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Global Perspective 2013
2013年11月19日掲載

減少するSMSと台頭するメッセンジャーアプリ:どうしてSMSは衰退していくのか?

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
佐藤 仁

2013年11月12日、英国調査会社Informa は2018年までに世界の通信事業者のSMS(ショートメッセージ)の収入が233億ドル減少すると予測したことを発表した(※1)。

携帯電話でのテキストメッセージのコミュニケーション手段においては、以前から「メール」の利用が主流であった日本ではあまり馴染みがないSMSであるが、海外の通信事業者にとってSMSは重要な収入源である。

減少するSMS収入

Informaによると、2013年に全世界の通信事業者でのSMSの収入は1,200億ドルであるが、2018年には967億ドルまで減少することが予測されている。その要因の1つにOTTプレーヤーの台頭を上げている。

最近ではOTTという用語自体、あまり見かけることが少なくなったが、OTTとは「Over The Top」の略称で、今回のコンテクストでは「WhatsApp」や「LINE」といったメッセンジャーアプリや「Facebook」や「Twitter」といったソーシャルメディアである。

Informaでは世界の地域ごとのSMS収入の予測を立てているが、全ての地域においてSMS収入は減少する見通しである。SMS収入の減少が一番大きいのはアジア太平洋地域で2013年の458億ドルから2018年には380億ドルまで減少すると予測されており、その中でも特に中国が2013年の254億ドルから2018年には196億ドルまで減少する見込みである。

(表1)各地域の2013年と2018年のSMS収入予測

(表1)各地域の2013年と2018年のSMS収入予測

(出典:Informa)

どうしてSMSは減少してしまうのだろうか?

減少するであろうSMSに代わって台頭することが期待されるコミュニケーション手段がOTTと称される「WhatsApp」や「LINE」に代表されるメッセンジャーアプリや「Facebook」や「Twitter」に代表されるソーシャルメディアである。SMS減少とOTT台頭のその背景を探っていきたい。

(1)大量に市場に出回るプリペイドのSIMカード
 海外では今でもメッセージの主流は携帯電話でのSMSである。SMSはどのような携帯電話でも搭載されている機能なので、貧富や老若男女問わずに誰もが頻繁にSMSを送信している。そして、特に新興国では日本のようなポストペイド方式ではなく、プリペイド方式でSIMカードを購入するのが主流である。利用したい時にSIMカードを購入し、残料金が無くなったら必要に応じてチャージをしていく。そのため、1人で複数枚のSIMカードを持っている人が多いので、携帯電話の人口普及率は100%を超えている国がほとんどである。1人で1つの会社のSIMカードを複数持っていることも珍しくない。人々は携帯電話会社に対して愛着や固執は全くない。長期利用者割引のようなものが少ないため、常に新しいキャンペーン(例えば、SMSが20通まで無料など)を行っていると「キャンペーン対象のSIMカード」を購入して通信費用を少しでも安く済ませる。そしてキャンペーン分が終了してしまったら、そのSIMカードは使われなくなることも多い。携帯電話会社も年中あらゆるキャンペーンを行って顧客獲得に躍起になっている。町の至る場所でSIMカードを販売している。

最近ではスマートフォンが新興国でも普及してきている。携帯電話端末は中古市場が主流である新興国において、最近ではスマートフォンも大量に中古品で出回るようになった。初期のiPhoneやAndroid OS端末が中古品として多く見かけるようになった。

新興国においてスマートフォンが流通するようになっても多くの人はデータ通信費もプリペイド式で払っている。新興国の携帯電話会社ではスマホの拡大に伴うデータ通信が収益の柱になってきているので、さらに多くのキャンペーンを実施し顧客獲得に積極的である。

(2)SIMカードの氾濫=電話番号の氾濫
 プリペイドのSIMカードを頻繁に買い替えている人が多いということは、その都度電話番号が変わっているのである。電話番号が変わると相手にSMSを送付しても、相手はその番号をもう利用していないということになる。1人で複数枚SIMを利用している場合、そのSIMの電話番号にメッセージを送付しても携帯電話に挿入してない、ということも多くある。

プリペイドSIMカードの料金プランは携帯電話会社によって異なるが30日単位が多いので、30日毎にSIMカードを買い替えることが多い(買い替え時にお得なキャンペーンをやっていないとチャージする)。

新しいSIMカードにした時に仲が良い友人にはすぐに通知するだろうが、頻繁にSIMカードを買い替えていくうちに、通知するのも面倒になってくることがある。そして電話番号に基づいたメッセージのやり取りが面倒になってしまう。

そこでSIMカード(電話番号)を変えても自分であることが認識されるメッセージサービスの方が使い勝手が良くなる。SIMカードが変わって電話番号が変わったとしても、相手に新しい電話番号を通知して自分であることを認識してもらう必要はないから利便性が高い。このようにして電話番号だけでのSMSのやり取りは遠くなってしまう。つまり、携帯電話会社がキャンペーンをやればやるほど(SIMが売れれば売れるほど)、電話番号は「おまけ」になってしまい、SMSの利用は遠くなっていくのではないだろうか。

コミュニケーション手段の変更に伴って求められる通信事業者のパラダイムシフト

海外の通信事業者にとってSMSの収入源は大きい。特にデータ通信による収入源が確立されていない事業者にとっては最大の収入源であるところが多い。今後5年間でSMSは大きく減少することが予測されている。そして減少したSMSがV字回復することはないだろう。つまり、SMSの利用と収入はこれから減少の一途を辿ることが想定される。コミュニケーション手段の主流がSMSからメッセンジャーアプリへという流れは変わらないだろう。従来のようにSMSで収入源を確保すること自体が通信事業者にとっては難しくなってきている。

今後は、SIMカードの「ばらまきのような販売」からユーザーがメッセンジャーアプリを快適に活用してもらうためのネットワークの提供によるデータ通信収入の確保やメッセンジャーアプリとの提携による新たなサービスや料金プランの提供などが必要になってくる。今、世界の通信事業者は新たな局面に立たされている。これから減少するであろうSMSをどのようにカバーしてくるのか、どのような戦略を打ち出してくるのか、引き続き注目が必要である。

*本情報は2013年11月18日時点のものである。

※1 Informa(2013) Nov 12, 2013 “Global annual SMS revenues will be US$23 billion less by 2018”
http://blogs.informatandm.com/17351/press-release-global-annual-sms-revenues-will-be-us23-billion-less-by-2018/

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