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Global Perspective 2011
2011年12月22日掲載

天空の国キルギスとソーシャルメディア

グローバル研究グループ 佐藤 仁
[tweet]

 2011年、旧ソ連から独立20周年を迎える親日国キルギスと2010年のキルギス騒乱時のソーシャルメディアの活用について考察してみたい。
2011年12月6日に、モロドガジェフ・リスベク・トウルガンバエヴィッチ駐日キルギス大使の講演会に参加してきた。同氏は青山学院大学に留学経験があり日本語が堪能である。

 キルギスでは東日本大震災の翌日には、約400人のキルギス人が日本大使館前に祈りを捧げ献花に来てくれたそうだ。また同は、中央アジアで最初に支援を申し出てくれた国で3月18日にはキルギスからチャーター便で2.5トンのミネラルウォーターが被災地に届けられた。日本人として感謝申し上げたい。

独立から20周年

 キルギスは、1991年8月31日ソビエト連邦のクーデターにより独立を果たした。独立当時の国名はキルギスタン共和国だった。同年12月21日、独立国家共同体 (CIS) に参加。 2011年は独立20周年にあたる。1993年、新憲法下で国名をキルギス共和国に改称した。人口約560万人。国土全体の40%が標高3000mを超える山国であり中国との国境には天山山脈が延びていることから「天空の国」と称されることもある。
キルギスの国章は、ソ連からキルギスが分離独立後の1992年6月に制定され、湖・山をバックにして鷹が翼を広げている。いかにも「天空の国」らしいデザインである(図1)。


(図1)キルギスの国章

 またカザフスタン、中国、タジキスタン、ウズベキスタンと国境を接していて、アメリカとロシア両国の軍事基地がある地政学的にも興味深い地域である。

2010年のキルギス騒乱、インターネット事情

 昨年(2010年)キルギス騒乱については日本でも報じられていたことであろうから、詳細な解説は本稿では行わないが簡単に経緯だけ紹介する。

 2010年4月7日に首都ビシュケクを中心に野党側による反政府運動が激化し、野党勢力が大統領府を占拠し、バキエフ大統領を追放した。4月8日に元外相のローザ・オトゥンバエヴァが臨時政府樹立を発表。5月19日に暫定大統領に就任した。6月27日に行われた国民投票で信任されたことで臨時から正式な政府に移行としたと宣言。(なお、ローザ氏は、モロドガジェフ駐日大使の恩師である青山学院大学教授の袴田氏と旧知の仲とのことである。こちらにも関連情報あり)

 2011年10月30日には大統領選挙が行われ、結果は国民の融和を訴えたアタムバーエフ首が圧勝した。中央アジア諸国は長期強権的な政権が多く、今回のキルギスのように選挙によって大統領が交代するのは、ソビエト連邦崩壊以来、初めてと言われている。今後、同国において民主主義が根差すかどうか中央アジア諸国だけでなく世界が注目していることだろう。

 キルギスは権威的政権が多い中央アジア諸国では珍しく、インターネットの閲覧や政治集会を開くことがある程度自由な国であったため、そのことが反政府運動を強める土台になったと言われている。騒乱前からブログやオンライン上のディスカッションサイトは人気があり、個人が自由に情報発信、発言をしていた。

 キルギスでは以下のサイトが有名で人気がある。

  • Diesel Forum:会員制オンライン上ディスカッションサイトで自由な発言ができる。
  • Kloop Media:2007年開始のキルギスの若手ジャーナリストらによる情報発信、ニュースサイト。
  • blive:キルギスの動画共有サイト
  • BulBul:キルギスの動画共有サイト
  • neweurasia.net:中央アジアの英語でのニュースサイト。ベストブロガー賞の開催も行っている。

それでも騒乱時には、ネットでの情報発信をめぐって政府と市民の間では様々な混乱があったようだ。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)で発行している「SIPRI Insights on Peace and Security」(No.2011/1 August 2011)にNeil Meilvin氏とTolkun Umaraliev氏が、"NEW SOCIAL MEDIA AND CONFLICT IN KYRGYZSTAN"というレポートを寄稿し、キルギス騒乱時におけるソーシャルメディア、ネットの役割を時系列で纏めている。

キルギスでのTwitterの急増と「tweet.kg」

 2010年当初まで、モバイル対応のソーシャルメディアはほとんど普及していなかった。
2010年4月、NGO団体「Open Society Foundations」とTwitter社は、「tweet.kg」開設した。「tweet.kg」では、様々なキルギスからの投稿をテーマごとに閲覧したりすることが可能になった。これにより革命時の様々な情報が「#freekg」のハッシュタグを付与されて、このサイトに集約された。情報の拡散力は大きく向上した。
現在でもキルギスの様々な情報を「tweet.kg」で情報収集や発信をすることができる。
また携帯電話のSMS(ショートメッセージ)を活用した投稿を可能にして、格安かつ簡単にTwitterに投稿できるようになった。「tweet.kg」のサイトはキルギス国内からだけでなく、国外からも閲覧は可能である。
(但し投稿されているのはキルギス語かロシア語なので、解読するには手間がかかる)

 インターネット(ソーシャルメディア)と携帯電話が情報拡散のツールとして利用された成功例の1つといえるのではないだろうか。アラブ諸国の「アラブの春」は国家がインターネット規制を行っていた国々で自由な情報発信やアクセスができなかったことが多く、それらも国民の不満を増長させていた。キルギスは騒乱前からインターネットのアクセスは比較的自由な国であったと言われている。そのような前提条件が違うから見失いそうになるが、「アラブの春」に先駆けてソーシャルメディアというツールが民衆の情報発信に貢献したケースである。

東日本大震災への祈りにネットが果たした役割

 上述したように、2011年3月11日の東日本大震災の翌日に約400人のキルギス人が日本大使館前に集まり、祈りを捧げ献花してくれたのも、Twitterのようなソーシャルメディアや携帯電話での呼びかけによるものであったとのことだ。Twitterに代表されるソーシャルメディアは騒乱時の市民の情報拡散ツールだけでなく、東日本震災直後にもキルギスで活用されていたことも日本人として覚えておきたいことだ。
このような行動は日本人として非常に嬉しいことであり、改めて同国でのソーシャルメディアによる情報拡散力を垣間見られる。
今後も親日国家キルギスの情勢とICTの動向を引き続き注目していきたい。

キルギスの水資源

 キルギスは東日本大震災の被災地にミネラルウォーターを届けてくれた。キルギスは水資源が豊富な国である。今後、国際社会において石油に代わって重要になってくるのは「水資源」だろう。世界の人口増加に伴い、ますます水不足、水ストレス状態は大きな問題になるだろう。キルギスの「水資源」には世界が注目している。小論の筋から外れるので詳細は割愛するが、キルギスを考察する上では重要な要素であろう。

キルギスの携帯電話事情

 最後にキルギスの携帯電話事情を見てみよう。
携帯電話加入者:約560万加入。人口普及率約100%。成長率約19%(2011年9月現在)
主要通信事業者としては下記3社。ほかに小規模事業者も数社ある。
キルギスのような山国では、ネットワークのカバレッジが重要である。
ユーザが携帯電話に加入する際の大きな条件になるのが通話費用、品質、カバレッジの広さである。

1.Megacom
・シェア:約43.5%

2.Beeline
・シェア:約42.4%

3.Fovex
・シェア:約8.4%

【参考動画】
Beeline社:ネットワークカバレッジ対策のために広範囲に基地局設置している様子を放送する広告。
カバレッジの重要性が垣間見られる。

Beeline社:Androidスマートフォン「U8500」(中国Huawei社)の広告

Beeline社:通信料金広告

【参考動画】
Megacom社

(参考) 2011年、国際政治における「ソーシャルメディア」を考える

*本情報は2011年12月12日現在のものである。

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