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Global Perspective 2013
2013年7月8日掲載

「Firefox OS」が狙う新興国のスマートフォン市場

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
佐藤 仁

スペインTelefonica は2013年7月1日、同社の公式ブログにてMozillaが2012年7月に発表したモバイルOS「Firefox OS」を搭載した初のスマートフォンである中国ZTE製「ZTE Open」が7月2日から発売されることを明らかにした(※1)。価格は2年契約付きで69ユーロ(約9,000円)で販売する。プリペイドの場合は30ユーロ分の通話料付き、ポストペイドの場合は24カ月(2年)契約で月2.38ユーロ(2年で57.12ユーロ)の支払いとなる。Firefox OSを搭載した端末は新興国をターゲットにしていると言われている。

ついに商用化された「Firefox OS」搭載スマートフォン

Firefox OSは、MozillaのオープンモバイルOS「Boot to Gecko(B2G)」をベースとしたオープンソースのモバイルOSである。Firefox OS搭載スマートフォンとして2013年2月には「Keon」と「Peak」がリリースされたが、これらは開発者向けで一般消費者向けに販売は行われなかった。一般消費者向け販売は、今回の「ZTE Open」が世界初となる。

ZTEのほかにソニー、Alcatel Mobile Phones(中国TCL Communication Technologyと仏Alcatel-Lucentの合弁企業)、中国Huawei、韓国LG、台湾Foxconn Technology Groupが製造を発表しており、日本ではKDDIが発売する予定である。他にも以ドイツテレコムやチャイナ・ユニコムなどの通信事業者も発売を予定している。

(図1)Firefox開発を行う予定のメーカーおよび発売を予定している通信事業者
(図内にはないがオーストラリアの通信事業者Telstraも発売を検討している)

(出典:Mozil1a)

「Firefox OS」を搭載した「ZTE Open」は3.5インチディスプレイでRAMは256Mバイト、ストレージは512Mバイト(4GバイトのmicroSDカード付属)、320万画素カメラ搭載であり、新興国市場をターゲットとするにはハイエンドな端末である。Telefonicaはスペイン市場以外に、コロンビアやベネズエラなど自社が事業を展開している中南米諸国でも販売を予定している。

(図2)Firefox OSを搭載した「ZTE Open」

(出典:Telefonica)

新興国のスマートフォン市場の特徴

「Firefox OS」を提供しているMozillaは同OSを搭載したスマートフォンのターゲットを新興国としている。「Firefox OS」を迎える新興国のスマートフォン市場を見ていく。

(1) 最大のライバルは中古スマートフォン端末
  新興国市場ではフィーチャーフォンの時代から中古端末が大量に流通している。それはスマートフォンになっても同じである。2007年から販売されていたiPhoneは初期の端末は中古品として大量に新興国市場で流通している。「iPhone 4」や「iPhone 4S」も大量に中古品となっていることから、「iPhone 3G」はかなり安く入手することができる。Android OSのスマートフォンも状況としては同様である。そして多くの中古端末が流通していることから、若者を中心に多くの人が中古端末を購入して利用している。iPhone(Apple)やサムスン、ソニーといったグローバルブランドのスマートフォンが中古品として流通しており、人気を博していることから、そこに新たに登場した「Firefox OS」を搭載した端末が新品として登場した時、中古端末と価格で勝負をしなくてはならないだろう。

(2) 台頭する地場メーカー
  スマートフォンも携帯電話もコモディティ化している現在では新興国でも多くの地場メーカーがAndroidのスマートフォンを開発、販売している。世界的なブランド力はないが、地元では広告・宣伝活動を行い、販売網を確保し、それなりのプレゼンスを確立しているメーカーが多い。例えばインドのMicromax、インドネシアのMitomobileやNexian、フィリピンのCherry Mobile、アフリカ市場におけるMi-Foneなどである。現地で製造・販売する地場メーカーは価格面やマーケティング面で優位にある。
Androidスマートフォンも新品で安い端末約2,000円から購入可能であり、5,000円も出せば現地としては相当に良い端末が入手可能である。そのような地場メーカーの廉価なスマートフォンに慣れている人にとってはスマートフォンの出荷台数が世界4位のZTEの69ユーロ(約9,000円)の端末はハイエンドで高級品に思われる。新興国のメーカーが「Firefox OS」を搭載した端末の開発着手し、廉価で販売してくれることが、新興国において「Firefox OS」が普及するにあたって重要となるだろう。

(3) 機能、アプリケーションでの差別化は難しい
  これは新興国だけに限ったことではないが、iPhoneにせよAndoridにせよスマートフォンで利用している機能は、音声通話(電話)とメッセージ(SMS)が中心で、それ以外は「WhatsApp」や「LINE」のようなメッセンジャーアプリ、「Facebook」や「Twitter」のようなソーシャルメディア、「YouTube」のような動画、「パズドラ」のようなゲームが利用されており、これらアプリケーションはiPhoneやAndroidでも利用可能であり、専用のOSでないと利用できないというものはほとんどない。つまりどのようなOSであれ、人々が利用している機能、アプリケーションはほとんど同じなのだ。OSに特化した機能やアプリケーションで差別化することは難しい。むしろ例えば「いつも使っているWhatsAppが使えない」というのでは利用者はそのOSを選択しなくなる。

新OSにとって一番重要なのは市場での受容

端末メーカーにとって新たなOSを搭載した端末を開発、試験して販売することは相当な人的、資金的リソースを要することになる。それらリソースをかけてでも新OSで端末を開発しようという魅力が「Firefox OS」にあるかどうかも重要である。その魅力とは市場で受け入れられるかどうかである。すなわち多くの一般消費者が「Firefox OSを買いたい」と思って購入してくれるかどうかである。いくらメーカーが良い製品をリリースしても市場で受け入れられなければ意味がない。今後「Firefox OS」がスマートフォン市場でどのような位置付けとなるのか、引き続き注目していきたい。

【参考動画】

*本情報は2013年7月5日時点のものである。

※1 Telefonica(2013), Jul 1,2013 “Telefónica, Mozilla and ZTE to launch Firefox OS in Spain on 2 July”
http://blog.digital.telefonica.com/?press-release=telefonica-mozilla-firefox-os-zte-open-spain

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