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Global Perspective 2013
2013年5月15日掲載

「スマートフォン選択の基準は変わるか?」:iPhone版「LINE」での有料スタンププレゼント機能終了

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
佐藤 仁

LINEは2013年5月10日、iPhone版「LINE」で、有料スタンプを友人にプレゼントする機能の提供を終了したとLINE公式ブログで発表した(※1)。App Storeを運営するAppleからの要請を受けたためという。
 今回のAppleの要請によってiPhone版「LINE」では、「友だちへの有料スタンプのプレゼント」と「スタンプをプレゼントするために必要なコインの購入」の2つが出来なくなる。
 なお「無料スタンプのプレゼント」、「自分で利用するための有料スタンプの購入」、「Android版LINEユーザーの友だちから贈られたプレゼントの受け取り」はこれまで通り行うことができる。Appleが今回このような要請を行った理由と背景については述べられていない。
モバイルコミュニケーションのインフラにまで成長した「LINE」のようなメッセンジャーアプリとスマートフォンOSについて見ていきたい。

ユーザー数1億5,000万突破した「LINE」

LINEは2013年5月1日、無料通話・メッセンジャーアプリ「LINE」のユーザー数が4月30日時点で世界1億5,000万人を突破したと発表した(※2)。また、同社は5月9日には「LINE」事業の業績(監査未完了)を開示した。1〜3月期の売上高は58.2億円で、前四半期の10〜12月期から1.9倍に拡大している。

内訳はゲーム課金が約50%(約29億1,000万円)を占め、スタンプ課金が約30%(約17億4,000万円)で、地域別の売上では日本が約80%だった。同社では現在、スタンプ191種とゲームアプリ24種を提供している。日本、タイ、台湾では92の公式アカウントを開設しており、今後はアジア地域やスペイン、南米地域でのマーケティング強化と様々なコンテンツの提供を目指していくと述べている(※3)。

世界中でモバイルコミュニケーションのプラットフォームとなった「メッセンジャーアプリ」

日本では通信事業者が提供するメールが普及していたこと、通信事業者間でのSMSの相互接続性がなかったことから、SMSを利用する人は世界諸国と比較すると非常に少ないだろうが、世界での携帯電話でのコミュニケーションは音声通話(電話)とショートメッセージ(SMS)である。フィーチャーフォンが全盛の頃、モバイルでのコミュニケーション手段はほぼこの2つであった。スマートフォンが登場し、「WhatsApp」や「LINE」のようなメッセンジャーアプリが登場し、コミュニケーション手段が多様化し、さらにそれらメッセンジャーアプリが従来のSMSを凌駕しようとしている。

イギリスの調査会社Informa Telecoms & Mediaは2013年4月29日、メッセンジャーアプリでのメッセージ送受信数が2013年末にはショートメッセージ(SMS)の送信数の2倍になるだろうと発表した(※4)。同社によると、2012年1年間にメッセンジャーアプリでのメッセージ送信数は1日190億通で、SMSが1日176億通であった。調査の対象となっているメッセンジャーアプリは、「WhatsApp」、「BlackBerry Messenger」、「Viber」、「Nimbuzz」、「iMessage(アップル)」、「KakaoTalk」の6つである(※5)。つまり「LINE」、「Skype」、「WeChat」や「Facebook Messanger」などは含まれていないことから、実際にはメッセンジャーアプリでの送信数はもっと多いと想定される。

2013年末までには、メッセンジャーアプリでのメッセージ送信数は1日410億通になり、一方でSMSは1日195億通になるだろうと推測している(※6)。
SMSは世界中のほとんどの携帯電話で利用できる機能であるが、メッセンジャーアプリはスマートフォンでの利用が中心であることから、SMS利用者の方が全世界では圧倒的に多いことは言うまでもない。Informaによると、2012年にSMSを利用しているユーザーは世界で35億、上記6つのメッセンジャーアプリを利用しているユーザー数は5億8,630万とのことである。

またメッセンジャーアプリを利用しているユーザーは1日平均32.6通のメッセージを送信しており、SMSは1日平均5通である。メッセンジャーアプリは文章(テキスト)以外にも写真、スタンプなども送信できることから多いのだろう。またSMSのように1通ごとに料金が加算されていくことがないから、3GまたはWi-Fiでネット接続した環境下で多数のメッセージを送付しているのだろう。

世界最大のメッセンジャーアプリと言われる「WhatsApp」は1カ月のアクティブユーザーが2億人でメッセージは1日で80〜120億通が送受信されている(※7)。また2013年5月には「Viber」が2億ユーザーを突破したことを明らかにした(※8)。かつてIPベースのメッセージサービスは「Skype」が主流だったが、スマートフォンの登場とともに誕生した新たなメッセンジャーアプリがコミュニケーションのプラットフォームとなった。ユーザー数が1億5,000万を超えた「LINE」もその1つである。

「LINE」におけるスタンプ

話をまた「LINE」に戻す。Appleの要請によって、今回「LINE」では一部の機能をユーザーに対して提供できなくなってしまった。今回、サービス停止に追い込まれた「友達にスタンプをプレゼントする機能」は「LINE」の中でも使われている機能ではないだろうか。
LINEの売上の30%(約17億4,000万円)を占めるのがスタンプの販売であることから、「LINE」におけるスタンプの人気も伺える。「LINE」をいつも利用している人ならわかると思うが、デフォルトで入っているスタンプだけでは、メッセージのやり取りを何回もしていると飽きてしまう。送られてくる側の立場でも「またこのスタンプかよ」と思ってしまう。
「LINE」のスタンプショップには有料、無料の様々なスタンプがあり、有料でも100円程度でジュースを買うよりも安い。ユーザー心理として、ついつい購入してしまうのだろう。また筆者はインドネシアや台湾の友人らと「LINE」でメッセンジャーを送信するが、日本のキャラクターのスタンプを送信すると喜ばれるものである。

Appleの要請によるiPhone版「LINE」からのサービス削除はAppleにとってマイナスではないか?

iPhone版「LINE」のユーザーにとって「友だちへの有料スタンプのプレゼント」と「スタンプをプレゼントするために必要なコインの購入」の2つが出来なくなってしまった。これによって今まで「LINE」を使っていた人が「LINE」以外に移ってしまうことも考えられる。「WhatsApp」や「Viber」が優勢な諸外国ではそのようなこともあり得るかもしれない。しかし、日本では「LINE」が既に若者を中心にコミュニケーションのインフラになっている。むしろ、「LINE」を利用している若者がiPhoneから離れてしまうことはないだろうか。「iPhoneでは有料スタンプのプレゼントができないんだ」ということになると、iPhoneで「LINE」を利用している人に少なからず影響を与えるのではないだろうか。

iPhoneで「LINE」を利用しているユーザーは、次にスマートフォンを買い替える時はAndroidを選ぶかもしれない。つまり「LINEで友達に有料スタンプのプレゼント」できることがiPhoneを使い続けるよりもプライオリティになるかもしれない。

現在のスマートフォンではiPhoneであれ、Androidであれ利用しているサービスに大きな差異はない。「YouTubeで動画を見る」、「Facebook やTwitterでつぶやく」、「LINEでメッセージ送受信する」、「パズドラのゲームを楽しむ」等、スマートフォンで利用しているサービスは、「iPhoneでしか利用できないサービス」または「Androidでしか利用できないサービス」というのはそれほど多くない。多くのサービスがiPhoneでもAndroidでも同等の機能を提供している。

すなわち、ユーザーの観点からすると、Androidで利用できるサービスはiPhoneでも当然利用できる(同じ機能を搭載している)と考えるのではないだろうか。それが今回のAppleの要請によって、iPhone版だけ機能が欠如するということは、iPhoneにとっては不利でなり、ひいてはAppleにとってもユーザー離れの要因の1つになりかねない。

スマートフォンのOSを選択する基準は、そこで提供されるサービスになるか?

スマートフォンのOSごとに対応している機能や提供しているサービスが異なることはユーザーにとって使い勝手が悪くなってしまう。そしてユーザーがスマートフォンを選択する際に、それらのサービスに対応していないという理由で、そのスマートフォンを選ばなくなるかもしれない。
特にメッセンジャーアプリのように全世界でコミュニケーションのインフラになっているようなサービスにおいては、今回の「友達への有料スタンププレゼント」のようなユーザー同士でやりとりする機能は重要であり、「iPhoneではスタンププレゼントができないなら、LINEはやらない」ではなくて、「LINEでスタンププレゼントができないなら、iPhoneは使わない」になってしまう可能性もあり得る。

AppleにはAppleの方針があるだろうから仕方ないかもしれないが、今回のAppleのLINEへの要請による上記サービス終了に対して、今後iPhone版「LINE」を利用しているユーザーがどのような反応を示していくか注目していきたい。

ユーザーがスマートフォンを選択する際の基準と主導権はAppleやGoogleに代表されるOSを提供する企業ではなくなってくる可能性がある。OSを提供する企業はそこを見誤ってはいけない。

*本情報は2013年5月13日時点のものである。

※1 LINE公式ブログ(2013)2013年5月10日
http://lineblog.naver.jp/archives/26728317.html

※2 LINE株式会社(2013)2013年5月1日
http://linecorp.com/press/2013/0501551

※3  LINE株式会社(2013)2013年5月9日
http://linecorp.com/press/2013/0509552

※4 Informa Telecoms & Media(2013) , Apr 29, 2013, “OTT messaging traffic will be twice the volume of P2P SMS traffic by end-2013”
http://blogs.informatandm.com/12861/news-release-ott-messaging-traffic-will-be-twice-the-volume-of-p2p-sms-traffic-by-end-2013/

※5 GIGAOM(2013), Apr 29, 2013 “Chat apps have overtaken SMS by message volume, but how big a disaster is that for carriers?”
http://gigaom.com/2013/04/29/chat-apps-have-overtaken-sms-by-message-volume/

※6 Informa(2013) , Apr 29, 2013 “OTT messaging traffic will be twice the volume of P2P SMS traffic by end-2013”
http://blogs.informatandm.com/12861/news-release-ott-messaging-traffic-will-be-twice-the-volume-of-p2p-sms-traffic-by-end-2013/

※7 TechCrunch(2013) Apr 16,2013
http://techcrunch.com/2013/04/16/whatsapp-bigger-than-twitter-with-over-200m-monthly-active-users-8b-inbound-and-12b-outbound-messages-daily/

※8 Business Wire(2013) May 7,2013,  “Viber Releases Desktop Version – You’ll Want to Sit Down for This” http://www.businesswire.com/news/home/20130507005919/en/Viber-Releases-Desktop-Version-%E2%80%93-You

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