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ハイパーアジア
1997年8月掲載

アジアのマルチメディア・プロジェクト

 7月24、25日の二日間、APECの電気通信ワーキング・グループのプロジェクトの一環として、アジア太平洋地域における「電気通信インフラへのビジネス/民間の参画に関するセミナー」が、東京で開催された。今回のセミナーは、APECメンバー間の民間投資による電気通信インフラ整備について共通認識を深めるのが目的で、このコーナーで、これまで3回にわたり紹介してきたマレーシア、シンガポール、香港のマルチメディア・プロジェクトについても、「マルチメディア時代の民間参画」のセッションで取上げられた。各プロジェクトの進捗状況は以下の通りである。

■シンガポール「シンガポール・ワン」

 本年6月9日の「アジア・テレコム'97」の開催にあわせて、「シンガポール・ワン」の商用実験が開始された。第1段階では400世帯が参加し、各家庭には広帯域アクセス・モデム(ケーブル・モデムまたはADSLモデムのいずれか)、広帯域アクセス網に接続するネットワーク・カード、スマート・カードおよびスマート・カード・リーダーを含むトライアル・パッケージが配布されている。実験対象世帯、事業所は本年末までに、最低5,000世帯にまで拡張され、1998年以降、商用のフル・サービスが開始される予定である。同プロジェクトを推進するコンソーシアムは、「1-NET SINGSPORE PTE LTD」で、これには、シンガポール電気通信庁(TAS)傘下のSingCom Investmentが10%、シンガポール・テレコム、シンガポール・ケーブル・ビジョンがそれぞれ30%、インターネット・サービス・プロバイダーであるサイバーウェイとパシフィック・インターネットがそれぞれ15%出資している。

■マレーシア「マレーシア・スーパー・コリドール」計画

「マレーシア・スーパー・コリドール(MSC)」計画を運営するマルチメディア開発公社(MDC)が、APECセミナーで報告していたが、特に新しい情報はなかったと思われる。MSCの完全実施に向けた、2020年までのフレームとして、


第1段階(2004年まで):
MDCは国際的クラスの企業を誘致、サイバー法の枠組み、7つの基幹アプリケーションである、1.世界初多目的カード、2.研究開発拠点、3.電子政府、4.国際的遠隔製造網、5.国境を超えたマーケティング・センタ、6.遠隔医療、7.遠隔教育、の運用をこの段階で実現する。


第2段階(2005年〜):
マレーシア国内と海外に複数のMSCを設置。国際的な企業の誘致、基幹アプリケーションの世界標準化、グローバル社会におけるサイバー法の設置。海外のインテリジェント・シティとの回線接続等を計画。


第3段階(2020年頃まで):
マレーシア全土にMSCプロジェクトを広げ、国際的な企業のさらなる誘致、12の海外サイバージャヤとの間を情報ハイウェイで結び、国際サイバー法廷をMSCに開設する。

 この他、MSCの参画について、国籍、企業の大小は問わないが、マルチメディア事業に携わっていることが条件となる。また知的従業員を実際に雇用しているか、サイバーシティの指定地を了承するか、環境重視の規定を遵守するかなどが問われる。

■香港「香港テレコム・インタラクティブ・マルチメディア・サービス」

  高度なインフラ整備がかなり進んでいることもあり、最もアプリケーションを重視した内容を報告したのが、香港インタラクティブ・マルチメディアで、唯一民間主導ということからか、ビジュアルでも、見せるプレゼンテーションを行っていた。(1996年7月から延期されており)7月9日に開始する予定だったインタラクティブTVの商用サービスについては、10月あるいは11月から実施され、ホーム・ショッピングが提供される。来年始めにはネットワーク・ゲーム、3月からはホーム・バンキングの開始を予定している。

 インターネットについて、マレーシアがインターネットの無検閲を公約しているのに対して、シンガポールはコンテンツについて規制を強化する動きを見せている。姿勢の違いについて、各国は今回のセミナーで次のように説明していた。マレーシアは、インターネットの規制は、技術的な問題であり、急速に進歩している分野を規制するのは非常に困難でコストがかかるため、社会的に望ましくない情報については、啓蒙活動を図る等、別の方法でコントロールしていきたいと述べたのに対して、シンガポールは、直接の回答は避け、インターネットのコンテンツ規制は、文化的問題と位置づけており、規制機関も放送関係のシンガポール放送庁(SBA)であると述べるに留まった。いずれにせよ、インターネットはボーダレスな問題であり、自分達で対応できる範囲で、望ましくない情報について規制していきたいとしていた。

 アジア太平洋地域をはじめ世界各国では電気通信インフラの需要が高まっているが、多様化するニーズに応え、急激な環境変化に対応するためには、民間の資金やノウハウを活用することが不可欠である。自由化、競争導入を並んで、通信インフラ開発を長期的な視点で政策、方針を策定し、公表することが、民間投資を促進・継続するのに必要であり、3カ国はその良い例と言えるだろう。

武川 恵美
編集室宛 nl@icr.co.jp
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