ホーム > Global Perspective 2011 >
Global Perspective 2011
2011年10月25日掲載

ケニア:深刻な食糧問題、急速に普及するスマートフォン、台頭する中国企業、カードサービス〜貧富の格差を考える

グローバル研究グループ 佐藤 仁
[tweet]

 今回は、ケニアの様々な問題について考察してみたい。

深刻な食糧問題

 現在、ケニアを含めたアフリカ東部「アフリカの角」地域は1950年以来の最悪の干ばつに見舞われ、深刻な食糧不足に陥っている。

 飢餓克服に向けて、ケニア赤十字社、ケニア商業銀行(KCB)、通信事業者Safaricomなどが中心となって発足した「Kenyans for Kenya」というキャンペーンを展開し、ケニア国民に対してモバイル送金「M-PESA」などを通じて募金を促している。

【参考動画:Kenyans for Kenya(2011年)】
ケニアの食糧不足の深刻さがわかる。

急速に普及するスマートフォン

 そのような食糧不足に苦しむケニアだが、Huaweiのスマートフォン「IDEOS」が80ドルで販売されており、1日 2ドル未満で生活する人が人口の40%以上を占めるケニアにおいて既に 35万台以上も売れていると報じられている。 2011年Q1には、10万台販売され、ケニアのスマートフォンシェアの45%に達しているという報道もある。

 「IDEOS」はAndroid2.2を搭載したスマートフォンである。80ドルだが機能面、デザイン面でも見劣りはしない。しかし、1日2ドル未満で生活する人々が人口の40%以上いるケニアでは、80ドルの「IDEOS」は決して「廉価版スマートフォン」とはいえないだろう。「IDEOS」は今後、アフリカ以外の新興国でのスマートフォン普及の起爆剤になる可能性を秘めている。

 多くの人々が飢餓に苦しんでいる状況の中でも、80ドルのスマートフォンが既に35万台を販売され、同国のスマートフォンシェアの45%を占めるまでになっているのだ。貧富の格差を感じざるを得ない。

【参考動画:IDEOSのテレビ広告(2011年)】

台頭する中国企業〜Huaweiの取組み

 2011年8月18日、中国の通信機器メーカー華為技術(以下:Huawei)が、干ばつ被害が深刻なケニアへの食糧支援を目的として、940万ケニア・シリング(約770万円)をケニア赤十字に寄付することを発表した。Huaweiをはじめとする中国企業はアフリカに多数進出しており、アフリカには100万人以上の中国人が在住しているといわれている。Huaweiの今回の寄付によって、同社のアフリカでのプレゼンスは更に向上するだろう。

 HuaweiケニアCEOのHerman He氏は以下のように述べており、グローバル企業としてのCSRをアピールしている。

"Our donation today shows Huawei’s commitment as a member UN’s Global Compact to fulfill our responsibility as a global corporate citizen with local presence, by enabling a higher standard of living for those in our society."

【参考動画:HuaweiのケニアでのCSR活動(2011年)】
HuaweiのTシャツを着てマラソンをするケニア人、中国人が印象的。

【参考動画:Huaweiのケニアでの企業広告】

通信事業者、銀行、カード会社の連携による新たなカードサービス〜モバイル送金からの脱却

2011年2月8日、Safaricom、I&M銀行、VISAカードが提携して「M-PESA PREPAY SAFARI CARD」のサービスを開始している。こちらは、プラスチックカードを発行して、リアル店舗での買い物や、国内外のATMでの現金引出しも可能だ。

 2011年9月14日には、Airtel Africa、Standard Chartered銀行、マスターカードが提携して携帯電話を活用した、世界初の「バーチャル・カード"PayOnline"」のサービス開始を発表した。Aitel Africaが提供している送金サービスの「Airtel money」利用者であれば、クレジットカードやデビッドカードを持たなくても、マスターカードが利用できるインターネットショッッピングでの支払いが可能になる。Aitrtel moneyのモバイル・ウォレットで16桁のカード番号が払い出され、この番号で決済する。1回の利用限度額には制限があるが、便利なサービスだ。新たな試みであり、今後ケニアから他諸国での展開も検討しているとのこと。

 リアルなプラスチックカードを提供しているSafaricomに対抗して、Airtelでは携帯電話だけでインターネットショッピングができるサービスを開始した。ケニアのインターネット普及率は、ITUの調査によると、8.6%で、世界150位である。インターネットで買い物をできる人は富裕層の一部に限られている。インターネットでの買い物よりも日々の生活、飢餓に苦しむ人々が多い。

 リアルにせよバーチャルにせよ、モバイル送金が盛んなアフリカ諸国において通信事業者が銀行やカード会社と提携してクレジットサービスを提供するのは、経済活性化においては良いことだろう。さらに、通信事業者としてはアフリカでインフラとなっているモバイル送金から脱却し、富裕層の取り込みも行う必要があるだろう。

 しかし、一方で多くの自国民のBasic Human Needsも満たされていない状態にあることを忘れてはいけない。

【参考動画:M-PESA Mobile Money(カードでなく一般的なモバイル送金の紹介)】

ケニア携帯電話事情

ケニアの携帯電話事情について簡単に明記する。
携帯電話加入者約2,336万人。加入率約60%。モバイル送金「M-Pesa」で有名だが、まだまだ携帯電話市場としては成長の余地がある。
3G加入者は525万。3G普及率は、22%
ケニアには以下の4社がある。(2011年6月現在)

1.Safaricom
・シェア約74.3%
・Vodafoneグループ

2.Airtel Kenya
・シェア約15.6%
・インドAirtelグループがZainを買収。

3.Yu Mobile (Essar Telecom Kenya)
・シェア約6.4%
・インドEssarグループ

4.Telkom Kenya (Orange Kenya)
・シェア約3.7%
・フランスOrangeグループ

まとめ

 まだ、3G普及率が22%であるケニアにおいて、スマートフォンの機能を完全に活かしきれているとはいえないだろうが、今後「IDEOS」以外にも多くのスマートフォンが普及することによって、3G網も発展していくことを期待したい。

 一方で、1日2ドル未満で生活している人々もいずれ携帯電話を持ち、モバイル送金を行うようになる時が来る。

 そのときに向けての市場での携帯電話メーカーとしてのプレゼンスの向上は重要なことである。
中国企業Huaweiはグローバル企業として今後もアフリカでのプレゼンスを向上していくことだろう。日本企業、政府、個人でもアフリカにもっと注目すべきではないだろうか。
ケニアをはじめとする東アフリカ諸国での深刻な食糧危機問題に関しては、日本人ももっと関心を持つべきだろう。貧富の格差は、アフリカ全土に言えることだ。

 短い本稿からだけでも以下の4点の側面が垣間見られる。
「アフリカでの深刻な食糧不足」
「アフリカでのスマートフォンの急速な拡大」
「アフリカにおける中国企業のプレゼンス」
「アフリカでの貧富の格差」

 アフリカと今後のグローバル社会の経済発展を考えるうえで重要なことが多くあることに気付かされる。グローバル化が急速に進展している現在、日本にとってもアフリカは遠くの世界の話ではなくなってきていることを考えてみるべきではないだろうか。

 80ドルのスマートフォンを購入し、バーチャル・カードでインターネットショッピングをする富裕層がいる同じ国で、餓死者が出ているのだ。そして飢饉を救うために積極的に取り組んでいるのが同社のスマートフォンが大人気の中国企業Huaweiであり、市民が募金に活用しているのが「M-PESA」に代表される携帯電話送金サービスである。

 貧富の格差がますます大きくならないためにも国際社会はアフリカに注目していく必要があるだろう。

*本情報は、2011年10月17日現在のものである。

▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。