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Global Perspective 2011
2011年10月25日掲載

世界人口70億人時代のICTが果たす役割「e-health」〜ITUの取組み

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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 2011年10月31日には世界人口が70億人を突破すると国連は予測している。今回は世界の人口問題とICTの果たす役割についてITUの取組みを紹介してみたい。

世界の人口推移

国連の統計によると世界の人口は以下のように推移してきた。

1950年:25億人
1987年:50億人
1999年:60億人
2011年:70億人(予定)
2050年:93億人(予測値)

 1987年に50億人を突破してから、12年後の1999年に10億人増加し、さらに12年後の2011年に10億人増加して、今年2011年には70億人を突破する予定である。人口問題は、決して他人事ではない。世界の水不足、資源不足、食糧問題、気候変動、環境汚染、労働市場の変化、ジェンダーの問題など多角的に考えなくてはならない。

 国連は2011年10月31日に、世界人口は70億人を突破すると予測しており、それに向けてUNFPA(国連人口基金)は、「7 billion Actions」というキャンペーンを2011年7月11日に発表した。

ITUの考える今後の70億人社会でのICTの果たす役割〜「e-health」

 ITU(国際電気通信連合)では世界の人口が70億人に突破することを目前にして人口問題を中心にしたICTを活用したITUの取組み等を紹介している。
2011年10月14日に、ICTの果たす新たな役割として「ヘルスケア(医療・健康)」分野での取組みの重要性について発表した。世界的な人口爆発が起きている中、ITUは今後のICTの果たす役割と「health」にフォーカスして、ヘルスケアニーズに対応することが一番のプライオリティであることを表明している。

 世界保健機関(WHO)は、人口が世界的に爆発していく中で、全世界で十分なレベルのメディカルケア提供は難しくなってきていると述べている。世界の人口が70億になり、特に発展途上国や地方で医療資源がないところに対してICTが果たす役割は非常に大きくなることも表明している。

ITUはすでに以下の3つの観点からICTが医療分野に貢献していることを強調している。

  1. better information collection, transmission and distribution:より良い情報の収集と提供
  2. better delivery of services:より良いサービスの提供(特に遠隔地へのサービス提供)
  3. reducing operational and administrative costs:運営管理費用の削減

 さらに、ICTがヘルスケア分野において果たしている役割について、以下の10項目を具体的な例として提示している。

[表1:ICTがヘルスケア分野で果たす主な役割(ITU発表:2011年10月14日)]
表1:ICTがヘルスケア分野で果たす主な役割(ITU発表:2011年10月14日)
(出典:ITUリリースを元に筆者作成)

 ITUはこの中でも、テレビ電話などを活用した遠隔医療が今後ますます拡大してくると想定している。テレプレゼンスシステムによって、家庭やコミュニティからインターネットで医療施設とつながって診察を受けることになる。病院側もこのようなテレプレゼンスのようなビジュアル技術の活用は期待している。
手術の前に3D画像で患者の心臓や脳などを見たりすることができる。またM2Mによる在宅患者の監視なども増加すると述べている。

 ITUはWHOと協力して、e-healthの様々な分野で取り組みを行ってきている。
さらに、e-health分野においてITUのHamadoun Toure事務総長は、「Digital He@lth Initiative」のCo-chairも務めており、積極的に会議などを開催している。「Digital He@lth Initiative」とは、ICTとヘルスケア分野が国連ミレニアム開発目標達成に向けて協力をしていくために2008年に設立され、エリクソンなど民間企業も参加している。国連は2000年に、ミレニアム開発目標を採択し2015年までに達成すべき8つの目標を掲げている。

 WHOが2011年5月に発表した、2015年までに「全世界の女性と子供の健康」のために、ITUとしてはICTの活用とインフラ整備で貢献することを表明している。

 e-healthには情報通信分野、医療の両面から、適切な規制や法的、政策的なフレームワークが要求されるだろう。特に情報管理、個人情報保護はこの分野においては非常に重要になる。さらには、国家間での相互接続や機器購入時のコスト削減も重要になるだろうと表明している。
e-healthの標準化に向けてITUは積極的に全関係者に働きかけていく予定である。e-health分野でのICTのよりよい活用で、全人類が医療健康情報にアクセスできるようにしていくとITUは述べている。

デジタル・デバイド解消に向けて

 マルサスが「人口論」の第1版が出たのが1798年で、第6版(1826年)まで出ている。ICTどころか電話すらない200年前から人口問題は論じられてきた。
まもなく、世界の人口は70億人を突破する。「医療・健康」に関する分野は、全世界共通の問題であり、ICTと切っても切り離せない分野の1つである。
しかし世界ではまだ貧富の格差によるデジタル・デバイドや、先進国の中でも情報にアクセスできない人も多い。

 医療、健康問題はBasic Human Needsnの基礎となる部分である。特に発展途上国において死活問題である。ICTによる貢献は今後も期待されている。もはや全世界の人々においてICTは生活のツールであり、ライフラインの一部である。しかしまだ日々の生活が精一杯で、文字も読めずICTの恩恵に受けられない人々が世界には多くいる。

 1965年の世界人口会議(ベオグラード)を皮切りに、1974年:同会議(ブカレスト)、1984年:同会議(メキシコシティ)、1994年:国際人口開発会議(カイロ)と人口問題に関して国際社会は多くの取組みを実施してきた。持続的開発、人口政策(家族計画)、リプロダクツライト、リプロダクティブヘルス、男女平等などがアジェンダの中心であった。

 ポスト・ミレニアム開発では人口問題をICTの分野の観点から、デジタル・デバイドの解消に向けた国際社会の取組みが注目されることであろう。

【参考動画:国際連合による"7 billion action"キャンペーンを紹介(2011年)】

【参考動画:UNFPA(国連人口基金)による"7 billion action"紹介(2011年)】

【参考動画:ITUによる遠隔医療への取組み紹介(2011年)】

(参考)

*本情報は2011年10月22日現在のものである。

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