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Global Perspective 2014
2014年9月26日掲載

TRANSCOM(米輸送軍)への中国からのサイバー攻撃:民間インフラの重要性

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
副主任研究員 佐藤 仁

アメリカの上院軍事委員会は2014年9月17日、アメリカの輸送軍(TRANSCOM)が契約している複数の民間企業が2012年6月〜2013年5月までの1年間で約50回のサイバー攻撃を受けていることを発表した(※1)。そのうち20回は中国政府と関係あるハッカー(Hackers associated with the Chinese government)からの攻撃であると表明している。そして、その20回の攻撃のうち輸送軍が把握していたのは2件のみだった。

またレポートでは中国軍や政府が輸送軍の契約企業や民間船舶のシステムに侵入しメールやパスワード、フライトスケジュールなどの情報摂取が行われた事例を提示している。アメリカ輸送軍は、アメリカ軍における統合軍の1つで、平時戦時を問わず、全世界でアメリカ軍の兵站・輸送(ロジスティック)に関する作戦指揮を統括的に担当している。そこへのサイバー攻撃によって情報摂取されることは、クリティカルな問題である。

そして、今回のアメリカ上院軍事委員会の発表を受けて、中国外務省はいつものように「アメリカこそ攻撃をやめよ」と反論した(※2)。洪磊副報道局長は9月18日の記者会見で、「中国政府と軍は決してハッカー行為を支持しない。米側の非難に根拠はない」と批判した。 米中のサイバー攻撃はいつも「やられた」「やっていない」の舌戦を繰り広げている。

民間インフラへのサイバー攻撃とサイバー戦争

情報通信技術の発展とともに、多くの情報通信技術を活用した民生品が安価に登場してきた。さらに民間インフラもサイバースペースに大きく依存するようになった。軍や安全保障に関わる兵器、組織だけでなく、それらが電力、通信、鉄道、金融機関など様々な民間インフラもサイバースペースに依拠するようになった。サイバースペースの脆弱性を突いた攻撃はかつての軍のシステムだけに止まることがなくなり、民間インフラもサイバー攻撃の対象になった。

つまり、軍で利用している電気、ガス、水道、電話、ロジスティックは民間で利用しているインフラと基本的には同じものを利用している。たとえば民間インフラの電力をサイバー攻撃によってシステム破壊を行うことによって、軍や指揮中枢の業務に影響を与えるだけでなく、社会インフラとしての電力が停止することによって、一般人が生活する社会や経済活動も混乱やパニックに陥り、多大な影響を与える。その効果は軍の施設を狙った攻撃に匹敵するくらいのインパクトを敵国にもたらしかねない二重の脆弱性を持っている。これがサイバー戦争と言われるものである。

先進国や大国はサイバースペースに依存し、日常的にサイバー攻撃にも晒されているから、サイバースペースを防御する必要がある。サイバースペースを防衛することは社会秩序維持を保つうえでも、安全保障の観点からも重要である。ナイはこのような脆弱性から守るために、重要インフラはインターネットへの接続を減少する方法を提案している(※3) 。但し、現在のサイバースペースに依拠した現代社会では非現実的であるため、このような議論は極論である。

これからも個人の生活、社会経済、安全保障分野でのサイバースペースへの依拠は強くなることは間違いない。サイバースペースの脆弱性を突いた攻撃がサイバー攻撃であることから、これからもますますサイバー攻撃の脅威は増大してくる。サイバースペースの防衛は個人、企業だけでなく国家の安全保障にも大きな影響を与える。

【参考動画】

*本情報は2014年9月20日時点のものである。

※1 17 Sep 2014, “SASC investigation finds Chinese intrusions into key defense contractors”
http://www.armed-services.senate.gov/press-releases/sasc-investigation-finds-chinese-intrusions-into-key-defense-contractors
レポートは以下からダウンロード可能
http://www.armed-services.senate.gov/download/sasc_cyberreport_09-17-14

※2 産経ニュース(2014) 「中国外務省「米国こそ攻撃やめよ!」
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140918/chn14091817500008-n1.htm

※3 ※1 ジョセフ・S・ナイ著、山岡洋一訳『スマート・パワー:21世紀を支配する新しい力』日本経済新聞社、2011年 p192

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