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Global Perspective 2013
2013年4月30日掲載

シエラレオネ:感染症予防としての携帯電話

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
佐藤 仁

2013年4月15日、イギリス赤十字と国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)はアフリカのシエラレオネで携帯電話のショートメッセージ(SMS)を活用した救援活動を行うことを発表した(※1)。
 位置情報と連動したTrilogy Emergency Relief Application (TERA)と呼ばれるシステムを活用する。遠隔地とリアルタイムで双方向コミュニケーションが可能であり、1時間に特定地域の36,000人に送信することができる。洪水や大震災などの普及時に活用され、大震災後があったハイチで2011年に導入され、既に1億通のSMSが送信されている。

シエラレオネで感染予防対策として活用

今回、イギリス赤十字はシエラレオネの現地通信事業者Airtelと提携して、人々にマラリアやコレラの予防対策に活用する。シエラレオネでは毎年16,000人以上がマラリアで死亡し、同国での最大の死因である。TERAシステムを活用して赤十字職員が遠隔にいる人々に対してマラリアやコレラなど感染症予防に関する情報を提供することによって感染症への感染を防ぐことを目指す。
 昨年、過去40年で最悪と言われたコレラが発症したシエラレオネのSamuel Sam Sumana副大統領は今回の赤十字の取組みによって、シエラレオネの人々と家族が予防知識を身につけることができると期待を述べている(※2)。

シエラレオネは西アフリカにある人口約600万の国である。GDPも世界で150位前後であり、1人あたりのGDPは724ドルである(日本の60分の1以下)。
 携帯電話の加入者は320万で普及率は約53%と高くない。また15歳以上の識字率は35.1%で、男性は46.9%だが女性は24.4%と低い(米CIA 2004)。平均年齢は19.1歳で、14歳以下の人口が全体の42%と圧倒的に多い。

(図1)シエラレオネの人口ピラミッド

(図1)シエラレオネの人口ピラミッド

(出典:米CIA 2012)

感染症予防に向けて

今回赤十字、IFRCはシエラレオネにおいてTERAのシステムをマラリアやコレラなど感染症予防対策のメッセージ送信として活用する。日本では感染症で死ぬことは非常に少なくなってきているが、アフリカでは感染症で死亡する人がまだ多数いる。特にマラリアは89%がアフリカである。
 感染症の蔓延は労働力の低下を招き、国の経済、社会発展を阻害している。感染症の蔓延は政治経済的な要因よりも疾病そのものと疾病の影響による人口動態の変化、教育水準の影響が大きいだろう。
 つまり、識字率を高めて教育を受けることによってどのような対策を行えばよいのかを理解してもらい、それを実践することが重要になる。例えばマラリア対策のために「蚊帳で寝る」、「予防接種を受ける」ことや、エイズ対策のために「注射のうち回しをしない」、「性行為や輸血に気をつける」といった先進国では常識のように思えるが、そこまで至らないため感染症による死者が減少していない。

携帯電話のSMSを活用した感染症予防対策を実施しても受信できるのは携帯電話を保有し、識字能力のある人が対象である。もちろんそれらの人々に対する支援も重要であるが、国民の識字率が向上し、経済力をつけて携帯電話を保有できるようになる人々を増やすことが、ひいては感染症予防の対策に繋がるのだろう。
 感染症は遠いアフリカだけの課題ではない。最近でも中国のH7N9型鳥インフルエンザが日本でも注目されている。携帯電話を活用した感染症予防対策は国際社会のあらゆる場面で活用できるのではないだろうか。

(図2)マラリア感染マップ
人口10万人に対して何人のマラリア患者がいるかを示している。
WHOによると毎年3億から5億人が感染し150万〜270万人が死亡している。

(図2)マラリア感染マップ

(出典:世界銀行 2012)

(表1)マラリア感染率(10万人あたり)

(表1)マラリア感染率(10万人あたり)

(出典:WHO2006統計)

【参考動画】

*本情報は2013年4月26日時点のものである。

※1 British Red Cross(2013) Apr 15, 2013 “.Text messages send hope and save lives in Sierra Leone”
http://www.redcross.org.uk/About-us/News/2013/April/Text-messages-send-hope-and-save-lives-in-Sierra-Leone

※2 原文:“We know Sierra Leone has a poor health record and the government is committed to doing something about that. Working with the Sierra Leone Red Cross and west African mobile providers, we can make sure people are armed with the knowledge and tools they need to protect themselves and their families.”

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