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ハイパーアジア
2004年6月掲載

アジアのITと選挙

 インドで2004年4月20日に始まった総選挙は、世界初の大規模な電子投票で行われた。
 2003年11月の国連調査によると、日本の電子政府の整備状況は国連加盟国中18位。12位のシンガポール、13位の韓国に遅れをとっている。インドの電子投票の実施状況と、インターネットや携帯電話の進展がアジアの選挙に及ぼす影響について触れる。

■インドの電子投票

 インドには、約6億6,000万人の有権者がおり、今回の総選挙(下院、定数545、うち2議席は大統領が指名)では、全国各地の投票所で約73万台のコンピュータ式投票機を使った電子選挙に、約3億7,000万人が投票した。投票は時間差で進められ、4月20日〜5月10日まで5回にわけて行われ、13日に一斉に開票が行われた。ブラジル、米国、オランダなどでも電子投票システムは採用されているが、使用台数がこれほど多く大規模な投票は、インドが初めてである。

 これまでインドでは、投票用紙に拇印を押す方式で投票が行われてきた。今回の投票方法の変更は、政治に大きな影響を及ぼしている。支持派は、「電子投票システムは環境にやさしい」という利点があると主張する。また前回までは3日以上かかった開票作業が24時間程度にまで短縮されたことも導入メリットであろう。しかし最大の効果は、インドの選挙では必ず問題となっていた投票の不正行為への対処である。

 何十万もの村がある広大なインドでは、投票所の占拠や輸送途中の投票箱が強奪されるといった危険がある。Electronics Corporation of India Limited とBharat Electronics Limitedが製造した小型で携行可能な投票機は、選挙管理委員会が操作するコントロール・ユニットと有権者が投票を行う投票ユニットがケーブルで接続されている。トラブルの徴候が見えたら、選挙管理委員会はすぐさまボタンを押すだけで、機械を停止することができる。

 電子投票の実施に全く問題が生じなかったというわけではない。4月20日には、いくつかの地域で機械に問題が生じ、修理の間、しばらく投票が停止された。また、インド中部では、投票に反対するグループが選挙管理委員達を攻撃し、4名を負傷させて投票機を奪ったという事件も発生している。

 日本とはかなり異なる環境下での電子投票であるが、「e-Japan」に向けたアジアの先進事例の1つといえよう。

■携帯メールが選挙活動に

 東南アジアでは、携帯電話のショートメール(SMS)が、情報伝達の手段として若者の間で人気が高まっている。しかしSMSは、数千の携帯電話に一斉にメッセージを伝達することが可能なため、SMSを通じて流れる情報が社会不安を招く一因となる可能性がある。

 3月に行われたマレーシア総選挙では、トレンガヌ州で暴動に関する情報がSMSを通じて流れ、実際に集まった群衆による乱闘事件が発生した。事態を重視した州警察は「SMSで治安悪化に関するうわさや情報を流した場合は、国内治安維持法を適用する」と、警告した。

 また5月10日のフィリピン大統領選では、特定候補者への投票依頼から誹謗中傷までがSMSを通じて流された。これは候補者の選挙事務所による組織的な選挙運動の一環として行われていると見られている。各陣営は、新たな選挙運動の方法としてSMSに注目しているが、SMSの社会的影響は大きく、悪用防止の手立てが求められることになろう。

◆シンガポールは迷惑メール防止法制定へ

 シンガポール政府は迷惑メール防止法の制定に乗り出している。2005年初めに施行される予定で、業界や一般の意見聴取を開始した。防止法案は、電子メールで広告や宣言を大量送信する場合、受信を拒否できる「オプトアウト」の手続きを提供する、送信者の正しい電子メール・アドレスと現住所を明記、広告であることを件名に表示するなどを義務づけている。実現すれば、迷惑メールで損害を被ったインターネット接続業者が送信者を提訴できる。ただし、シンガポール情報通信開発庁(IDA)によれば、同国で受信する迷惑メールのうち、海外からが77%と圧倒的に多く、国内規制の効果は限定的と見られている。

<寄稿> 武川 恵美
編集室宛 nl@icr.co.jp
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