ホーム > Global Perspective 2013 >
Global Perspective 2013
2013年7月2日掲載

インド:Wi-Fiは「点」から「面」へ

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
佐藤 仁

携帯電話加入者が8億7,000万を超えた人口12億人のインドにおけるWi-Fi(公衆無線LAN)提供の動向について見ていきたい。

長距離電車でのWi-Fiパイロット

2013年4月からインドの首都デリーを出発する「Howrah Rajdhani Express」でWi-Fiサービスの提供をトライアルで開始したことを発表した(※1)。この電車はエアコン付きの車両で、デリーから西ベンガルまでを17時間〜24時間かけて運行する。
 トライアル期間、ユーザは無料で上り512Kbps、下り最大4Mbps のWi-Fiが利用できる。今回鉄道省は3台の車両に6,300万ルピー(約1億710万円)をかけてWi-Fiを搭載した。現在ユーザはこれらの車両ではWi-Fiを無料で利用できるが、電車へのWi-Fi導入も決して安くないことから商用化された際の料金は不明である。鉄道省では、「Rajdhani」の他に「Shatabdi」「Duronto」でも車内でのWi-Fiサービスを提供する予定である。

 

(図1)Wi-Fiを搭載した「Howrah Rajdhani Express」の車両

(図1)Wi-Fiを搭載した「Howrah Rajdhani Express」の車両

バンガロールのメインストリートでの無料Wi-Fi

2013年4月、カルナータカ州政府はインドのシリコンバレーと言われている同州の州都バンガロールの2つのメインロードである「Mahatma Gandhi Road」と「Brigade Road」において無料Wi-Fiのパイロットサービスを開始した。バンガロールにあるISP「D-VoiSha」がサービスを提供している。2013年10月まで実施予定であるが、商用化は未定である。現在、ビジネスモデルについて検討をしているとのことである。インドではホテルやレストラン、コーヒーショップ、空港など多くの場所でWi-Fiスポットがあるが、同州ではインド初の公共道路沿いでのWi-Fi提供を目指していきたいとのことである。

(図2)バンガロールのWi-Fiスポットを表示するサイト

(図2)バンガロールのWi-Fiスポットを表示するサイト

(出典:wificafespot.com)

点から面へのWi-Fiへ

インドではスマートフォンやタブレットなどでインターネットに接続する際には無料のWi-Fiスポットを利用することが多い。レストラン、コーヒーショップなど無料(または安価)でWi-Fiを提供しているスポットが多い。携帯網は3G網が完備されているとは限らないので、よくGPRS網にハンドオーバーしてしまい、快適なアクセスができないことがよくあるがWi-Fiはそのスポットではそのような心配も少ない。また無料(または安価)で提供していることが多いから、費用を気にせず使えるという利点もある。日本のようにあらゆる場所で3GやLTEに接続できる環境とは大きく異なるのだ。

一方で、今までインドでWi-Fiが利用できる場所はそれぞれのスポットごとだった。すなわち、「点」としてのWi-Fiスポットであり、Wi-Fiを提供しているコーヒーショップを出てしまうと、繋がらなくなってしまうということが多かった。

今回の長距離電車や公道のような広範囲に渡るエリアでの「面」としてWi-Fiが提供されることによって、どこでもインターネットに接続できるということから利便性が向上するであろう。特に電車で長時間の移動中にWi-Fiが無料で利用できることはユーザにとって非常にありがたいことであり、多くのユーザがWi-Fiを利用してインターネットにアクセスすることだろう。

まだまだWi-Fiが伸びる余地の多いインド

インドでは携帯電話の加入者数が約8億7,000万(人口普及率:約72%)であるが、3G加入者数は約4,000万(人口普及率約3.3%、携帯電話加入に占める割合約4.6%)しかいない。

一方で、携帯電話からのインターネットアクセスは約8,700万(2013年1月、IAMAI調査)で、2015年までにはインドでの携帯電話からのインターネットアクセスは約1億6,500万になると予測されている。3Gに契約している4,000万が全員インターネットにアクセスしていたとしても、50%未満であるから半数以上がGPRS網、LTE網またはWi-Fiなどを活用してアクセスしている可能性が高い。

インドでは中古、新品ともにスマートフォンの利用が急速に普及している。アメリカの調査会社Stragegy Analyticsが発表した2013年第1四半期のインドのスマートフォン利用者数が日本を上回り、中国、アメリカに続く世界第3位になったことを明らかにした(※2)。

現在でも多くのインド人がスマートフォンを利用しているが、挿入されているSIMカードはGSM(2G)のプリペイドSIMカードで、インターネットにアクセスする時は、Wi-Fiでアクセスするという利用が主流である。今後インドにおいて「点」から「面」へWi-Fiスポットが拡大していくことによって、スマートフォンの普及にも拍車がかかるだろう。

「面」で提供されるWi-Fiによって、いつでもどこでもインターネットに接続できる環境にいるとコミュニケーション手段も通信事業者が提供するSMS(ショートメッセージ)から「WhatsApp」や「LINE」のようなメッセンジャーアプリに変わることも多いに考えられる。人々の生活も大きく変化するだろう。そうなった時、3GやLTEを提供している通信事業者はどのような戦略を採るだろうか、注目していきたい。そしてこれはインドだけでなく、多くの新興国において共通であろう。

【参考動画】

*本情報は2013年7月1日時点のものである。

※1 Ministry of Railways(2013) Apr 2, 2013, “Pawan Kumar Bansal Launches Wi-Fi Facility on Howrah Rajdhani Express Train ”
http://pib.nic.in/newsite/erelease.aspx?relid=94400

※2 TechCrunch(2013) Jun 26, 2013 “India Passes Japan To Become Third Largest Global Smartphone Market, After China & U.S.”
http://techcrunch.com/2013/06/26/india-third-in-smartphone-world/

このエントリーをはてなブックマークに追加
▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。