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Global Perspective 2013
2013年3月28日掲載

「AT&T Digital Life」:「家」と「人」のコミュニケーション

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
佐藤 仁
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2013年1月7日、アメリカ通信事業者AT&Tが、ホームセキュリティ・サービス「AT&T Digital Life」を2013年3月から8都市で提供することを発表していた(※1)。そして、2013年3月22日、近日中に15都市で開始することを発表した(※2)。具体的な都市名、開始日は公表していないが、2013年末までには50都市で提供する予定である。
 同サービスは2012年5月にイニシャルプランが報じられ、2012年夏にダラスとアトランタでパイロットプロジェクトを行っていた(※3)。

ホームセキュリティ市場開拓に向けたAT&T

アメリカの通信事業者は現在スマートフォンの普及でデータ通信が収入増に貢献している。しかし、いつまでもこの状況は続かないだろう。いずれ頭打ちになり、激しい価格競争に陥ることが想定される。その時に備えた「新しい収入源」の準備が必要である。そこでAT&Tが着目したサービスの1つが「ホームセキュリティ市場」である。

AT&Tが提供予定している「Digital Life」では、遠隔でスマートフォン、PC、タブレットなどから自宅の様子をカメラで見たり、窓ガラス・ドアのセンサー、煙探知機、温度調節、湿気探知・水漏れ防止センサー、ドアロック、電気の操作などができる。侵入者から自宅を守るだけでなく、エネルギーの節約にも役立つことを目指している。
 利用者は家庭のニーズに合わせて「ビデオパッケージ(ビデオによる監視)」「エナジーパッケージ」「ドアパッケージ」「ウォーターパッケージ」などが導入できる。24時間管理体制で、必要に応じて警察や消防への通報が行われる。
 Ciscoが開発した「Digital Life control panel」をプラットフォームとしており、全ての機器がワイヤレスで接続されている。スマートフォンのOSはAndroid、iOS、Windowsに対応しており、誰にでも使いやすいユーザインターフェースと操作をウリにしている。

ユーザは購入前にAT&Tショップで体験をすることが可能で、それらを通して自分の家に最適なソリューションを導入することができる。家庭ごとのカスタマイズとなるため、費用はそれぞれ導入する家庭によって異なってくる。

AT&T以外のユーザでも「AT&T Digital Life」は利用ができるのも特徴の1つである。つまりユーザが「AT&T Digital Life」を利用する時に、AT&Tのライバル会社であるVerizonやSprintのネットワークでも問題なく利用できる。AT&Tユーザ専用のサービスではなく、ホームセキュリティという新たな市場では誰にでもオープンにすることによってアメリカ全家庭がターゲットとなり、多くのユーザの獲得が期待できる。

(図1)「AT&T Digital Life」:タブレットでの画面イメージ

(図1)「AT&T Digital Life」:タブレットでの画面イメージ

(出典:AT&T)

(図2)「AT&T Digital Life」:プラットフォームイメージ

(図2)「AT&T Digital Life」:プラットフォームイメージ

(出典:AT&T)

固定電話の減少

かつてコミュニケーションの手段は固定電話だった。それは名前のごとく家や会社に「固定」されていた。1990年代からアメリカだけでなく世界中で携帯電話・スマートフォンが普及してきた。個人で複数台の携帯電話を保有する人も多くなってきている。特に海外ではプリペイドが主流で、プリペイドのSIMを数枚保有して、端末も中古市場で安くて良い端末を入手できる。携帯電話の普及とともに、日本も含めて家庭で固定電話を導入してない家が増えてきた。家でも携帯電話を利用する。新興国ではそもそも固定電話が普及していないで、最初から携帯電話を利用している。
かつて家に電話をする時は固定電話に電話をかけていた。しかし家に誰もいなければ、固定電話の番号にかけても当然、誰も出ない。「どこにいてもつかまえることができる」携帯電話を利用する。かける方もかけてもらう方もその方が利便性は高い。最近では固定電話がない家も多い。
それでも人は「家」に住んでいる。「家」と「人」とのコミュニケーション手段はまだなくならない。

「家(ホーム)」と「人」とのコミュニケーション

「家」とそこに暮らす「人」とのコミュニケーションが変わってきた。家に誰もいないときに、「家」のセキュリティを確認するために、家にあるセンサーや装置との通信がこれからの「家」と「人」とのコミュニケーションになるのではないか。センサーや装置は無限にある。自宅に侵入者が来て窓やドアを壊されるのではないか、水漏れしていないか。電気やガスを消し忘れていないか、などの不安がある。これらの確認と、万が一の時に対応してくれるサービスが、家と人との新しいコミュニケーションになるのだろう。
「家」にいる人とコミュニケーションをとる固定電話から、「家」にあるセンサーや装置とコミュニケーションを行い、「家」の安全を確認する方向に転換してきている。コミュニケーションは「人」と「人」が会話(電話)やテキスト(メール)だけで行うものではない。

アメリカの家庭でこのようなホームオートメーションサービスを利用しているのは1%以下だそうだ。米調査会社IDCは2016年までに携帯以外のデバイス間通信は10億ドル規模の市場になると予測している。

「家」には侵入防止のようなセキュリティの他にも電気、水道、ガス、見守りなどといった様々シーンでのコミュニケーションが想定される。家の中を見回すと「家」と「人」がコミュニケーションできそうなものはたくさんありそうだ。「家」という人が毎日関わりを持つ空間は、新しいコミュニケーションの市場として期待できる。
 近年「M2M(Machine to Machine)」がバズワードになっているが、「家」と「人」のコミュニケーションは「H2M(Home to Man)」であろうか。

(参考)

【参考動画】
「AT&T Digital Life」

*本情報は2013年3月26日時点のものである。

※1 AT&T(2013), Jan 7, 2013, “AT&T Digital Life Home Security and Automation Available to Homeowners in March”
http://www.att.com/gen/press-room?pid=23652&cdvn=news&newsarticleid=35917&mapcode=att_ces_2012|digital_life

※2 AT&T(2013), Mar 22, 2013, “AT&T Expands Digital Life Launch Markets” http://www.att.com/gen/press-room?pid=23947&cdvn=news&newsarticleid=36199

※3 AT&T(2012) May 7, 2012, “AT&T Plans Nationwide Launch of Wireless-centric Home Security and Automation Services”
http://www.att.com/gen/press-room?pid=22821&cdvn=news&newsarticleid=34415

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