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Global Perspective 2011
2011年11月4日掲載

コートジボアール:国連・WFPのモバイルを活用した食料援助への取組み

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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 2011年10月4日、国連および国際連合世界食糧計画(United Nations World Food Programme:以下WFP)は、コートジボアールにおいて、携帯電話のモバイル送金を活用した食料購入のためのトライアルを開始すると発表した。

 今回は、コートジボアールと国連・WFPの取組み、ライフラインとしての携帯電話について考察していきたい。

コートジボアール概況

 簡単に最近のコートジボアールの概況に触れておく。
コートジボアールは、2010年のコートジボワール大統領選挙において、バグボ、ワタラ両候補が大統領就任宣言を行い、深刻な国内政治危機へと発展した。
国際連合、アフリカ連合、西アフリカ諸国経済共同体、欧州連合、アメリカ、旧宗主国のフランスなどを含めた国際社会はワタラの当選を承認し、バグボに対してワタラへの政権譲渡を要求した。
バグボは国連平和維持軍のコートジボワールからの即時撤退を要求したが、国際連合安全保障理事会は拒否し2011年6月末まで6か月間の派遣期間延長を決定した。世界銀行は、バグボ政権に対する支援を凍結した。
2011年4月にワタラ側がバグボの身柄を拘束し、5月になり憲法評議会もようやくワタラを当選者として認定して、国内政治危機は終わった。日本では東日本震災後ということもあり、放送されることは少なかったと思うが、海外(特にフランス)の放送では内乱による凄惨な映像が多く報道され、国際社会がコートジボアールの行方を注視していた。
2011年4月には、アビジャンにある日本大使公邸が襲撃される事件も発生し、岡村大使らがフランス軍に救出されたことも記憶に新しいだろう。

国連・WFPの取組み

 その混乱と以前からの内戦で、国民の生活は深刻な状態になっていった。そのような深刻な状態にあるコートジボアールに対してWFPがモバイル送金を活用しての食料支援のトライアルを行う。

 最大都市アビジャンのアボボとヨポウゴン地区に住む今回の内乱で傷ついた10,000以上の家族が対象でSIMカードが配布される。
現地通信事業者MTN経由で、SMSを受信して、近くのキャッシュポイントでお金をおろすことができる試みである。

 WFPコートジボアールのAlain Cordeil氏は、以下のように語っている。

“This innovative method of payment is particularly suited to households with low purchasing power,”
“WFP increasingly delivers assistance to the hungry in the form of cash transfers in urban areas where there is food in the markets, but the poorest people just cannot afford to buy it.”
“This project is ground-breaking for WFP in West Africa, as it is the first time that we use a mobile service provider as a financial partner,”

 コートジボアールの人口は約2,175万人である。内乱の影響は大きく、現在でもまだ100万人以上が離散していると推測されているとのことだ。そして、地方に行けば行くほど、貧しい人も多くなり、まだ食料が買えない状態である。

 このトライアルで合計160万ドルが使われ、1家族につき1ヶ月75ドル受け取ることができる。75ドルは同国において、5人家族の1ヶ月間の平均食費である。(75ドルで1ヶ月5人ということは、1日3回食事をするとして、1回1人の食費は約0.17ドルである)

 WFPによると、コートジボアールへの緊急支援として4,400万ドルを拠出しているが、まだ1,000万ドル不足しているとのことだ。

 携帯電話を活用してトライアルに参加できるのは内乱に苦しんだ家族だが、ほぼ全国民がその犠牲者になったといえる。

 米CIAの調査によると、コートジボアールの識字率は、48.7%であり、そのうち女性の識字率は38.6%である。つまり3人に1人程度しか文字が読めないのだ。携帯電話でSMSを受信しても、何のことだかを理解してもらうための教育も必要だろう。地方に行くとまだ現地の古い習慣が残っていて携帯電話を活用してのモバイル送金すらできるような状態でないところも多い。

WFPは日本でも「一杯の給食で、いっぱいの希望。hope」の広告など多く出しているので、ご存知の方も多いだろう。WFPによると、2008年には、日本から約1億4,306万ドルの拠出金が提供されている。

コートジボアール携帯電話事情

 コートジボアールの携帯電話市場について概観してみたい。

 携帯電話加入者:約1,740万加入。人口普及率約79%。3Gはまだない。
主要通信事業者としては下記5社。 各社サイトを見ると、飢餓や内乱で苦しんでいる様子は全く伝わってこない。

1.MTN Cote d'Ivoire
  ・シェア約32.4%
  ・南アフリカMTNグループ

2.Orange Cote d'Ivoire
  ・シェア約31.5%
  ・フランスOrangeグループ

3.Moov  Cote d'Ivoire
  ・シェア約15.8%
  ・UAEのEtisalatグループ
  
4.Comium Cote d'Ivoire
  ・シェア約14.5%
  ・レバノンComiumグループ

5.GreenN Cote D’Ivoire
  ・シェア約5.7%
  ・リビアLAP Green Networkグループ

ライフラインとしての携帯電話

 WFPは、紛争地や被災地への食糧支援機関として有名である。WFPは「Fighting Hunger Worldwide」を目標にハンガーマップを提供したり、募金を集めたり、啓蒙活動を行っている。WFPの活動が全世界からなくなり、人々が飢餓のない状態で生活することが理想であろうが、残念ながらそう簡単ではないだろう。今後はトライアルから実際の活用に繋がることに注目したい。また、ソマリアやスーダンなどでのWFPの更なる活動に期待されているだろう。

 また、携帯電話を活用した新たな試みも評価したい。携帯電話でモバイル送金の方法や情報を得ることによって、デジタルデバイドの解消にもつながることだろう。テレビはないが、携帯電話は持っているという新興国の国民は非常に多い。携帯電話は重要な情報源と送金ツールなのだ。
携帯電話を活用したモバイル送金がライフラインで生活のインフラになっている国がまだ世界には多数あるのだ。さらには、そのライフラインである携帯電話を持つことができない人も世界には多くいることも忘れてはいけない。
WFPでは、台風被害後のフィリピンでも同様の取組みを実施した(下記動画参照)。
今後も携帯電話が、飢餓で苦しむ人々にとって「希望のツール」”Hope for Food by Mobile” になることを期待したい。

 日本人の携帯電話に届く食事の情報は、「近所のおすすめレストラン情報」や「割引クーポン」ばかりではないだろうか。
しかし世界の人々の7人に1人(全世界で約9億2,500万人)が飢餓に苦しんでいるのだ。携帯電話の画面ばかり見ていないで、たまには世界に目を向けてみよう。

(参考)World Food Programme

【参考動画:国連のコートジボアールでの取組み(2011年)】

【WFPのフィリピンでの台風後のモバイルを活用した食料提供(2011年)】

*本情報は、2011年10月20日時点のものである。

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