ホーム > Global Perspective 2013 >
Global Perspective 2013
2013年7月24日掲載

新たな端末開発スタイルとしてのクラウドファンディング

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
佐藤 仁

Linuxディストリビューションの1つである「Ubuntu OS」の開発・支援を行っているイギリスのCanonicalは2013年7月22日、UbuntuのモバイルOSを搭載するコンセプト端末「Ubuntu Edge」の開発に向けてクラウドファンディング・プロジェクトをIndiegogoで立ち上げた(※1)。

クラウドファンディング(crowd funding)で資金集め

クラウドファンディング(crowd funding)とは不特定多数の人がインターネットを経由して他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うことを指し、特定のプロジェクトやベンチャーの資金調達を行うために、多くの人々から少額の寄付を通して出資を集めるために活用される。群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語。日本語では「クラウド」と書くとクラウド・コンピューティングで使う「雲」を表す「クラウド(cloud)」と混乱しそうだが「cloud(雲)」ではなく「crowd(群集)」である。

目標は1か月で3,200万ドル

Canonicalが設定している目標金額は3,200万ドルで4万台の 「Ubuntu Edge」端末の製造を目指す。830ドルの出資者は2014年5月に「Ubuntu Edge」端末を入手できる予定。いわゆる「出資の見返り」である。また7月24日午前0時まで先着5,000人は600ドルで入手できる。固定額方式なので31日以内に3,200万ドルに達しなければ何も得られない。つまり1日100万ドル以上の資金を集めなければならない。

他にも以下の出資と見返りのパターンがある。

プログラム 出資金額 見返りパターン
Founder 20ドル
(約2,000円)
サイト内で名前の紹介。「Ubuntu Edge」端末開発プロジェクトの最新情報の入手。寄付に近い。
Ubuntu Edge 830ドル
(約83,000円)
「Ubuntu Edge」端末を2014年5月に1台入手。
Double Edge 1,400ドル
(約140,000円)
「Ubuntu Edge」端末を2014年5月に2台入手。
One of a Kind 10,000ドル
(約1,000,000円)
「Ubuntu Edge」端末を2014年4月に50台入手。
Enterprise 100 Bundle 80,000ドル
(約8,000,000円)
「Ubuntu Edge」端末を2014年4月に100台入手。

(Indiegogoを元に筆者作成)

(図1)「Ubuntu Edge」開発に向けたファンディングサイト

(出典:Indiegogo)

スーパーハイエンド端末「Ubuntu Edge」

「Ubuntu Edge」は830ドル(約83,000円)と端末としては高価である。Canonicalは、今回の「Ubuntu Edge」の目的は「新しいテクノロジーを採用し、それらの先端技術の普及の下地を作ること」としており、同端末のターゲットは「度なマニアやモバイルコンピューティングのプロ」と設定している。そして「高度な技術を盛り込んだ非大衆的なプラットホーム」とアナウンスしている。

現在発表されているスペックとして、プロセッサは「最速のマルチコア」で最低でも4GバイトのRAM、128Gバイトのストレージを搭載。ディスプレイは4.5インチ(1,280×720)でサファイアクリスタルを採用し傷つき難い。カメラは800万画素と200万画素の2台、バッテリーには容量を拡大できる「シリコンアノード技術」を採用する。筐体はアモルファス金属製で、サイズは64×9×124ミリ。GSM/3G/LTEに対応予定(、周波数帯は不明)。SIMフリーで提供される予定。近距離無線通信(NFC)、Bluetooth 4.0にも対応する予定。コンピュータまたはモニターにHDMIケーブルで接続して、デスクトップのUbuntu OSと同じようにも使用できる予定。
 OSはAndroidと Ubuntu の両方を搭載する。Androidに対応することで、従来のスマートフォン向けのアプリを活用できる。

【参考動画】Ubuntu Edge

新しい端末開発モデルとしてのクラウドファンディング

今回Canonicalが「Ubuntu Edge」端末を開発するために、その端末を入手したい人に開発の資金を出資してもらい目標額に到達したら開発を行い、登場した端末を出資者に提供するというのは、端末開発においても新しい試みである。

現在、スマートフォンはコモディティ化しており、グローバルメーカー以外にも新興国の地場メーカーなどあらゆる企業が開発している。そのような中で、メーカーがスペックを提示し、その端末を欲しい人に出資してもらい、目標額に到達したら開発して成果物を出資者に提供するという開発スタイルは興味深い。出荷する台数も少数(今回の「Ubuntu Edge」は4万台)であることから、新しい物好きのマニアにとっては貴重な端末として重宝されるのではないだろうか。本当にその端末が欲しい人以外は出資することはないだろう。例えばAndroidを搭載したサムスンの「Galaxy S」シリーズは累計で1億台以上出荷されており、現在では新興国の中古端末市場でよく見かけるようになった。ハイエンド端末でも「どこにでもある端末」よりも、「自分が欲しいから出資して開発した端末」の方が端末に対する愛着も違うだろう。

スマートフォンは筺体のデザインで差別化を行うことは難しいし、技術は日進月歩で発展している。「Ubuntu Edge」も近い将来には普通の端末になってしまうだろう。端末開発に向けた出資としてのクラウドファンディングという方式は今後の端末開発を変えるかもしれない。「欲しい端末は有志が集まって出資して開発してもらう」という新たな端末開発のスタイルが登場するかもしれない。日本の端末メーカーにとっても検討の余地があるかもしれない。

(参考)

【参考動画】

*本情報は2013年7月23日時点のものである。
また本レポートはCanonicalの「Ubuntu Edge」開発に向けた取組みを伝えるものであり、寄付を強要するものではありません。

※1 Indiegogo(2013)
http://www.indiegogo.com/projects/ubuntu-edge

このエントリーをはてなブックマークに追加
▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。