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Global Perspective 2013
2013年1月29日掲載

まだまだ競争が続く「モバイルOS」

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
佐藤 仁
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世界のスマートフォン市場を見るとAndroid OSが圧倒的なシェアを占めている。そのような市場に新たなモバイルOSがいくつか登場してきている。モバイルOSの市場争いはまだまだ終わっていない。

Androidが圧倒的なシェアを誇るモバイルOS市場

まずは、現在のモバイルOS市場を見てみよう。米国の調査会社IDCは2012年11月、2012年Q3の世界におけるスマートフォンの出荷台数に関する調査結果を発表した。Android が圧倒的に高いシェアを占めている。スマートフォン出荷を端末メーカで見るとAndroid OSを搭載した「Galaxy」シリーズの人気があるサムスンと「iPhone」を提供するAppleのシェアが高い。

(表1)2012年Q3スマートフォン出荷台数・マーケットシェア
(表1)2012年Q3スマートフォン出荷台数・マーケットシェア
(IDC情報を元に筆者作成)
(表2)2012年Q3スマートフォンメーカ別出荷台数・マーケットシェア
(表2)2012年Q3スマートフォンメーカ別出荷台数・マーケットシェア
(IDC情報を元に筆者作成)

続いて、新たに登場してきた4つのモバイルOSを概観していく。

Intelとサムスンが主導する「Tizen」

2011年9月27日、LiMo FoundationとThe Linux Foundationは各種デバイス向けの新たなプラットフォームを開発するオープンソース「Tizen」を発表した。Intelとサムスンが主導している。Linux Foundation による Linux に基づいており、非営利コンソーシアム「Tizen Association」 が開発している。スマートフォン以外にもタブレット、ネットブック、スマートテレビ、車載情報システムなどでの利用を検討している。「MeeGo」と「LiMo」を統合してTizenへ移行している。TizenはLinuxベースでHTML 5を採用しているので、通信事業者はAndroid OSなどGoogleの仕様に縛られない独自サービスを提供が容易になる。 2012年5月にバージョン1.0、2012年9月にバージョン2.0α版が公開されている。

2013年1月にはサムスンがTizenで端末開発を検討しており、2013年に市場投入を予定していることが報じられた(※1)。また2012年12月30日の読売新聞一面にNTTドコモがTizen導入を検討していると報じられ、2013年1月、導入を検討していると加藤社長がコメントをしている(※2)。

Mozillaの「Firefox OS」

Mozillaは2012年7月にFirefox OSを発表した。そして2013年1月22日、「Firefox OS」を搭載したスマートフォンの開発者向けプレビュー機「Keon」「Peak」の2モデルを発表した。HTML5ベースのオープンモバイルプラットフォームで、中国メーカのTCLとZTEが端末を製造する予定。2013年初頭にTelefonicaのブラジル子会社「Vivo」ブランドで発売される予定である。Telefonicaの他にもドイツテレコム、UAEのEtisalat、フィリピンSmart、米国Sprint、テレコム・イタリア、ノルウェーTelenorらが「Firefox OS」端末を販売する予定である(※3)。

Firefox OSは主として新興国市場を対象としており、ローエンド端末向けのOSを目指し、iOSとAndroidに対抗する意向はないと明言している。新興国のローエンド端末がターゲットで、HTML5ベースでWeb標準に準拠していることからアプリ開発は期待できると目論んでいる。

「Ubuntu Phone OS」

英Canonicalは2013年1月2日、Linuxディストリビューション「Ubuntu」のスマートフォン版OS「Ubuntu Phone OS」を発表した。2013年末の搭載端末リリースに向けて現在、パートナー企業と開発に取り組んでいるという。無償提供されているOS「Ubuntu」のスマートフォン版である。

「Ubuntu for phones」のコアシステムはAndroid Board Support Package(BPS)をベースとしている。したがって、Android OS搭載端末を開発しているメーカであれば「Ubuntu for phones」採用のハードルは低い。端末への実装サポートはCanonical社が行う。またアプリケーション開発の観点からもAndroidアプリ開発者は簡単に「Ubuntu」向けのアプリを開発できる。ネイティブ/HTML5対応のアプリプラットフォームで、すでに「Go Mobile」という開発者向けサイトを公開している。最大の特徴としては、スマートフォンとPCがハイブリッドであること。スマホ向けに作成したアプリがPCでもそのまま動作できる。ネイティブアプリとWebアプリを同等に扱う。PCとの接続が可能な「Ubuntu Phone OS」 を搭載した「supurmobile」というハイエンド端末のリリースを予定している。Ubuntu Phone OSに対応したデバイスなら、外ではスマートフォン、デスクではドックに挿してPCで利用できる。

アプリ開発者はQMLベースのソフトウエア開発キット(SDK)を使って「Ubuntu Phone OS」向けアプリケーションを開発し、アプリケーションストア「Ubuntu Software Centre」を通じて配信および販売が可能である。 アプリストアへの登録料はなく、有料アプリの場合の手数料は一般のアプリストアより20%低い。開発を予定しているメーカ、採用を予定している通信事業者については現時点では明らかにされていない。

Jollaの「SailfishOS」

JollaとはNokiaで「MeeGo OS」の開発に携わっていた元Nokia社員らが2012年7月に立ち上げたベンチャー企業である。マルチタスク利用を想定したユーザーインターフェースで様々なアプリの操作が同時にできるのが特長である。技術的詳細な仕様についてはまだ明らかではないが、すでにSTエリクソンがチップセットを対応させることと、フィンランド3位の携帯通信事業者DNAが「SailfishOS」端末を取り扱う予定であることが発表されている。

Nokia社および「SailfishOS」を取り巻く経緯

「SailfishOS」の基盤となった「MeeGo OS」およびNokia社のOSの取組みの経緯を見ていく。2010年2月に、IntelとNokiaは「MeeGo OS」を共同で発表した。「MeeGo」は、Intelの「Moblin」とNokiaの「Maemo」を統合したオープンソースのLinuxベースのモバイルOSである。当時はiOS、Android OSに対抗できる勢力として期待されていた。しかし大手携帯電話メーカの同OSの採用はなかなか進まなかった。そして2011年2月には、Nokiaはマイクロソフトと業務提携を行い、今後のスマートフォンの主軸をWindows Phoneにすること発表した。おそらくこの発表に一番度肝を抜かれたのは「MeeGo OS」を共同で開発、推進していたIntelではないだろうか。その後、Intelはサムスンらとともに「MeeGO」と「Limo」を統合した「Tizen」の開発へ傾倒していく。

2011年6月に、Nokiaは「MeeGo OS」搭載の「Nokia N9」を発表した。直前の2011年2月にNokiaは今後のスマートフォン戦略をWindows Phoneで統一すると発表していたことから「Nokia N9」は同社から販売される最初で最後の「MeeGo OS」搭載端末となったのだ。Nokiaとして「MeeGo OS」開発を進めていたこともあり、最後の仕上げの端末として「Nokia N9」を市場に投入した。2011年6月にシンガポールで開催された「CommunicAsia 2011」でNokiaは「MeeGo OS 1.2」を搭載した“最初で最後のMeeGo対応スマートフォン”「Nokia N9」を披露した。

2011年2月にNokiaはマイクロソフトと提携を行い「Symbian OS」から「Windows Phone」へとスマートフォン戦略を大きく変更した。現在は「Windows Phone」スマートフォンの「Lumiaシリーズ」が登場してからは欧米を中心に「Lumiaシリーズ」は人気があり、2012年第4四半期(10〜12月期)には440万台出荷され、同社の営業利益は7四半期ぶりに黒字となった。
2011年4月、Nokiaは長年同社のメインOSで世界のモバイル市場を席捲していた「Symbian OS」の開発部隊を全てアクセンチュアへと移管させ、現在スマートフォンは「Windows Phone」端末の開発に集中している。

そのような環境の中で、「MeeGo OS」の開発に携わっていた元Nokia社員やMeeGoコミュニティーのメンバーらが2012年7月にJollaを立ち上げた。また元Nokia幹部のマーク・ディロン氏が同社のCOOとして参加した。

図1:Nokia社および「SailfishOS」を取り巻く周辺環境の経緯

(筆者作成)

終わらないモバイルOSの市場獲得競争

現在のスマートフォン市場を概観するとAndroidのシェアが75%と全世界を圧巻しているように見受けるが「全方位的」に攻勢をかけるAndroidと特定のターゲットに絞って端末を供給するiOSでは戦略が異なるので、決してiOSが負けているという訳ではない。とはいえ数字だけでは圧倒的にAndroidが圧倒している。

モバイルOSが多く登場しても実装してくれるメーカや同端末を採用する通信事業者が存在しなければ意味がない。これだけAndroidが圧勝している市場において新しいモバイルOSはどのようにして市場で差別化していくのだろうか。「Firefox OS」は当初から想定市場を新興国に定めている。新興国ではかつてハイエンド端末はNokia(Symbian)やBlackberryが強い市場だったが、現在では新興国の地場メーカでもAndroid OS搭載の端末を開発、販売している。

モバイルOSが新たに登場することによって、市場は活性化するのだろうか。
モバイルOSは搭載してくれるメーカ、採用する通信事業者、アプリを提供する開発者がいてエコシステムが回り、それに伴ってユーザの利便性が向上し、さらにシェアを拡大していく。モバイルOSだけがリリースされても実装するメーカや事業者、アプリ開発者が動かなければ意味を持たない。

寡占状態が良いとは考えないが、これらのエコシステムが正常に機能し、ユーザに受け入れてもらうためにはまだ時間がかかりそうである。とはいえ長い目で見ていると、既存のモバイルOSが更なる進化をしていく厳しい市場である。まだまだモバイルOSの市場獲得競争は終わっていない。

(表3)新しいモバイルOSの提供を予定、検討が報じられているメーカと通信事業者
(表3)新しいモバイルOSの提供を予定、検討が報じられているメーカと通信事業者
(筆者作成)

【参考動画】Tizen

【参考動画】Firefox OS

【参考動画】Ubuntu Phone OS

【参考動画】SailfishOS

*本情報は2013年1月26日時点のものである。

(参考)

※1 CNET(2013), “Samsung confirms Tizen-based handsets for 2013,” Jan 3,2013, http://news.cnet.com/8301-1035_3-57561773-94/samsung-confirms-tizen-based-handsets-for-2013/

※2 CNET(2013), 『ドコモ加藤社長、Tizen搭載スマホを「検討しているのは事実」』(2013年1月22日)http://japan.cnet.com/news/service/35027206/

※3 Telefonica(2012), “Mozilla gains global support for a Firefox Mobile OS,” Jul, 2, 2012

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