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2008年11月掲載

進む端末販売収支の改善―携帯電話事業大手3社の上半期決算―

 NTT、KDDI及びソフトバンクの通信大手3社の08年度第上半期(4〜9月)の決算が出揃った。景気後退が取り沙汰される中で、携帯電話事業の決算はNTTドコモが減収大幅増益、KDDIが増収増益、ソフトバンクが減収減益と、一見バラバラに見える内容だった。しかし、08年度上半期決算の最大のポイントは、懸案だった携帯電話端末の販売収支の改善が大きく前進したことにある。NTTとKDDIでは、連結営業利益に占める携帯電話事業のウエイトが年々高まり、モバイル事業依存が鮮明になりつつある一方で、固定通信事業の収益性回復に苦慮している。ソフトバンクはモバイル事業の利益率を抑えて、顧客ベースの拡大に注力している。以下に、通信大手3社の携帯電話事業の上半期決算を分析する。

■減収ドコモの大幅増益と独り勝ちソフトバンクの低利益率

(表1)大手3社の移動通信事業の業績比較(08年上半期(末))

 移動通信事業大手3社の2008年度上半期決算の概要を示したのが(表1)である。期末の顧客数シェアを1.8ポイント減らし減収だったNTTドコモが、営業利益を前年同期に対し41.2%も伸ばし、売上高営業利益率も7.9ポイント改善し25.5%となった。これに対して、当期の顧客純増数の50%を獲得して独り勝ちし、期末顧客数シェアを0.9ポイントも高めたソフトバンクは、6.4%の減益となり売上高営業利益率も先行2社の半分程度の11.4%と低いレベルにとどまっている。KDDIは、当期の販売が振るわず契約数の純増が11万(シェア5.3%)と低迷したが、営業利益を5.3%増の2,879億円とし、売上高営業利益率を1.4ポイント改善し21.2%とした。

 ソフトバンクはサービス改善のために急ピッチで基地局の増設を進めただけでなく、ソフトバンク相互なら1時〜21時まで通話料が無料になる「ホワイトプラン」を売り物に顧客獲得に努め、当面の利益確保よりは顧客ベースを増加させる戦略をとっている。そのことは、ソフトバンクのARPU(1加入1か月平均利用料金)が、NTTドコモやKDDIに対して3割近くも低いことからも分かる。NTTドコモやKDDIは、無料通話を原則として自社網内の家族間通話に限っている。だから、ソフトバンクの低利益率は、現時点では想定内ということだろう。

 注目すべきは、顧客数シェアを減らし減収だったNTTドコモが、41.2%もの営業増益を達成したことである。結論からいえば、「バリュープラン」などの導入による通信料の実質値下げによって移動通信サービスの収支は悪化したが、従来大幅赤字だった携帯電話端末の販売収支がそれを上回って改善された。以下に説明するように、端末販売価格の引き上げ、および端末販売数の減少(前年同期に対し19.8%減)による「販売奨励金」の削減などによって、当期の端末販売収支の改善は、総額で2,859億円もの規模に達し、大幅増益が実現した。

■NTTドコモ、端末販売収支を半期で3,450億円改善

 NTTドコモの2008年度上半期(4〜9月)の売上高は、前年同期比2.5%減の2兆2,678億円にとどまったが、営業費用が11.8%減少して16,908億円となったため、営業利益は41.2%増の5,769億円となった。減収傾向が続く中で大幅増益を実現できたのは、それを上回る営業費用の削減による。

 08年度上半期の同社の決算で注目すべきは、携帯電話端末の販売に関する収支が大きく様変わりしたことだ。原価相当の端末機器を割賦で支払う「バリュープラン」の浸透などによって端末1台当たりの平均販売価格が前年同期比約2倍の3.1万円に増加した。このため、端末の総販売台数が前年同期比19.8%減の1,027万台にとどまり不振だったにもかかわらず、「端末機器販売」収入は63.9%増の3,192億円(前年同期の「端末機器販売」額に対し1,244億円の増収)となった。

 一方、「端末機器原価」は、端末の総販売台数の減少および端末1台当たり平均購入価が10.7%下がって4.0万円となったことにより、前年同期比28.8%減少して4,080億円(前年同期の端末機器原価に対し1,615億円の減少)となった。

 この結果、端末機器販売の直接収支(「端末販売」額−「端末機器原価」)は2,859億円の大幅改善となった。(表2)

(表2)端末機器販売直接収支の改善状況(単位億円)

 次に注目すべきは「販売および一般管理費」である。08年度上半期に計上した額は前年同期比12.8%減の5,207億円だった。その減少額798億円の大部分は、端末販売数の減少にともなう販売代理店手数料の減少によるものと考えられる。NTTドコモの08年度上半期決算説明会資料によると、当期の販売代理店手数料の減少額は681億円である。

 08年度上半期における端末機器販売の収支改善額は、前年同期に対し合計3,540億円にのぼる。これを販売数の減少にともなう分と販売価格の引き上げなどの要因に分けて(表3)に示す。当期の端末収支改善額のうち、販売数の減少による分が40%、「バリュープラン」の導入などによる端末販売価格の引き上げによる分が46%、端末機器の仕入れ価格が下がったことによる分が14%だった。

(表3)08年度上半期端末機器販売収支改善の要因別内訳(前年同期比、単位億円)

 一方、NTTドコモの08年度上半期の無線通信サービス収入は、前年同期比8.4%減の1兆9,485億円(1,818億円の減収)だった。携帯電話の契約数が1.9%増加したが、ARPU(1加入当たり平均月間収入)は10.5%減少して5,860円となった。パケットARPUが9.0%増加して2,410円となったものの、「ファミ割MAX50」や「バリュープラン」などの導入によって音声ARPUが20.0%減少して3,450円となり、吸収し切れなかった。端末機器販売の収支改善額3,540億円から、この無線通信サービスの減収額1,818億円を差し引いたおよそ1,700億円がNTTドコモの営業利益を押し上げた。この結果ドコモの営業利益は41.2%増加して5,769億円となり、売上高営業利益率は前年同期比7.9ポイント向上して25.5%となった。

 NTTドコモの「大幅増益」は、端末販売に関する料金プランの変更(改善)と端末販売数の減少にともなうもので、通信サービス収入の減少に歯止めが掛からない状況が続いていることに変化はない。とくに、端末販売数の減少が端末収支の改善にかなりの寄与(当期は40%)をしていることにも留意すべきだ。しかし、顧客ベースの増加率低下は、いずれ企業の成長力を殺ぐことになりかねない。

 もちろん、原価相当の端末機器代金を割賦などで支払う「バリューコース」の選択率が、08年度上半期に9割以上と高率だったこと、「ファミ割」などの2年単位の継続利用を条件とするサービス数が順調に増加していること、解約率が下がりこの08年上半期は0.51%を維持していることなどは、NTTドコモの努力として評価されてよい。

 08年度上半期における端末の総販売数が前年同期比19.8%減少したこと、無線通信サービス収入が値下げなどによって8.4%減少したことなどは、景気の減速による影響というよりは、販売プランの変更や競争の激化によるところが大きい。それだけに、端末収支の改善による増益分は、顧客満足度を高め、競争力をさらに強化するための施策(料金値下げなど)に活用すべきだ。

 NTTグループの連結決算によると、08年度上半期のNTTグループの売上高に占めるNTTドコモの売上高の割合は43.9%であるが、連結営業利益に占めるドコモの営業利益の比率は77.4%まで高まっている。東西NTT地域会社の不振(当期の売上高営業利益率は僅か1.5%)が原因だが、これも景気の減速による影響というよりは、構造的な問題によるものだ。ドコモ頼みの収益構造からの脱却がNTTの当面の課題だろう。

■端末販売収支の改善で減収増益決算のKDDI

 KDDIの移動通信事業の08年度上半期における売上高は、前年同期比1.5%減の1兆3,607億円だった。一方、営業費用の減少率(−3.2%)が売上高の減少率を上回って、営業利益は5.3%増の2,879億円となり、減収増益となった。固定通信を含む営業利益の通期見通しに対する進捗率は59.3%で、同社は「順調に推移」しているとの認識を示している。

 当期の移動通信事業の売上高は、契約数が前年同期比4.2%増加したが、新料金プランの導入などによって音声ARPUが12.6%下がって3,730円となり、データARPUが3.8%増加して2,210円となったものの、総合ARPUは7.2%減少して5,940円となったため、同社の移動通信事業は1.5%の減収となった。

 一方、営業費用は前年同期比3.2%減の1兆727億円となった。同社の説明資料によると、4〜6月期には4.5万円だった代理店に対する平均販売手数料単価が7〜9月期には3.8万円に下がった(注1)こと、端末の総販売数が前年同期の761万から当期の556万へと205万(−26.9%)も減少したことが寄与したのではないかと考えられる。

(注1)NTTドコモの08年度上半期の決算説明資料によると、当期の販売代理店手数料は前年同期比681億円の減少、販売数の減少は253万台であるから、同社の平均代理店手数料単価は2.7万円と推定できる。また、ソフトバンクの決算短信によると同社の08年度7〜9月期における販売手数料単価は3.55万円である。

 KDDIは、ツーカーの純減や春商戦の不振から、08年度4〜6月期には契約数が3万の純減となった。そこで同社は販売手数料を4.5万円に引き上げて(2007年度通期の販売手数料は3.7万だった)販売の梃入れをはかろうとしたのだろう。08年7〜9月期には、KDDIの携帯電話純増数は15万の純増に転じたが、Eモバイルの21万を下回る最下位に低迷している。KDDIにとって今後も厳しい状況が続くことが予想される。

 NTTドコモが端末販売の収支を劇的に改善したことについては、(表2)(表3)で説明した。07年度上半期には、原価4.4万円で購入した端末を1.5万円で顧客に販売し、1台当たり3.1万円の赤字(端末補助金)をだしていた。これが08年度上半期では、原価4.0万円で購入した端末を3.1万円で顧客に販売し、1台当たりの赤字を9,000円に抑えることができた。差し引き端末1台あたり2.2万円の端末補助金が削減された。(この他に平均2.7万円の販売代理店手数料を支払っている〉しかし、KDDIの決算資料からは、同様な分析が困難である。

 08年度上半期におけるKDDIの「付帯営業損益」のほとんどは移動端末の販売にかかる収益と費用を扱っていると思われる。当期の「付帯営業収益」3,693億円に対して「付帯営業費用」は5,277億円だった。ここから推定できることは、端末機器原価1万円に対して、3,000円の端末補助金をKDDIが負担しているということだ。(NTTドコモの例では端末機器原価1万円当し2,200円)。KDDIにおいても端末収支の改善が進んでいることがうかがえ、営業費用の削減に寄与している。

 KDDIは、端末価格のうち2.1万円を限度に補助するフルサポート・コース、端末補助はないが2年間の利用契約をすれば月額料金が安くならシンプル・コースを用意し、顧客が自分の利用実態に合わせて、いずれかのプランを選択できるようにしている。同社が7月〜9月に行なった調査によれば、購入サポートのないシンプル・コースを選択する顧客が55% で、その91%が端末料金を分割払いにしているという。シンプル・コースを選択する顧客が増加すれば、端末販売収支は改善される。KDDIは6月10日から端末の割賦販売も開始している。

 赤字を続けているKDDIの固定通信事業は、セグメント範囲の見直し、ケーブルテレビ事業のJCNや地域(東海)通信事業のCTCの連結子会社化の影響もあって、08年度上半期の売上高は前年同期比19.3%増の4,231億円となったが、営業損失も43億円増加して252億円となった。注目の光アクセス回線はCTCの子会社化によって増加して97万に、重複を除いた固定系アクセス回線の合計も518万となった。

 KDDIの移動通信事業の売上高は連結売上高の78.2%を占める。また、移動通信事業の営業利益は連結営業利益の109.5%である。つまり、固定通信事業の赤字を補填したうえで15.0%の売上高営業利益率(移動通信事業だけでは21.2%)をあげている。移動通信事業の競争力を維持するためにも、固定通信事業の赤字脱却が課題であろう。

■独り勝ちのソフトバンクが減収減益

 ソフトバンクの移動通信事業(連結売上高の62.5%を占めている)の08年上半期の売上高は前年同期比5.0%減の7,740億円、営業利益も6.4%減の882億円(連結営業利益の49.0%)だった。同社は9月まで契約数純増数連続17カ月トップを続けており、加入数を15.1%も伸ばした。データARPUを16.3%も伸ばして1,710円としたものの、音声ARPUが26.3%も減少して2,460円となり、総合ARPUは13.1%減少して4,170円となったため、5.0%の減収となった。また、端末機器の割賦販売の浸透によって、買替え(機種変更)が減少したため、付帯事業収入でも減収になったことなどが主な要因とみられる。

 営業利益は、前年同期に対し6.4%減少して882億円となった。端末機器調達費用と販売費用などが減少したものの、売上高の減少を埋めきれなかった。

 同社の説明によると、携帯端末は「音声マシン」から「インターネット・マシン」に進化する過程にあり、「インターネット・マシン」では外部から各種のアプリケーションを取り込み、旧いソフトを書き換えて利用できるようになるから、従来の「音声マシン」のように新サービスを利用するために数ヶ月ごとに買い替えるようなこともなくなるだろうという。端末の使用期間は長くなり、買い替え需要の減少が見込まれる。一方、高速データ通信に対する需要が強まり、優れたアプリケーションやコンテンツへの要望が高まる。

 08年度上半期における通信大手3社の携帯電話事業の決算は、端末販売収支の改善が本格的に動き出したことを示している。一方、ソフトバンクが「iフォーン3G」でアップルに支払っている「端末補助金」は1端末当たり300〜400ドルとみられており、販売数が伸びれば負担になりかねない。これ程の「端末補助金」を支払っても採算の取れるビジネス・モデルを、ソフトバンクは見つけることができるのだろうか。不調がささやかれるiPhone 3Gについて、同社は販売数を公表しなかったが「販売台数は予定のペース。ARPUは一般の2倍近い。iPhoneはわれわれにとってもうかる端末だ。」(孫社長)と語った(注1)

(注2)経営不安説は「勘違い」、ソフトバンクは最高益を更新(techon.nikkeibp.co.jp / 2008.10.23)

 ソフトバンクの08年度決算説明会は、当初予定から1週間前倒しで開かれ、「当社の経営を不安視する声に応えた。」(孫社長)のだという。ボーダフォン買収にともなって借入金依存度が高い(08年9月末の有利子負債約2兆5,000億円)同社が、金融危機の中で不安視され、株価も3か月前の半分以下と低迷している。こうした市場の不安を一掃するため、「創業以来最高の利益水準」である上半期の業績を示した上で、「勘違い」「フリーキャッシュフローが大きく改善。今後も強含み。」を強くアッピールした。

 ソフトバンクの08年度上半期決算は、ブロードバンド・インフラ事業、インターネット・カルチャー事業(主としてヤフー)、固定通信事業などが好調で、移動体通信事業の減収減益をリカバーして過去最高の連結営業利益1,800億円(前年同期比7.8%増)を計上している。他社に先駆けて端末の割賦販売を開始した移動体通信事業では、2年が経過して割賦販売期間が終了する顧客が出てくるが、これらの顧客には「通話料の特別割引(1,000〜2,000円ほど)をせずに済む。これは来期の収益性を大きく高める。」(孫社長:前掲techno.nikkeibpの記事)と期待している。端末の買い替えサイクルも最近では30数か月に延びているし、2年経過したからという理由だけで「ただとも」から抜けにくいという事情もある。今は利益率を抑えて、ひたすら顧客ベースの拡大に注力し、将来に備えるのがソフトバンク流なのだろう。

特別研究員 本間 雅雄
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