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Java対抗プラットフォーム
―米クアルコムの「BREW」―

 CDMAを開発した米国のクアルコムが、2001年1月31日にJavaの対抗となるCDMA方式携帯電話向けアプリケーション開発プラットフォーム「BREW(Binary Runtime Environment for Wireless)」を発表した。

 このクアルコムが開発した「BREW」は、プログラム言語であるC言語及びC++言語で記述したプログラムをインターネット上のウェブ・サーバーに置き、CDMAネットワーク上で提供されているモバイル・インターネット・サービス(日本の場合auの「EZweb」)を利用して対応移動機に直接ダウンロードし、実行できるようにする。BREWにおけるプログラム容量は、100kbyte未満であり、現在NTTドコモが提供している「iアプリ」のプログラム容量の10倍である。このBREWプラットフォームは、アプリケーション開発者が利用する「BREWソフトウエア開発キット(BREW SDK:BREW Software Development Kit)」、携帯電話事業者向けのサーバー・ソフトウエア「QIS(QUALCOMM Internet Service)ミドルウエア」、端末に組み込むBREWのAPI(Application Programming Interface)「BREWポーティングキット」とクアルコムがCDMA携帯電話用に開発したLSIに搭載するシステム・ソフトウエア「ワイヤレス・インターネット・ランチパッド(Wireless Internet Launchpad)」の4製品で構成されている。このBREWの構成とドコモの「Java(iアプリ)」の構成を図に示す。

 「ワイヤレス・インターネット・ランチパッド(以下ランチパッド)」は、CDMAの携帯電話機に内蔵するクアルコムの通信用ASIC(Aplication Spesific IC)である「MSM(Mobile Station Modem)」や「MSP(Mobile Station Processor)」に組みこまれる。このランチパッドには、MP3ファイルやMPEG4ファイルの再生機能、USBやブルートゥースなどに対応した他の情報通信機器との接続機能、GPS(全地球測位システム)を使った位置情報機能などが盛り込まれている。BREWのランチパッドが、Javaで言う「JavaVM(Virtual Machine)」に相当する。ランチパッドが、JavaVMと大きく異なるのが、携帯電話のASICに組み込まれていることと、前述した多彩な機能が組み込まれていることである。現時点ではBREW対応のチップの供給がクアルコムのみということもあり、BREWの市場拡大のためにもクアルコムは、将来的には他のベンダー製LSIにも搭載されるよう仕様を開示していくようである。

 「BREWポーティングキット」は、JavaのAPIに相当し、BREWアプリケーションとOSを結びつける働きをしている。アプリケーション開発用ソフトである「BREW SDK」を使えば、ランチパッドに組みこまれている様々な機能と連携したアプリケーションも容易に作成することが可能である。さらにBREWアプリケーションとして、JavaAPIとJavaVMを組み込むことにより、Javaアプリケーションも利用可能となる。BREW SDKは2001年5月より無償提供される。また、「QISミドルウェア」は、携帯電話事業者に対しBREWアプリケーションの認証や課金などの機能を提供するものである。このQISミドルウエアは、iアプリ上での「iモードサーバ」がその機能に相当する。

 クアルコムは移動通信事業者から、BREWのインストール料金とエンド・ユーザーが事業者に支払うアプリケーションの一部を受け取ることとなっている。BREW対応アプリケーション、サービスの登場は2001年第3四半期の予定である。

 クアルコムは現在、各国の携帯電話事業者や端末ベンダー、コンテンツ・プロバイダなどとBREWの導入に対する提携を進めている。すでに、ベンダーにおいては京セラの米国法人子会社京セラ・ワイヤレスや韓国サムスンなど、またBREW対応携帯電話サービスの提供で、KDDIをはじめ、米ベライゾン・ワイヤレス、米リープ・ワイヤレス、韓国のKTフリーテル、メキシコのペガソなどの事業者、BREW対応アプリケーションの開発では、MP3.Com、アクセスなど21社との提携を行っている。

 KDDIは、クアルコムの「BREW」発表と同日にauグループの「EZweb」をBREW対応にすると発表した。まず2001年秋から年末をめどに、auグループのcdmaOneのネットワークと移動機をBREW対応にする予定で、また今秋から商用化する「cdmaOne1x」、2002年からサービスを開始する次世代携帯電話「cdma2000」も、BREWに対応させていく計画である。

 KDDIの小野寺副社長は、「携帯電話機と携帯電話機上で動かすアプリケーションの開発を分離することによって、新製品開発のコストや期間を短縮できることを期待する」と述べた。また、クアルコム側も「JavaよりもBREWの方が複雑かつ速く動くアプリケーションを開発しやすい」と述べている。ただし、BREW上でもJavaアプリケーションは動かせるにもかかわらず、auグループは今夏をめどにBREWとは関係なくEZwebのJava対応を実現する計画である。つまり、auはJavaとBREWの二つのアプリケーション開発環境を提供することになる。いかに良いシステムを導入しても、ユーザーにとっていかに魅力的なサービス、アプリケーションが提供できるかが最大のポイントであり、サービス提供開始されてからのBREWでの多彩で魅力的なアプリケーションが登場することを祈りたい。

<図>クアルコム「BREW」とNTTドコモ「iアプリ」の構成

図表 図表

藤澤一郎(入稿:2001.3)


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