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Global Perspective 2013
2013年5月12日掲載

ドイツ通信事業者のスマートグリッド、スマートメーターへの取組み

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
佐藤 仁

ドイツのシンクタンクInternationales Wirtschaftsforum Regenerative Energien(IWR:再生可能エネルギー国際経済フォーラム)が2013年4月18日の正午にドイツ全国の電力のうち、風力発電と太陽光発電が50%以上を超えたことを発表した(※1)。日本でも朝日新聞が報じていたので目にした方も多いのではないだろうか。

2013年4月18日の電力需要は正午が約70GWで、風力発電と太陽光発電の合計が初めて36GWに超えた。36GWは原子炉30基分以上に相当する出力とのことである。

(表1)4月18日の深夜0時から24時までの電力消費状況
konv(グレー):石炭火力や原子力などの非再生可能エネルギー
Wind(ブルー):風力発電
Solar(オレンジ):太陽光発電

(表1)4月18日の深夜0時から24時までの電力消費状況

(出典:IWR)

ドイツでは日本における原発事故を受け2022年までに国内にある17基の原発全てを廃止することを決定した。日本でも報じられているので、ここでは詳細は割愛するが、ドイツは国をあげて原子力に頼らない電力供給を目指している。但し、以下のような課題も残る(もちろん他にも社会、経済的問題なども多数あるが割愛する)。

  1. 再生可能エネルギーの最大の問題は自然に依存するために供給が安定してない。
  2. ドイツでは風力発電の比率が高く、昼夜問わず供給が一定にならない風力からの電力をいかに効率良く利用するか。

これらの問題に対する解決策として注目、開発が進められているのがスマートグリッドとスマートメーターである。スマートグリッドとは情報通信技術によって電力の供給と需要をモニタリングし、余剰電力を蓄えて需要超過時に供給することにより、効率的な電力需給を調整するものである。スマートメーターは通信機能や他機器の管理制御機能を持つ高機能型の電力メーターを含んだシステムのことである。

再生可能エネルギーの活用と環境分野への積極的な取組みを見せているドイツの中で、ドイツの通信事業者はこの分野に対して、どのような取組みをしているのか。ドイツテレコムとVodafoneドイツの2社を見ていきたい。

ドイツテレコム

「T-City」プロジェクト

ドイツテレコムは2006年以降、スマートグリッド、スマートメーターを今後の成長分野と位置付けて積極的な展開を行っている。2006年のCebitでスマートメーターの構想を発表したドイツテレコムは、アルカテルルーセントと提携してドイツ南部都市フリードリヒスハーフェン にて「eMeteringプロジェクト」を2008〜2009年に700家庭で実施した(※2)。
「"TWF:CleverZahler" (clever meter)」というスマートメーター(図2)をアルカテルルーセントとドイツテレコム子会社のT-Systemsが開発、製造して、プロジェクト対象の家庭に配布。各家庭の「電力消費量の見える化」を行い効率的な電気活用(省エネ)を促進している。

(図1)アルカテルルーセントと共同開発した"TWF:CleverZahler"

(図1)アルカテルルーセントと共同開発した"TWF:CleverZahler"

(出典:ドイツテレコム)

また2010年4月には、ABBとドイツテレコム子会社のT-Systemsは共同でドイツ南部の都市フリードリヒスハーフェンにおいて、地元電力会社Technische Werke Friedrichshafen(TWF)、および地方自治体と連携して電力供給管理を改善し、消費者がより効率的に電気を使えるためのスマートグリッド・ソリューションの開発を発表した(※3)。

これらはドイツ南部の人口約6万人の都市フリードリヒスハーフェンで実施された「T-City」プロジェクトの一環で行われた。なお「T-City」プロジェクトとはスマートグリッド、スマートメーター以外にもヘルスケアや教育など30以上の様々な取組みを行っているプロジェクトの総称である。

(図2)T-Cityでの「電力消費の見える化」

(図2)T-Cityでの「電力消費の見える化」

(出典:アルカテルルーセント)

スマートメーター

ドイツテレコムは、スマートメーター向けの無線技術や、スマートグリッド・アプリケーション、消費者の節電をサポートするモバイル・ アプリケーションなどの開発・商用化に取り組んでいる。
2010年8月、ニーダーザクセン州エムデン市の電気・ガス供給会社と共同でスマートメーターの試験運用を開始すると発表した(※4)。100個のスマートメーターを各家庭に設置、さらに200個のスマートメーターを新設の住宅に設置した。
2010年12月、ノルトライン・ヴェストファーレン州デュイスブルク市を本拠とする電気・ガス・水道等の公共サービスを提供するStadtwerke Duisburg AGと、スマートメーター導入プロジェクトについて提携した(※5)。
2011年2月には電力メーター管理会社VOLTARISと提携し、ラインラント・プファルツ州とザールランド州で最大10万世帯を対象にスマートメーターを導入することを発表、ドイツテレコムとVOLTARISは5年間で50万ユーロの契約を行った(※6)。

家庭内の家電を統合したSmart Connect

2011年9月、ドイツテレコムは家庭内の家電を統合して接続し、カーテンや窓やシャッターやブラインドの開閉、照明のON/OFF、警報システム、家電機器や設備機器、食器洗浄機やエアコンなどの管理を行うことができるスマートハウス向けプラットフォーム「Smart Connect」を発表した(※7)。E.ON(電力会社)など他事業者とパートナーシップを結び、2012年半ばまでドイツテレコムのブロードバンド利用者に対して「Smart Connect Box」を提供し、屋外から家庭内の家電などのコントロールが可能なサービス提供をすることを明らかにしており、同社は本プロダクトで2015年までに10億ユーロの収益を目標としている。「Smart Connect Box」(OSGi規格)は日本の住友電工ネットワークスが開発、製造し2012年1月から納入を開始した(※8)。ドイツテレコムでは2012年6月には独電力会社RWEへ対してミュルハイムにおいてスマートメーター15,000個を納入することを明らかにしている(※9)。

(図3)Smart Connect概要図

(図3)Smart Connect概要図

(図3)Smart Connect概要図

(出典:ドイツテレコム)

2013年3月にドイツで開催されたCebitではドイツテレコムは「スマートホーム」が大きく展示されていたことを見ると、「T-City」プロジェクトの成果が各家庭にまで浸透してきている兆しが見えているのではないだろうか。

Vodafoneドイツ

 M2Mサービスとして期待されるスマートメーター

VodafoneグループはドイツだけでなくM2M事業に注力している。Vodafoneグループが注力しているM2Mの領域の1つがスマートメーターである。
2009年12月、Vodafoneドイツとアルカテルルーセントはスマートメーターの開発に向けて提携を発表した(※10)。両社が提供するスマートメーターはアルカテルルーセントのスマートメーターソフトウェア「8617 Smart Metering Management (SMM)」をベースに開発した。
また2012年6月、24,000のモバイルネットワークに接続したスマートメーターをドイツ全土で設置を発表した(※11)。モバイルに接続されたスマートメーターとしてはドイツ最大の数である。このプロジェクトでは、「DB Communications社」(ドイツ鉄道の子会社でデータマネジメント担当)、Iskraemeco社(スマートメーター機器提供)と連携して実施している。他にはVodafoneドイツではアルカテルルーセント、IBM、RWE、E.ONらと共同でスマートメーターに関するトライアルをすでに実施している。Vodafoneドイツでは中小企業や家庭を中心にスマートメーターを設置していく予定である。また家庭のエネルギー消費の管理などを行っていくことも検討している。Vodafoneドイツにとってもドイツテレコム同様、スマートメーターは今後の重要なビジネスチャンスと位置付けている。

電力と通信の融合

「電力と通信の融合」と言われてから久しい。2011年3 月の東日本大震災以降、日本でも電力、スマートグリッド、スマートメーターへの関心が非常に高くなってきて「電力と通信の融合」が加速してきた。日本の通信事業者もすでに商用化、トライアルを含めていくつかのプロダクト、サービスが登場している。

電力や環境問題とも密接に関わっており一筋縄にはいかない部分も多くあるが、今後、日本においてもスマートグリッド、スマートメーターは避けて通れない分野になるだろう。各家庭や企業など様々な箇所に設置され、通信を含めた各種サービスの提供が求められる。通信事業者の果たす役割と新たな事業機会になる可能性は非常に高いと想定される。ドイツと日本では電力市場の仕組みがそもそも異なるから一概に比較することはできないが、この分野で先行しているドイツにおける通信事業者の取組みは今後、日本の通信事業者が日本において事業展開していくにあたっても参考になることが多いのではないだろうか。

ドイツ国民は福島原発以降、日本人が思っている以上に日本の原発問題やそれらに対する取組みに注目している。
 ドイツにとって電力は環境、原発問題と直結しており、そこにはドイツの戦前、冷戦期を通じた歴史、ドイツ国民の性質、文化など非常に奥が深いものであり、ドイツは国家をあげて脱原発、環境への取組みにあたっているが本稿では紙面の都合上、全体概要や歴史的経緯をだいぶ割愛しての紹介となってしまったことをご容赦頂きたい。

(参考)

【参考動画】
T-City紹介ビデオ

Vodafoneのスマートメーターへの取組み

*本情報は2013年5月8日時点のものである。
本稿は、小著『ドイツ通信事業者のスマートグリッド事業への取組み』(InfoComモバイル通信ニューズレター 2012年7月号 pp55-pp62)を元に大幅に加筆修正したものである。

※1 IWR(2013), Apr 18,2013, “Rekord: Wind- und Solaranlagen produzieren mehr Strom als konventionelle Kraftwerke”
http://www.iwrpressedienst.de/Textausgabe.php?id=4463

※2 Bloomberg(2008), Sep 23, 2008, “Alcatel-Lucent and Deutsche Telekom Launch Web User Interface” http://www.bloomberg.co.jp/article/2008-09-23/aSUB2A5vlBX0.html

※3 ABB(2010) Apr 14, 2010, “ABB and Deutsche Telekom to develop smart grid solutions” http://www.abb.com/cawp/seitp202/ba2522bf10ccb9cbc125770500287b71.aspx

※4 Deutsche Telekom(2010),Aug 24,2010,” Smart metering for Stadtwerke Emden”
http://www.telekom.com/media/company/69104

※5 Deutsche Telekom(2010)、Dec 21, 2010, “Deutsche Telekom and Stadtwerke Duisburg AG get the power grid of the future ready”
http://www.telekom.com/media/enterprise-solutions/14676

※6 Deutsche Telekom(2011), Feb 8,2013, “VOLTARIS and Deutsche Telekom conclude a million-euro contract over five years for intelligent energy network”
http://www.telekom.com/media/enterprise-solutions/14660

※7 Deutsche Telekom(2011), Sep 2, 2011, “Connected home: Telekom platform "Smart Connect" enables management of washing machines, heating and photovoltaic systems”
http://www.telekom.com/media/consumer-products/14852

※8 住友電工ネットワークス(2012)『Deutsche TelekomにHome Management Boxの納入を開始』(2012年1月9日)
http://www.sei-networks.com/news/press2012_0109_J.html

※9 Telecom paper(2012) Jun 19, 2012, “RWE selects Telekom for smart metering services” http://www.telecompaper.com/news/rwe-selects-telekom-for-smart-metering-services-2--879893

※10 Alcatel Lucent(2009) Dec 10, 2009,  “Vodafone and Alcatel-Lucent team up to develop smart metering in Germany”
http://www3.alcatel-lucent.com/wps/portal/!ut/p/kcxml/04_Sj9SPykssy0xPLMnMz0vM0Y_QjzKLd4x3tXDUL8h2VAQAURh_
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※11 Vodafone(2012), Jun 5, 2012, “Smart Metering: Vodafone nutzt Mobilfunk für eigenes Energiemanagement”
http://www.vodafone.de/unternehmen/presse/pm-archiv-2012_201632.html

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