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Global Perspective 2013
2013年6月11日掲載

フランス:スマートフォン・タブレット税はフランスの文化振興になるか

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
佐藤 仁

2013年5月13日、フランス政府がスマートフォンやタブレットなどインターネットに接続する端末販売時に課税し、その税収を文化の振興策などに充てる「スマートフォン・タブレット税」の検討を開始したことを発表した(※1)。

フランス政府が検討している「スマートフォン・タブレット税」

ルモンドによると、フランス政府の委託を受けた専門委員会は2013年13日、スマートフォンやタブレットに課税する案をフランス政府(オランド大統領とフィリペティ文化相)に提言した(※2)。アップル、サムスンといったスマートフォンやタブレットを販売する企業や、Google、YouTube、Amazonなどオンラインコンテンツの主要な提供者をターゲットとしたものを中心に80項目に上る勧告を盛り込んだ約500ページの報告書「Contribution aux politiques culturelles à l'ère numérique (Contribution to Cultural Policy in the Digital Age)」を発表した。ピエール・レスキュール委員長を中心に纏めるのに9カ月かかった。
 その税収はフランス文化関連のコンテンツの創作活動にあてる計画である。フランスでは1980年代から文化コンテンツの主要な流通業者としてテレビ局やラジオ局、映画関連業者などに課税し、税収を創作活動の支援に充ててきた。しかしインターネットが普及し、現在は課税対象ではないGoogleやYouTube、Amazonなどがコンテンツ流通の主力になっていると主張している。フランスでは映画、音楽、書籍がインターネットという新しいチャンネルを通じて流通するようになり、文化産業への資金援助を保護する方策を見つけようとしている。
 同報告書ではスマートフォンやタブレットの販売価格に1〜3%を課税するよう求めた。税収は1 %の税率で年間8,600万ユーロ(約112億円)と推計している。

減少するフランスでの映画支援資金

フランスの映画産業は2012年、テレビ広告、有料テレビ、映画館入場料から7億4,900万ユーロの資金援助を受けた。しかし、映画を支援するためのこうした税金などは急成長するオンラインの動画サービスやアップルの「iTunes」などの海外のアプリストアには適用されていない。つまりテレビ広告収入が減少し、オンライン動画の視聴が増えているため映画産業への資金の提供は減少している。2012年の映画支援資金は前年比5.5%減少の10億7,000万ユーロだった。これは映画産業だけでなく他の文化創作活動分野での同様であろう。
 報告書では端末メーカーとコンテンツ提供者はその利益を顧客がダウンロードして鑑賞するコンテンツの制作者と分かち合うべきだと指摘している。フランスは以前から映画産業の支援を行っているため、世界でも最も多作の映画国の1つである。

(表1)フランスのコンテンツ市場規模

フランスでのビデオゲーム、ビデオ、音楽、書籍の市場規模(2012年)

78億4,000万ユーロ
(2002年は83億8,000万ユーロだった)

フランスの書籍市場規模

41億3,000万ユーロ
(うち電子書籍は2,100万ユーロ)

フランスのビデオゲーム市場規模

16億5,000万ユーロ

フランスのビデオ市場規模

13億ユーロ

フランスの音楽市場規模

7億ユーロ
(ストリーミングが5,000万ユーロ)
(2002年は20億ユーロだった)

(出典:LE MONDE)

フランスでの伸びるタブレット

調査会社ゼニスオプティメディアが2013年2月に発表した調査によると、2015年のフランスのタブレット端末普及率は45%に達する見込み。2012年でスマートフォン、スマートテレビ、タブレットなどのシェアを合わせると、フランスでのタブレット端末の普及率は35.7%に達した。また、仏調査会社メディアメトリが2013年6月3日に発表した調査によると、タブレット端末を保有するフランスの世帯数は2013年第1四半期に510万世帯に上った。前年同期の220万から大幅に増えた。世帯普及率は18%を超えた。市販されている端末の幅が広がり、価格が安価になったことがフランスでのタブレット普及を後押ししている。同社によると、「今後6ヵ月以内にタブレットかパソコンを購入する」と答えた世帯は240万世帯(全体の10%近く)に上っており、購買意欲は衰えていない。タブレットを保有する世帯の世帯主は50歳以下の男性が多く、パソコン保有世帯と比べるとより大人数の世帯が多いそうだ。一方、第1四半期のパソコン所有世帯数は2,140万に上った(普及率は77%)。うち3分の2がノートパソコンを保有している。パソコンを2台以上保有する世帯は880万に上った。

60%以上がテレビ見ながらネットにアクセス

フランスの通信会社SFRなどが2013年3月に行った調査によると、フランスのインターネットユーザーのうち35%が、毎日テレビを見ながら他の端末(パソコン、スマートフォン、タブレット)を使用すると回答した。また、1週間に一度はそのような使い方をする人も含めると、「ながら派」は全体の60%に上った。そのようなことは決してしないと答えた人は21%だった。使用する端末としては、パソコンが87%(「ながら派」の中で使用したことがあると答えた人の割合、以下同じ)でもっとも多く、これにスマートフォンが65%、タブレットが29%で続いた。年齢別では、35〜49歳の層で「ながら派」が最も多かった。また、「ながら派」の63%は、テレビで見ている番組とはまったく関係がないことで他の端末を使用すると回答しておりメール、ウェブ閲覧、ゲーム、ニュース閲覧が多かった。テレビ広告が減少したとはいえ、フランスではテレビとネット接続が併用され、同時(テレビを見ながらネット)に利用されているようだ。

拡大するインターネットと文化振興の両立を目指して

たしかにフランスではスマートフォン、タブレットが個人の生活や家庭でも浸透してきている。サムスンの端末が人気あり、多くのフランス人が利用している。そしてそれら端末でインターネットにアクセスし動画を閲覧したり、音楽を聴くことによってテレビを見なくなっているのかもしれない。それによって税収が減り、フランスの映画支援資金が減少しフランスの映画産業が衰退していくことに対して、フランスは新しい税収として「スマートフォン・タブレット税」に着目し、そこで活躍する主要な端末メーカーやアプリ提供者から徴収することに目をつけたのだ。

フランスで検討が開始された「スマートフォン・タブレット税」は本当に導入されるのだろうか。そしてそれらの税収がフランスの文化促進を助けることになるのだろうか。スマートフォンやタブレットの急速な普及によってインターネットでの動画閲覧が増えることによって、そこから新たな税収を確保してフランスの文化振興の一助となるのだろうか、引き続き注目が必要である。

【参考動画】

*本情報は2013年6月10日時点のものである。

※1 Ministère de la Culture et de la Communication(2013) may 13,2013, “Culture-acte 2 : 80 propositions sur les contenus culturels numériques” (フランス語)
http://culturecommunication.gouv.fr/Actualites/A-la-une/Culture-acte-2-80-propositions-sur-les-contenus-culturels-numeriques

※2 LE MONDE (2013), “Rapport Lescure : taxer les smartphones pour sauver l'exception culturelle française » (フランス語)
http://www.lemonde.fr/economie/article/2013/05/13/rapport-lescure-taxer-les-smartphones-pour-sauver-l-exception-culturelle-francaise_3176247_3234.html

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