果しているのだという。

特別研究員 本間 雅雄
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