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Javaで始まるモバイル・インターネット新世紀
〜NTTドコモ、いよいよ携帯電話Javaを始動〜

 NTTドコモは2001年1月26日から、Java搭載のiモード携帯電話向け新サービス、「iアプリ」の提供を開始すると発表した(2001年1月18日)。いよいよモバイル・インターネットは新世紀に突入することとなる。Javaの歴史とモバイル・インターネットの現状を踏まえて、携帯電話へJavaを搭載することの意義などついて考察する。

1 Javaの歴史と小型機器との融合
 そもそもJavaとは1995年に米サン・マイクロシステムズ(Sun Microsystems)が発表したプログラム言語の名称である。これまでのプログラム言語と比較して、JavaはハードウェアやOS環境を意識せずにプログラム作成できるという特徴がある。「Write Once, RunAnywhere.」(一度書いたらどこでも動く)と言われるように、一度作成したJavaプログラムはJavaVMというJava実行環境を搭載する機器ならどんな機器でも動作するため、ソフト開発者にとっては開発の効率化がはかれ、また幅広い対象機器に適応できるため、絶えず注目をあびてきた。

 Java言語が開発された当初の目的は、小型機器に適したプログラム言語の開発であったが、米国のインターネット・ブームに歩調を合わせる形でパソコンを意識したアーキテクチャーに変質していった。その結果サーバ・サイドではその地位を確立したが、クライアント側などではJavaプログラムの実行速度や転送速度などの問題、さらには代替技術の登場などにより存在価値が薄れつつあった。そこでサンはJava言語の地位向上を図るため、パソコンに留まらず、あらゆるデバイスへJava実行環境を提供する戦略に転換した。その中でも特に注目されたのが当初の目的であった小型機器への組み込み用アーキテクチャーの確立である。 1999年に発表されたJ2ME(Java2 Platform, Micro Edition)がそれである。2000年に入りさらに現実的な形として定義された(図表1) 。基本的な性能要件が類似したデバイスカテゴリ毎にコンフィグレーションが定義され、さらに特定の分野、業種毎にプロファイルが定義された。これらを組み合わせて構成することにより、性能や目的が異なるあらゆる小型機器にJavaを搭載することが格段に容易となったのである。この結果いよいよ本格的に小型機器、携帯電話へJavaの搭載が検討され始めることとなった。

図表1

 

2 モバイル・インターネットの現状と問題点
 一方、移動通信業界では数年前から、迫り来る通話ベースの市場飽和に備えてデータ通信への移行が検討されてきた。このような状況で登場してきたモバイル・インターネットであったが、日本を例外として世界中で未だ黎明期となっているのが実状である。失敗要因には様々な分析結果があるが、その一つとして魅力的なコンテンツの不足が頻繁に取り沙汰されている。また唯一成功している日本でさえも、携帯電話を用いたインターネットは拡張性が低い、という不満が大きくなりつつある。携帯電話では、簡易ブラウザによる簡易なWebページへのアクセスしか不可能のため、コンテンツ提供者にとっては極めて限られた表現によるサービスしか提供できない状況にある。また操作性にも大きな問題がある。そもそも数字キーによる入力操作のため操作性が悪い上に、入力処理の都度サーバへのアクセスが必要となるため、ユーザー情報の処理が必要なサービスでは、ユーザーの操作負担は多大である。よって簡素かつ単純な情報をトリガーとしたサービスしか提供できないでいる。このように世界中で、魅力的なコンテンツを取り扱いたいという要望が膨らみ始めている。そのためには高速インフラの整備も重要ではあるが、やはり携帯電話というプラットフォーム自身が進化することが重要視されている。しかしこれを解決するのは容易なことではない。なぜなら携帯電話機は「携帯性」という特性を保持するために端末サイズがどうしても制限されてしまい、自ずとメモリーやバッテリの性能も低くなってしまうためである。現状のハード要件では魅力的なコンテンツを表現できるソフトウエアの実装は困難である。

 

3 Javaを携帯電話へ搭載するメリット
 携帯電話の機能や表現力を向上させるためには「小さなCPUやメモリー、バッテリ」でも動作し、かつ豊かな表現力をもつ「小さなフトウエア」を携帯電話に組み込むことが必須である。しかし一般的なソフトウエア開発言語は、そのほとんどがパソコンによる利用を前提としており、要件を満たさない。これを満たしていたのがJava(J2ME)である。Javaの特性が、「携帯電話の限られたハードウェアスペックで機能を充実させたい」という目的に見事に適合したのである。

(1)搭載するプラットフォームの親和性
 サンが提供したJ2ME(KVM、CoreAPI)という小さなプラットフォームは、数キロバイトのメモリでも軽快に動作し、かつグラフィカルな表現を可能にするものであった。携帯電話用APIも準備されており、携帯電話に最適化されたプラットフォームとして確立されつつあった。

図表2

(2)ネットワーク経由で好きなときに好きなプログラムが取り込める
 通常のパソコン用プログラムは、あらかじめプログラムが記憶されているコンピュータでのみ利用可能である。よって何かプログラムを利用したいときは、使いたい機器ごとにプログラムをインストールして、使える環境を事前に準備しておく必要がある。しかし、Javaプログラムは、必要なプログラムをインターネットなどのネットワークを通じて取り込み、その場で実行可能なのである(図表2)。この応用で、たとえば自分のJavaプログラムをネットワークを通じてほかのパソコンなどに送り、そのパコン上で実行させる、ということも可能となる。こういった「ネットワークを経由してプログラムを組み込み利用する」という使い方が、Javaの最も特徴的なところであり、携帯電話のようなメモリが小さな機器の利便性を飛躍的に向上させることが可能となる。

 

4 実際の携帯電話Javaによるサービス
(1)実装されるJava実行環境
 携帯電話へのJava搭載は、日本ではNTTドコモが先陣を切った。ドコモの実サービスを眺めてみると、iモードの拡充としての位置付け、すなわちモバイル・インターネットの拡充であることを明確に打ち出している。Javaアプリケーションとは言わず「iアプリ」とサービス名が命名されていることからも伺える。また、実際の実装されたJavaも、世界標準を意識しているものの、実際は正にiモード用Javaとして改良を加えて実装されている。すなわち、標準的なJ2ME(CLDC)をベースとしながら、その上にiモード固有の機能(GUI、通信、日本語処理 等)が追加されてる(図表1)。 (2)Javaで実現する機能

iモードJavaにおいては、ダウンロードしたJavaアプリケーションやアプリケーション上で作成したデータを携帯電話内部に保存することが可能となった。すなわち購入時の携帯電話の機能だけでなく、ネットワークなどから経由してアプリケーションを入手することで自分の好きな「機能」を新たに「追加」することが可能となったのである。またマルチメディアデータもサポートしており、Javaアプリケーションと連動した動的な表現(GIFアニメ、音楽)も可能となった。しかし携帯Javaの最も特徴的な機能は、エージェント機能の登場である。アプリケーションの自動起動をサポートすることで、一定時間毎に自動的にアプリケーションが起動され、自らサーバに情報を取得しにいく、といったエージェント(代理人)機能が実現する。

図表3

(3)Javaプログラム(コンテンツ)
 以上の機能をフルに生かし、10kbyte以下という厳しい制限ながらも、従来のHTMLベースのコンテンツでは考えられないような魅力あふれる動的なアプリケーションが登場している。

▼スタンドアローン型アプリケーション...<b携帯電話の一つの大きな進歩といえるのがこのスタンドアローン型アプリケーションである。オフラインでも動作するアプリケーションが携帯電話上で実行できる。
・表現力の向上
Javaプログラムを取り込めば時計をグラフィカルに変更できる
 絵柄2 絵柄3
・オフラインでもプログラム活用
オフラインでグラフィカルなゲームが実行可能となった。また電車検索などのこれまでのサービスがローカルでも 活用可能となる。

▼クライアントサーバ型アプリケーション...普段はオフラインで携帯端末内で操作を行い、その都度結果をサーバに残したり、他のユーザとサーバ経由でリアルタイムで通信するタイプ(ネートワーク対戦ゲームなど)などが登場する。
絵柄4
・ネットワーク経由でゲーム
ネットワーク機能を利用して、インターネット越しに見知らぬ相手とゲームが可能に。

▼エージェント型アプリケーション...前述のとおり、Javaアプリケーション自身が一定時間間隔ごとに自動起動してサーバに情報を取りに行ったり、一定時間後に何らかのアクションを起こす。
絵柄5
・エージェント型アプリケーション
株価チャートや天気予報図が自動更新される。

 

5 携帯電話Javaの今後の展開
 Java搭載により端末のプラットフォームとしての価値は向上した。しかし現段階ではあくまで進化の序章に過ぎない。なぜなら、Javaとはネットワーク経由で取り込んでくるJavaプログラムが産み出す「サービス」の価値が重要であるが、現状の低速インフラではリッチなJavaプログラムを伝送することは実質的に困難なため、あくまで簡素なサービスでのスタートとなるからである。従って、2.5世代や第3世代インフラの時代に突入したとき、よりリッチなJavaサービスが展開され始め、そこで初めて携帯電話Javaの真価が問われることとなるであろう。

 

竹上 慶(入稿:2001.2)


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