ホーム > レポート > Hyper Asia >
ハイパーアジア
2000年7月掲載

IT需要で、アジア経済は予想以上の回復

   経済企画庁は、6月21日、「アジア経済2000(アジア経済白書)」を発表した。同白書では、特にアジアの「IT(Information Technology:情報技術)」に関する一章を設け、急速に発展する世界的なIT需要の高まりが、新たな「アジアの奇跡」を起こす可能性があると指摘している。朝日、毎日、読売、産経、日経、日本工業の各紙が6月22日に、「アジア経済2000」の発表を報じている。

1.再び「アジアの奇跡」の可能性

 アジア経済は、1997年からの通貨危機以降、国際的な支援や構造改革をテコに再び回復路線に乗せており、99年には、アジア開発銀行の見通しを上回る急回復をみせた。当初成長率が2.0%とされた韓国は10.7%、ゼロ成長と見込まれたタイは4.2%となっている。

 急回復の主因は、輸出で、半導体やコンピュータなどを軸に急増した。米国を中心に情報技術(IT)関連機器の需要が伸びたことが大きく、収縮していた域内貿易も各国の経済の立ち直りで急速に増加した。また、生産活動が活発になったことで雇用情勢が改善し、金融危機の買い控えの反動もあって消費も回復した。

 ただ、「予想以上の景気回復を遂げている中で、構造改革への取り組み姿勢に緩みが見られるのは問題」であるとも指摘。インドネシアの回復が遅れるなど、経済構造や政治情勢の違いによって格差も見られるため、「改革を漫然と列挙するのでなく、各国の実状に優先順位を明確にした上で長期的に取り組むことが重要」と結んでいる。

2.IT経済化指標

 白書では、日本を含むアジア各国・地域のIT化の進展度合いを初めて数値化し、米国で比較しているのが特徴。企画庁が算出した3種類の「IT経済化指標」は、様々な統計数値を標準化したうえで、合成、偏差値を求めている。対象国は、シンガポール、香港、台湾、韓国、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、中国、日本および米国の12の国・地域である。

■IT経済化指標

  1. 産出指標:オフィス機器、通信機器など産出額から集計、IT関連機器の生産水準を示す
  2. 基盤指標:電話加入者、コンピュータや携帯電話の普及率、インターネット利用者数、電子商取引などから集計
  3. 知識指標:TOEFL平均点、大学進学率、米国への留学生数、技術開発者数、特許出願件数などから集計

図表

(1)産出指標(IT製品の生産力)
  • データ処理機器に強みを持つシンガポールが81.1と他の国・地域を圧倒
  • 日本は50.3
(2)基盤指標(インフラ整備)
  • 基盤指標は、米国が66.8と一歩抜け出している(12カ国・地域の平均=50)。
  • 日本が56.6、NIESのシンガポール、香港、台湾、韓国が50〜56とほぼ横並び
  • 日本は電子商取引額などでアジア各国を上回るものの、携帯電話やインターネットでは、シンガポールや香港が日本より先行
  • 工業化で必ずしも成果を上げていないインドやフィリピンでも、ソフトウェア産業の水準が高い 
(3)知識指標
  • 日本が60.6と、米国に次いで2位と比較的優位を保っている指標
  • 日本優位の背景は、高水準の進学率や技術開発者数や特許出願件数の多さ
 白書は、知識指標が高い国々は、規制緩和の推進や人材強化などで潜在的な可能性を高めれば、工業化の過程を飛び越えて、一気に産業構造を高度化できる、と指摘。日本、NIES、ASEANと工業化の度合いに応じた従来のアジア経済の雁行的な序列が崩れる可能性が非常に高いとしている。

3.IT革命の経済的特質

 白書では、IT革命の経済的特質として、
  1. 技術的変化が早い上、学習コストが小さい
  2. 情報・知識資産の価値が本質になるが、その投資効率が著しく高い
  3. 生産性向上においてITと企業組織との間に補完性がある
  4. ITの普及が取引費用の低下を通じ、消費・生産に対し好循環をもたらすというネットワーク外部性が存在する
などを指摘している。

 その結果、アジア経済に与える影響としては、「IT経済化が工業化と比べ、スピードが圧倒的に速いため、アジアのIT経済化が域内需要の創出に転換するにはそれほど時間を要しない」としている。

4.各紙の報道

「アジア経済2000」の各紙の取り扱いを、見出しから分類する。
 アジアの経済回復を中心に報じているのは、読売、毎日、産経、日本工業新聞の4紙である。
  • 「ITがアジア活性化、ニュー・エコノミー移行も」(読売)
  • 「アジア経済 急回復、IT革命で輸出大幅増、再び『奇跡』の可能性」(毎日)
  • 「ITでアジア経済回復、ニューエコノミーへ移行も」(産経)
  • 「IT需要などで予想以上の回復」(日本工業)

 日経は、IT経済化指標に的を絞って報じており、日本のITを支える人材の層の厚さを示す「知識水準」はアジアで最も高いものの、インフラ整備では、シンガポールが香港・台湾と同水準であり、IT分野での日本の優位性は依然確立されていないとしている。

  • 「ITインフラ、米に後れ、日本、香港・台湾と同水準、人材の層は厚く」(日経)

    朝日は、経済回復、指標を同程度に取り上げているものの、「首位日本、危うし?」と、日本のIT分野の整備の後れに対する危機感を煽るような見出しであった。

  • 「ITで発展の序列変化、首位日本、危うし?途上国、一気に高度化も」(朝日)
NTT西日本 企画部 武川 恵美
編集室宛 nl@icr.co.jp
▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。