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マンスリーフォーカス
No.47 June 2003

世界の通信企業の戦略提携図(2004年9月8日現在)

184.新型ネットワークサービス企業の金融市場評価(概要)

 元祖オンライン小売業のアマゾン・ドット・コム(1994年創業/1997年5月上場)、オンライン競売最大手のイーベイ(1995年創業/1998年9月上場、オンライン広告最大手のヤフー(1995年創業/1996年4月上場)に続き、オンライン検索最大手のグーグルが新規株式公開 IPO)を行った。

 グーグル株式の上場(IPO)は、(1)差し迫った資金需要がないのに行われた、(2) 公開に伴う公募増資に異例の割勘式競売方式を採用した、(3)公開株の売買を通じて仕掛けられる敵対的買収(TOB)に対する予防策を講じたなど特徴的だが、(4)手続中の「内密期間の定めに違反した疑いを持たれ新規株式公開計画を一部修正し、(5)直前に公募・売出価格の予想範囲を引下げるという異例の経過で行われた。

 グーグルはIPO計画書をSEC(証券取引委員会)に提出(2004.4.29登録)する1週間前の2004年4圧22日に共同創始者L・ページとS・ブリンがプレイボーイ誌インタビューを受けたことを計画書に記載しなかったところ、同誌発売後記載モレを指摘され記事内容全文を加えた修正計画書を提出させられた。IPO手続は株式売出し(オファー)に関する全書面情報を関係書類に含めることとしており、録音から起したテキストについて後日署名しているため記載モレにはなる。内密期間を理由に永い間 IPO見通しを語ることを拒んできた二人が最後に足を掬われた感じである。

 グーグルは当初のIPO計画書提出(2004.4.29登録)で資金調達規模$27億/公募価格による時価総額$250億と発表し、株式上場先にナスダックを選び(2004.7.12発表)、一株当り募価格$108-$135で2,500万株売却とし(2004.7.26届出)、入札方式による一般投資家からの新規公開株購入を受け付けるため専用のホームページを開設したが(2004.8.3開始)、SEC承認の遅れによる需要減を警戒して、2004年8月19日上場の前日朝一株当り募価格$85-$90で1,950万株売却と規模を縮小した。なお、ヤフーは買収したインターネット広告検索技術企業オーバーチュア(2003.7.14合意,2003年末100%子会社化)がグーグルを特許権侵害で訴えていた訴訟を継承していたのを、グーグルがヤフーに技術ライセンス料を含む和解金として株式を提供することで和解した(2004.8.9に270万株で合意、その後公募価格修正に伴い調整中)。

 情報通信産業の構造変化に伴いこれまで随時「世界の情報通信サービスプロバイダー」の枠組みを変えてきたが、変化の方向が見えてきたので下記のような考え方により2010年まで対応できそうなトップ30社ラインナップ編成を考えてみたい。

  1. 従来通りニューヨーク証券取引所(NYSE)登録株式の米ドル($)表示時価総額の大きいものから並べる。
  2. NTTとNTTDoCoMoのように、グループの基幹企業とそれに連結される上場子  会社は金融市場の評価で独立性が高いと認められる企業はラインナップ上生かす。一種の重複感があっても、連結売上高・純利益と違い問題ないと思われる。
  3. ベルテルスマン(Bertelsmann)のように非上場の企業、またニューヨーク証取預託株式NYSE (ADR)がなくローカル市場だけの企業はラインナップに載せない。
  4. 途上国企業も先進国企業と同様に扱う。
  5. 情報通信サービスプロバイダーとは、音声・データ・映像通信サービス提供企業、新聞・出版(雑誌/書籍)・印刷・放送(ラジオ/TV/ケーブルTV)・AV(音楽/写真/映画/ビデオ)・ゲームなどメディア企業、新型ネットワークサービス企業(インターネットによる小売/競売/広告/検索など)とする。

表 世界の情報通信SP Top30(2004.9.1現在)

185.IP電話時代の顧客獲得戦に勝つのは誰か(概要)

 ビジネスウィーク誌(2004.1.12)が「米国通信産業の下げ潮は終わった、ブロードバンドとVoIPがビジネスモデルを変える」と報じてから半年以上経った。年初以来の景気回復に伴い米国通信産業は上げ潮に転じたが、春から米国経済の変調が兆し市内通信料金規制の枠組み転換もあり現在電話料金の厳しい値下げ競争が展開されている。

 僅か2年前ベライズン、SBCコミュニケーションズ、ベルサウス、クェスト・コミュニケーションズ・インターナショナルなど旧ベル系地方持株会社(RHC)を始め、米国の市内通信企業は長距離通信網アクセス・インフラを持ち携帯電話子会社を抱えて前途洋々に見えた。今は新規参入携帯電話会社・WLANその他の無線通信企業・長距離通信会社に加入者を奪われ、RHC4社は2000年以来固定系2,800万回線を失い住宅用回線を年率4%づつ奪われている。

 値下げ競争の基本である通信料金はコスト原理、料金設定単位、略奪的コスト割れ料金の是非など理論は簡単だが、設備投資・業務運営などを含む戦略と実際はケース・バイ・ケースになる。
米国の場合ルーラル地域は昔から低コスト・低サービスの電話に慣れており20世紀初頭に1000社以上の小電話会社あり、今も何百加入かあればペイするものが約2000社あり既に高速無線インターネットによる電話・携帯・データ通信提供中のものも多い。
3大長距離通信事業者AT&T・MCI・スプリントは2003年末までに2003年末までにブロードバンドやVoIPサービスを始め、2004年にはブロードバンド料金を値下げし、VoIP無制限メニューを小刻みに上げ/下げし、高額無制限を打ち出し導入期間半額割引で客を集めるマーケティングを展開している。かつての時分制料金は消えパッケージ化・割引戦略が日常化している。
ケーブルTV会社もブロードバンドを活用するVOIP戦略をとっている。Comcastはウォルト・ディズニー買収中止で経営陣の信念が揺らいだが、直接衛星放送に奪われた収入減をデータユーザで埋めるよう努力中である。ケーブルヴィジョンやコックス・コミュニケーションズもIP電話を始めた。

 RHC4社には最下位のクェストを含め夢がある。クェストはコックスにケーブルTV加入者を奪われ過去2年間に10,000名レイオフしたのにWiMaxのテストをしている。ベライズンは「Verizon One」という普通の電話機の姿で高速インターネットモデムを内蔵カラースクリーンを備えたインターネット・アクセス/IP電話/TV会議端末を開発中である。RHCが無駄な回り道を経て疲弊して行くのか最後に笑うことになるのか注目される。

186. ボーダフォンのアジア戦略(概要)

 ボーダフォンは2004年6月30日現在世界26カ国16社が1.39億加入者にサービス提供するヨーロッパ最大の移動通信サービス企業である。最近まで世界最大だったが中国移動通信が1.5億加入を超え世界最大になったためヨーロッパ最大と自称している。

 2004年次決算書を見ると業績が良いのは米国、ドイツ、スペインで、競争の激しい英国やイタリアでは伸び悩みである。大陸別構成はヨーロッパ66.3%、米国12.9%、中近東・アフリカ4.5%、アジア16.3%となっている。

 ボーダフォンのアジア戦略は中国に始まった。WTO加盟に伴う外資規制緩和に先立ち、(2000年10月に国営中国移動通信集団公司の外資導入チャンネル中国移動(香港)の新株40%を現金$25億で引き受けた。巨額の現金で出資比率2%は桁外れだが人口世界一の大市場にGSM規格を持ち込むためと説明された。その後の経過はクァルコムのCDMA導入、中国独自規格開発、簡易携帯電話導入など競争企業と中国政府に振り回された感じもあるが、リスクテイキングな挑戦であった。

 次はケーブル・アンド・ワイヤレスのオーストラリア子会社オプタスをシンガポール・テレコムと競い敗れた交渉である(2001年3-8月)。しかし、グローバルM&A時代は条件が変れば「昨日の敵は今日の友」の言葉通り新たな提携が始まる。

 オーストラリア携帯電話市場でシェア第1位(46%)のテルストラ、第2位(35%)のオプタスに次いで第3位(16%)で集客努力を続けてきたボーダフォンが、次世代携帯電話(3G)導入を控えシンガポール・テレコムと3G共同網建設を合意した(2004.8.26)。香港のハチソンワンポア(HWL)がハチソン・テレコム・オーストラリア( HTA)を設立し英国やイタリアでサービス開始した3Gサービスを始めた。試験的だったが1年で倍増し(2003年6月末297,296→2004年6月末626,476)、8月半に入り70万加入に近づいたところでテルストラがHTA株式50%をA$4.5億で買収した直後である。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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