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FCC、携帯電話事業者の周波数上限規制を緩和・撤廃

 米FCC(連邦通信委員会)は2001年11月8日、商用移動無線サービス(CMRS)の周波数上限(スペクトラム・キャップ)および相互出資(クロスインタレスト)に関する規制について票決を行い、規制を見直すことを決定した。内容は以下の通りである。
  1. 2003年1月1日より、スペクトラム・キャップを廃止する
  2. 直ちに、全ての市場におけるスペクトラム・キャップを55MHzに引き上げる
  3. 直ちに、MSA(都市部エリア:Metropolitan Statistical Areas)におけるクロスインタレスト規制を廃止する。ただしRSA(地方エリア:Rural Service Areas)における規制は現状のままとする

 米国の携帯電話市場は、その免許付与構造がかなり複雑である。世界の多くの国では、携帯電話免許を全国免許、もしくはいくつかの地域免許として付与しているが、米国ではかなり複雑であった。800MHz帯における携帯電話免許付与は、全米を306のMSAと428のRSAの計734地域に分割し、各地域内でAバンド・Bバンドの2免許が発行された。人口5万人以上の街を含むエリアをMSA、それ以外のエリアをRSAとした。一方1.9GHz帯における携帯電話(正式名は広帯域PCS)免許付与は、全米を51のMTA(都市部エリア:Major Trading Areas)においてAブロック・Bブロック、493のBTA(基本エリア:Basic Trading Areas)においてC・D・E・Fの各ブロックに帯域を分けて行われた。1999年春にはC・E・Fブロックで、2000年末から2001年初頭にかけてはC・Fブロックでそれぞれ返還されたり売れ残った免許に対し再オークションが行われた。

 スペクトラム・キャップについてこれまでは、1事業者が1MSA内において、800MHz携帯電話、1.9GHz携帯電話およびSMR(Specialized Mobile Radio:日本ではネクスネット社のサービスが相当する)における免許の周波数帯域を合計して45MHz(RSAにおいては55MHz)を超えて保有してはならない、とされてきた。またFCCはクロスインタレスト規制として、複数の事業者のサービス・エリアが地理的に重複する場合、その該当事業者双方へ出資(例えば、あるMSA免許(800MHz)を持つA事業者と、そのMSAとエリアが一部重複するMTAの免許(1.9GHz)を持つB事業者がいる場合、そのA社とB社双方に出資)する際には出資比率を制限(出資上限20%)していた。

 米国の携帯電話免許は地域毎に細切れとなっているため、大手携帯電話事業者にとっては全国を自社サービスでカバーすることがサービス開始時からの念願である。よって大手事業者は、自社が免許を獲得できなかった地域の事業者を買収もしくは提携することでその勢力を拡大してきた。面的展開が進む中で携帯電話が広く一般に普及してくるにしたがい、今度は加入者の絶対数が大きい大都市エリアでは周波数に余裕がなくなってきた。大都市エリアで良質のサービスを提供するための周波数確保が大手携帯電話事業者の課題となっていた。そうした背景のもとでPCS免許の再オークションが行われ、そして今回の規制緩和・撤廃となったわけである。

 スペクトラム・キャップ規制もクロスインタレスト規制も、ともに市場においてある事業者の存在が大きくなりすぎることにより競争が阻害されるのを防ぐことを目的として設けられていたものである。消費者団体では、スペクトラム・キャップやクロスインタレストといった規制は小規模事業者の参入を容易にしてきており、その結果市場での競争が促進されていた、という見解を示している。

 事業者においても反応はさまざまで、これまで携帯電話事業者の協会であるCTIA(Cellular Telecommunications & Internet Association)はこれまでスペクトラム・キャップ撤廃に積極的に活動してきており、CTIAのプレジデント兼CEOであるトム・ウィーラー(Tom Wheeler)氏はFCCの決定直前に、一刻も早くスペクトラム・キャップを外してほしい旨の発言をしていた。その一方で、小規模携帯電話事業者には自社の存続が脅かされるという思いがあり、規制を支持する立場をとる事業者もいた。

 今回のFCCの決定によって、大手携帯電話事業者が主要都市での周波数獲得のため小規模事業者の買収に動き、その結果携帯電話業界の再編成が進むという見方が米携帯電話業界内であるが、その一方で、大手事業者は現在の財務状況では買収に動く余裕がない、と見る向きもある。たしかに45MHzの帯域を使い切っている市場はニューヨーク、ロサンゼルスなどのごく一部と見られ、またPCS免許の再オークションや設備投資などで財務的に決して余裕があるわけではないことから、大手携帯電話事業者が、すぐに買収に動き全米規模での業界再編が起こるとは考えづらい。AT&Tワイヤレスはこの時点で、ネクストウェーブの周波数帯域が獲得できれば主要100地域のうち90地域で3Gサービスを展開するに十分な帯域を獲得しているとの見解を明らかにしており、スプリントPCSにおいてもすでに十分な帯域を確保していると述べている。



岸田重行(入稿:2001.12)
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